来客
やってきたアーカス子爵は、剝げ頭のでっぷり太った老人。そしてその子供は、煌びやかな服をまとった30代の中年男だった。
二人とも両目の間が開いているので、どこかカエルに似ている。
「アーカス子爵様。ようこそいらっしゃいました。ヴァルハラ男爵家当主、エリザベスでございます」
エリザベスが殊勝に頭を下げると、後ろに控えていたサクセスたち三人もそれにならった。
馬車から降りてきた子爵は、そんな彼らを見て鼻で笑う。
「家臣や使用人はどうした。それだけか?」
「当家で雇っている家臣は我々だけですので。私は家宰であるサクセス・ゴールドマンと申します。以後お見知りおきを」
サクセスがにこやかに挨拶するが、子爵は彼を見ようともしなかった。
続いて、軽薄そうな中年男が挨拶する。
「ちゃーす。君が聖女エリザベス?かわいいねぇ!。僕はアーカス子爵三男のフロッグっていうんだよ。よろしくー」
いきなりエリザベスにかけよって、なれなれしくその手を握る。エリザベスはびっくりして、笑顔を浮かべたまま硬直した。
「ち、ちょっとお待ちください。エリザベスさまになにを……」
「おや?君は騎士かい。いいねえ。その体。ふふふ、妾としてたっぷりかわいがってあげるよ」
「ひ、ひいっ」
粘着質な目で見つめてくるので、エレルは鳥肌がたってしまった。
「なんだこの馬鹿ボン。人の領地に来て勝手なふるまいを!」
あまりに無礼な態度でガラハットが憤慨するが、サクセスが前にでた。
「まあまあ、それくらいで。ささやかながらお食事の用意ができております。 ここは寒いですから、中にお入りください」
サクセスにせかされて、一同は中に入っていった。
食堂では、用意された食事にアーカス子爵ががっついていた。
「はむはむ……やはり田舎料理だな。料理はまずいし酒も安物とは。ごぐごく、我々のような高貴な客を迎える態度がなっておらん」
エリザベスが精一杯がんばってつくった料理や、王都との交易で手に入れた酒をがぶ飲みしながら悪態をつく。
その隣で、フロッグはひたすらエリザベスに話しかけていた。
「エリザベスって長いから、エリスって呼んでいい?」
「え、えっと……」
「決まり!それでエリスちゃんって婚約者いるの?」
いきなり聞かれて、エリザベスは動揺する。
「え、えっと……いませんが……その……」
サクセスのほうをチラチラみながら視線で助けをもとめるが、フロッグはさっさと話を進めた。
「父上、婚約者はいないみたいですよ。これで決まりですね」
「うむ。三男とはいえワシの息子をやるのは惜しいが、ありがたく思えよ」
アーカス子爵とフロッグは二人だけで納得しあっている。たまらずにエレルが聞き返した。
「あの、息子をやるとはどういうことですか?」
「知れたこと。親も後ろ盾もおらん端女を哀れにおもって、わしの息子を婿にやるといっておるのだ」
パンくずをたくさん顔につけて、子爵は堂々と言い放った。
あまりの言葉にショックを受けたエリザベスだったが、次の瞬間全力で拒否する。
「そ、そんな!そもそも私はまだ14才で成人もしていません。結婚なんて……」
「心配するな。そこは婚約者ということでよい。それから貴族は15歳になったら王都の魔法学校に入学義務があるが、いかなくてよいぞ。入学金がもったいないし女に教育なと必要ないからのう」
子爵は突き出た腹をゆすって笑う。隣でフロッグもニヤニヤとしていた。
「お、お断りいたします」
「ほう。辺境の男爵家の分際でワシの息子が気に入らんとな?ならば王都への街道を封鎖するぞ」
アーカス子爵はそう脅しをかける。たしかに王都への道は、子爵の領地を通っているので、そこを封鎖されたら交易ができなくなることは間違いなかった。
沈黙するエリサベズたちに向かって、子爵はさらに言い募る。
「明日は領内を視察に回らせてもらおう。将来息子の領地になるのじゃからな」
子爵は上から目線でそう命令してくるのだった。
次の日
一行は二手に分かれて領内を回っていく。農村を回る馬車にはエリザベスとフロッグ、そして護衛騎士エレルが乗っていた。
「やっぱり田舎だねえ。なーんにもないよ。僕がいた王都では、いろんな店があってね」
フロッグは気取ったしぐさで王都での楽しい暮らしを自慢するが、そもそも都会に出たことがないエリサベスにはよくわからない。
「そ、そうですか。たのしそうですね」
「僕と結婚したら、たまには王都につれていってあげるよ。きれいなドレスや宝石も買ってあげる」
「あの……私は特に欲しいものはないのですが。それに、そんな贅沢品を買うお金なんて……」
やんわりと、自分には必要ないものだと伝えたが、フロッグは意に介さなかった。
「大丈夫大丈夫。お金なんて民から絞ればいくらでも出てくるものなんだから」
こんな調子で、ひたすらしゃべり続ける。
「フロッグ殿、いい加減にしてください。エリザベス様が困っています」
エレルが諌めるが、フロッグは彼女にもねっとりとした視線を向けてきた。
「ふふふ、君もいいなぁ。真面目でスレてない所が可愛いよ。僕がこの領の主になったら、君たちをじっくり調教してあげるよ。エリスちゃんは可愛いからメイド服を着せて、エレルちゃんは捕らえられた女騎士プレイを楽しんで……」
何やら危ない目をしてブツブツとつぶやく。
エリザベスとエレルは生理的な嫌悪感を感じて震えるのだった。
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