出会い
「俺はレオン。新たなる勇者になる男だ。お前たち、俺に会えたことを誇るがいい」
少年は堂々と名乗りを上げるが、それを聞いた村民たちはポカンとしていた。
「勇者って?なんだそれ?」
白けた雰囲気が漂ってしまう。その時、反対側のドアが開いて、銀髪の美少女が降りてきた。
「何言っているのよアホ王子。まだ何もしてないのに勇者を名乗っても、相手にされるわけないでしょ。それより、猫は?どこにいるの?」
何事かつぶやきながら、きょろきょろと辺りを見渡す。
すると、近くの炭鉱から小汚い灰色の子猫がやってきた。
「にゃーん」
猫はあまり食べてないのか、ガリガリにやせ細っていて、よちよちと馬車に近づいてくる。
「あ、あの子ね。今さら来ても遅いのだけど……。まあいいわ。こっちにいらっしゃい」
銀髪の美少女はクッキーを取り出して、猫をさそう。
しかし、その猫はレオンを見ると、威嚇してきた。
「ふーーーっ!ぐるるるるる!」
自分をみてうなり声をあげる猫に、レオンは不機嫌になる。
「なんだこの汚い猫は。あっちにいけ!」
「ふぎゃっ!」
猫はレオンに蹴飛ばされ、叫び声をあげる。
しかし、蹴った足にしがみついて爪を立て、噛み付いた。
「ぐるる!」
「いたっ!くそっ!てめえ!」
激昂したレオンは剣を引き抜き、突き刺そうとする
その時、澄んだ声が響き渡った。
「やめなさい!」
皆が声をした方向を見ると、オレンジ色の髪の美少女エリサベスがやってきた。
「かわいそうに。怖かったのですね」
エリサベスはレオンを無視して、猫を抱き上げる。
「にゃー」
抱っこされた猫はおとなしくなり、エリサベスに頭を擦り付けた。
猫をよしよしとあやしたエリサベスは、レオンに冷たい目をむける。
「こんな小さな猫に剣を抜くなんて、大人気ないじゃないですか」
「なんだお前は」
叱られたレオンは、ますます不機嫌になってエリサベスを睨み付けた。
「えっ?これが出会いなの?うそ。なんか不穏な雰囲気なんですけど……い、いや、これはこういうイベントなのかも。運命の二人の出会いは最悪って設定よく使われるし……」
二人の隣では、銀髪の美少女が頭を抱えていた。
一行は村長の家に移動して、話し合いが行われる。
サクセスが代表して口を開いた。
「何か事情があるみたいですね。話を聞きましょう」
「あなたは……なるほどね」
その令嬢はサクセスを見て、なぜか納得した表情を浮かべる。
「失礼いたしました。私の名前はシャルロット。お忍びの旅故に、家名を名乗ることは控えさせていただきますわ」
シャルロットと名乗った少女は、優雅に一礼した。次に、隣に座っている少年を紹介する。
「こちらは私が雇った冒険者、レオンでございますわ」
冒険者よばわりされたレオンは、不機嫌にささやき返した。
(おい!俺を呼び捨てにするな!)
(しーーーっ。黙っていてくださいませ。あなた様は身分を隠して修行の旅にでているのですから)
こそこそとささやき合う二人を見て、サクセスは不審に思う。
(なんか変なやつらだな……『鑑定』」
鑑定のメガネで二人を見たサクセスは、真っ青になる。
(マジかよ……こんな所で何やっているんだ)
銀髪の少女は、シャルロット・エレメンタル公爵家長女。
金髪の少年は、レオンハルト・エジンバラ王子。
「鑑定のメガネ」にはそう表示されていた。
「こほん。失礼いたしました。それでは、お二人はなぜこの村に?」
サクセスがそう聞くと、レオンは自信満々に答えた。
「決まっている。冒険者として名を上げるためだ」
それを聞いて、サクセスは納得した。
(なるほど……『冒険者貴族』か)
冒険者貴族とは、魔力を持った貴族の子弟が冒険者になることで、金と名声と自由を手に入れようとする者たちのことである。
この世界の貴族家は、男女両方に継承権があるが、女性のほうが家を継いで、男性は婿に出されるケースが多い。
その理由は、魔力の遺伝と密接にかかわっている。貴族の大部分は魔法が使え、それは平民たちを支配するのに大いに役立っている。いわば、魔力とは権力の源泉なのである。
そして、通常魔力は女性優位で遺伝される。男性の魔力持ちが子供を作っても魔力が継承されるとは限らないが、女性の魔力持ちが子供を作ると生まれた子供は100%魔力持ちになる。
この特性のおかげで、王国では女性が家に残ることが多い。男性はどんなに身分が高くても、婿入り先を探すなどして自分の生きる場所を見つけないといけないのである。
そのため、望まぬ結婚を押し付けられそうになった男性の若者の中には、冒険者になって名声を得て独立し、実家の影響力から逃れようとするものたちがいる。
(だからってなぁ。何も王子まで冒険者の真似事をしなくてもいいだろうに)
彼らをみて、サクセスは呆れている。
「冒険とおっしゃっても、この村には何もありませんが……」
村長がおそるおそる言うと、レオンは鼻でわらった。
「ふふん。知らないのか。無知なやつめ。王家に伝わる伝説によると、勇者アルバトロスが冒険の旅の途中まで使っていた剣がここにあるんだ」
(王家って言っちゃったよ。もしかしてこいつアホなのか?)
呆れているサクセスの前で、レオンは巻物を開く。それは400年前に魔王グラシオラスを倒した勇者アルバトロスの伝記だった。
「勇者アルバトロスは、かつてここで六魔鬼の一匹、闇氷虎ダークタイガーを倒し、『光の剣』で封印した。新たな勇者である僕が、その剣を受け継ぐのは運命なんだ」
レオンは陶酔しきった調子で自慢するが、それを聞いてサクセスは疑問に思う。
「仮にその話が事実なら、封印を解かれたらこの村に迷惑がかかるのでは?」
「えっ?」
それを聞いて、シャルロットが意外そうな顔になる。
「それに、ヴァルハラ領の中にあるというなら、その剣は我が家の所有物。残念ですが、他の貴族家にはお譲りすることはできかねます。お引取りください」
サクセスは冷たく拒否する。その隣で、エリサベスもうんうんと頷いていた。
思っても見ない反応に、シャルロットはあせりだす。
(まずいわ……まさか主人公の執事に邪魔されるなんて。このままじゃ剣イベントが……仕方ないわ)
そう思ったシャルロットは、高飛車な態度で命令する。
「う、うるさいですよ。私はとある大貴族の令嬢なのです。こほん、予言によると、封印はとっくにその役目を終えています。光の剣は、新たに現れる勇者様のため、我々が回収すべきなのです」
身分を盾にする彼女に、彼女が公爵家の子女であることを知るサクセスは困ってしまった。
「……仕方ありませんね」
「わかればいいのです。では、あなた達に命令します。護衛としてついてきなさい」
突然の命令に、取り巻きの護衛たちが騒ぎ出す。
「お嬢様。こんな田舎貴族に頼らなくても、私たちに任せてくだされば……」
当然のことをいいだす彼らを、シャルロットは叱りつけた。
「お黙りなさい。大丈夫です。彼らは伝説の聖女と商人なのですから。あなたたちよりよほど役に立ちます」
エリサベスとサクセスを指さして告げる。
「えっ?私は伝説などという大それた者ではないのですが」
「ああもう。お願いだから付いてきてよ!イベントがこなせなくなっちゃうでしょ!」
腰の重いサクセスに、シャルロットはついに頼み込んできた。
「……わかりました。力をお貸ししましょう。ただし、ちゃんと報酬は払ってもらいますからね」
「仕方ないわね。手に入る予定のダイヤをあげるわ」
なんとか、二人の間で話がつく。
こうして、臨時に冒険パーティが結成されるのだった。
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