猫
エルドリン村
その夜は盛大な宴が繰り広げられていた。
「そこで、俺はアイスゴーレムと戦って……」
『光の剣』を村人たち見せびらかしながら、レオンは自分の武勇伝を語る。
「レオン様、すごい!」
「勇者様って強いんですね」
煽てられてレオンはいい気分になる。
「最後には、『光の剣』で核を貫いて倒したんだ」
いつのまにか自分がゴーレムを倒したことになっていたが、エリサベスもサクセスも否定しようとしなかった。
「やれやれ。大変だったな」
「お疲れ様」
エリサベスはサクセスの隣にすわって、甲斐甲斐しく給仕している。不思議に思ったシャルロットは聞いてみた。
「なぜあなた達は反論しないのですか?手柄を横取りされているというのに」
そう聞かれた二人は、キョトンとした顔になる。
「サクセスから聞きました。レオン様は『冒険者貴族』として名声を手に入れないと立場がないのでしょ?私たちにはそんなもの、必要ないですから」
「レオン様が勇敢に戦われたのは事実ですし、誰が倒したかなんてどうでもいい話ですよ」
どうやら、二人ともレオンに華を持たせるつもりらしい。
(二人とも大人だなぁ。でも、これから学園で主人公をいじめないといけない私はどうすればいいんだろう。果たして、こんな二人相手に子供のいじめなんて通用するのかしら)
考え込むシャルロットの前に、ワインが入った杯が差し出される。
「そんなことより、一杯どうです?」
「え?あ、あの、私は未成年で……」
「大丈夫ですよ。私もそうだもん。領主であるエリサベス・ヴァルハラが許します。どうぞ!」
エリサベスは赤い顔をして勧めてくる。どうやら彼女はすでに酔っ払っていい気分らしい。
「そ、そうですか?ではちょっとだけ。美味しい!」
「そうでしょ!」
エリサベスとシャルロットは杯を傾けあい、意気投合する。
「シャルロット様は、魔法学園に通われているんですか?」
「いいえ。まだよ。来年の春から通う予定なの」
「嬉しい。私もそうなんです。学園に行く前に友達ができました」
エリサベスの言葉に、シャルロットはハッとなった。
「と、友達?あなたと私が?」
「駄目ですか?」
目をうるうるさせるエリサベスに、シャルロットはキュンとなってしまった。
「か、かわいい。い、いや、別にいいんだけど……物語が狂わないかしら?」
「ありがとうございます。やったー。シャルロット様大好き!」
酔ったエリサベスは、そういって抱きついてくる。
サクセスはそんな仲むつまじい二人をみて、頬をゆるめていた。
次の日
サクセスたちは、シャルロット達の見送りに来ていた。
「皆さん。ご迷惑をおかけしました」
そうペコリと頭を下げるシャルロット。
「いえいえ。魔法学園でも仲良くしてくださいね。これをどうぞ」
エリサベスはそういって、クッキーが入った籠を差し出した。
「私からは、これをあなたに」
サクセスは優雅なしぐさで、大きなダイヤのペンダントを差し出す。
「え?い、いいの?」
「ええ。あなただけ冒険の成果の分配がないのは不公平でしょうし。村長たちに加工してもらいました」
そういいながら、首にかけてあげた。
「あ、ありがとう。ポッ」
顔を赤らめるシャルロットを見て、エリサベスはポカポカとサクセスを叩く。
「いたいいたい。やめてくれ。お前の分もちゃんとあるから」
そういうと、一回り小さいダイヤのペンダントをエリサベスに渡した。
「やった。お揃いだ。ちょっと小さいけど」
「身内を贔屓するわけにはいかないだろ。我慢してくれ」
「むう……なら、仕方ないわね。でも、嬉しい」
エリサベスはニコニコと笑いながら、ペンダントを首にかけた。
「あなた、本当にしっかりしているのね。見直したわ。まるで大人の紳士みたい……って。もしかして」
シャルロットが何か言いかけた時、馬車の中から声がかかる。
「いつまでかかっているんだ。さっさと王都に帰るぞ。魔法学園に入る前に、職人に頼んでこの剣を綺麗に飾り立てるんだからな」
馬車の中で光の剣をうっとりと眺めていたレオンがそういってきた。
「仕方ないわね。二人ともありがとう。またね」
シャルロットは馬車に乗って去っていくのだった。
「しかし、騒がしい奴らだったな」
「そうね。でも楽しかったわ」
二人が顔を見合わせたとき、鳴き声がして子猫が近寄ってきた。
「あら?あなた、まだいたの?」
「みゃあ」
灰色の子猫は、エリサベスに懐いたのか体を摺り寄せてきた。
「ああ、これは『炭猫』といって北の国じゃよく見られる猫型モンスターですよ。薪の炭が好物でそれだけ食べていれば生きられるので、ペットとしてよく飼われています」
猫をみた村長が、そう説明する。
「一応念のため。『鑑定』。えっと……うん。ただの炭猫だな」
メガネで見たところ、何の異常もないので安心する。
「でも、こんな所で何しているんだろう」
サクセスが疑問に思っていると、炭猫は馬車に積まれている石炭に近寄って、バリバリと食べ始めた。
「珍しいですね。石炭を食べるなんて」
「まあ、炭も石炭も似たようなものではあるけどな」
その時、夢中になって石炭を食べている子猫をエリサベスが抱き上げた。
「あらあら、だめよ。石炭で汚れちゃうでしょ。仕方ないなぁ。綺麗にしてあげる」
「にゃっ?」
それを聞いた子猫はもがくが、エリサベスは放してくれなかった。そのまま水場につれていかれて、洗われてしまう。
「はいはい。いい子。『クリーニング』」
「にゃん!」
水洗いで汚れを落とした後、光の浄化魔法をかけると、子猫はふわふわの毛を持つ白猫になった。
「はい。綺麗になった。ふふ、かわいい」
「にゃあ」
子猫は恨めしそうにエリサベスを見上げるが、あきらめたのかおとなしくしていた。
「ねえ、サクセス。この子を飼ってもいい?」
上目遣いで聞いてくる。
「まあ、石炭はたっぷりあるし、餌代が安くつくからいいかもな」
「やった。あなたの名前はチャコよ」
「みゃあ」
エリサベスは嬉しそうにチャコを抱きしめるのだった。
読んでありがとうございます。評価していただけると更新スピードが速くなります
また、よろしければ感想をお願いします。




