冒険の開始
エルドリン村
「いいですか?私たちだけでいきます。絶対についてきてはいけませんよ」
護衛たちに、シャルロットは言い含めていた。
その隣では、サクセスが村長と話し込んでいる。
「ここは、廃坑跡なのか?」
『光の剣』があるという洞窟の地図をみながら確認する。
「はい。もっとも我々がここに村をつくるはるか以前に廃坑になっておりまして、我々も中をよく知らないのです。以前このあたりにあった村は、闇の吹雪で全滅したと伝承に残っております」
「闇の吹雪?」
顔をしかめるサクセスに、痺れを切らしたのかレオンが怒鳴りつけた。
「おい。いつまでぐずぐすしているんだ」
「少しお待ちください。準備してからいかないと……村長。明かりを用意してくれ」
「かしこまりました」
サクセスの手配で、この村で使われている照明器具が持ち込まれる。それはランプのようだったが、火口が魚の背びれのように広がっていて周囲を明るく照らしていた。
「なんだこれは。ランプじゃないのか」
「サクセス様が発明してくださった『ガス灯』でございます。石炭を蒸し焼きにしたときに出るガスで明かりがつきます」
村長は下部についている箱を指差す。そこには、ガスを蓄積した魔石がセットされていた。
「あれ?ダンジョンの捜索は主人公の光魔法で行うんじゃなかったっけ。細かいところがちょいちょいちがうなぁ」
シャルロットは何事かつぶやいている。
「何でもいいから、いくぞ!」
こうして、パーティは廃坑に入っていった。
ダンジョンの中
「ううっ。暗くて不気味。ねえ、やっぱりエリザベスさんの光魔法で中を照らさない?」
ガス灯を持ったシャルロットがそう提案してくる。当たり前だがダンジョン内は暗く、ガス灯の明かりでは足元がよく見えなかった。
「だめですよ。明かりに光魔法を使ったら、いざという時に魔力が足りなくなって治癒魔法が使えなくなります」
サクセスは、無情にも却下する。
「うう……。たしかにそうなんだけどぉ。ゲームじゃ魔力が尽きた主人公をかばって王子が活躍するって設定だったのに……執事の意地悪。ふぎゃっ!」
何か考え事をしながら歩いていたせいで、シャルロットが転んでしまった。
「お嬢様。大丈夫ですか?お手をどうぞ」
それを見て、サクセスが手を差し伸べる。
「や、やだイケメン。い、いや、惑わされてはだめよ。彼は主人公の攻略対象なんだから。悪役令嬢の私とは無縁なはず」
顔を真っ赤にするシャルロットに、レオンとエリサベスがふくれっ面になる。
「お前!シャルロットに気安くふれるな!」
「サクセス……ほかの女の子ばっかりやさしくして!」
二人が叫んだとき、何かが襲ってきた。
「キイイ!」
そんな叫び声をあげながら、黒い影が天井から降ってくる。
「任せて!『銀氷矢』」
シャルロットの指輪がきらめくと、白い氷の矢が無数に生み出されて、影を串刺しにした。
「これはダークバットですね。魔物化したコウモリで、残念ながら素材の価値はないみたいです」
地面に落ちた魔物を、サクセスが鑑定する。
「シャルロット様。すごいです。こんなに強い攻撃魔法、初めて見ました」
エリサベスは、尊敬の目でシャルロットを見つめていた。
「そ、そうかな?」
「そうですよ。頼もしいです。憧れます」
照れるシャルロットを、エリサベスはさらに褒める。
「えへへ……え?あれれ?どういうこと?主人公と私は憎み合う運命なのに。尊敬されるのって?」
「そうだぞ。シャルロットは強いんだぞ。俺の自慢の婚約者なんだ。全部任せれば安心だ」
困惑するシャルロットの脇で、なぜかレオンが威張っていた。
「え?あなたがシャルロット様の婚約者?かわいそう」
「どういう意味だ!」
怒るレオンを見て、シャルロットはため息をついた。
(小さい頃から、ちょっと面倒を見すぎたのかしら……でも、相手は王子だし、あんまり冷たくするのもいけないと思ってたし)
まるで弟のように自分に依存してくる彼を、頼りなく思ってしまう。
(まあいいわ。奥には王子にしか倒せないアレがいるし。アレをやっつけることで、自信をもってもらえれば)
気を取り直して、ダンジョンの奥に向かうのだった。
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