女騎士登場!
アステルは陣地に着くや否や、休む間もなく軍議を開いた。
「すぐに状況説明を」
アステルの言葉に、作戦参謀であるエルザが素早く反応し地図を広げた。
そして、大陸の最北端、トリスデンを指差した。
「我々は大陸の北、ここトリスデンにいます。『王の道』を使い陸側から攻め、最小限の被害で守備隊を破りました。これで王の道と港の確保は大丈夫です。次はどこに向かうかです」
「私はしばらくここにとどまり、様子を見るべきかと思います。我々はよそ者ですから、まずは十分な補給ルートを確保するのが先決です」
慎重派のフロドが言った。
「私もフロドの意見に賛成です。ここは時間を取り、どの諸侯が敵か味方か、見極めるべきだと考えます」
エルザが静かに言った。
「オレは美味いものが食べられれば、それでいいよ」
相変わらずマリンがふざけた口調で言った。
「マリン!」
エルザが厳しい口調でマリンをとがめた。首をすくめるマリン。
「兵の士気も高いので、このまま進撃しても問題ないとは思いますが、諸侯の態度は気になりますね」
イブンは進むのか待つのか、どちらともつかないような曖昧な提案をしてくる。
軍議はしばらくこの地で待機……という流れになってきていた。
……皆の意見に静かに耳を傾けていたアステルが、おもむろに口を開いた。
「我が軍の最終目標は帝都占領だ。本日直ちに出発する」
「陛下、それは無茶です」
エルザが思わず言った。
だがアステルの決意は固かった。
「私には最強の騎兵隊がある。私は力を与えられた者として、為すべき事を行いたい」
アステルの言葉に、軍議の場が沈黙に包まれた。
「あの~」
沈黙を破ったのはマリンであった。
「今、知らせが入りました。ミンツブルク城が皇帝の大軍に襲われています」
「敵の大将は?」
と、アステル。
「ティリー公爵です」
マリンの言葉に、「オオー」と、どよめきが起こる。
「ティリー公爵……帝国の総司令官であり、皇帝の弟です」
エルザが目を伏せながら言った。続けて、
「アステル様、ティリー公爵はかなりの魔法力の持ち主と聞いております。ここは慎重に行くべきです」
「よし、馬を引け。ミンツブルク城を助ける」
「陛下!」
エルザが止めるのも聞かず、アステルはその場を飛び出した。
馬にまたがり、ミンツブルク城に向けて駆け出すアステル。
慌ててフロド以下親衛隊が、アステルの後に続く。
アステルは急いでいた。
ミンツブルク候は反皇帝軍の有力者だが、気弱な性格だと聞いている。大軍に囲まれて戦意をなくすということは、十分考えられる。ここはスピードを上げなければいけない。
「こんな強行軍では、戦う前に兵たちが参ってしまいます」
フロドは心配したが、アステルは意に介さなかった。
「休憩だ」
アステルは軍を止めた。
ミンツブルクに向かう街道で、大軍を養える都市はここハンザで終わりだ。後はミンツブルクまで都市はない。
偵察隊を率いていたマリンが帰ってきた。
「アステル様、エライ事です」
「なんだ、エライ事と言うのは」
「とにかく大変なんです」
「なんだ、その要領を得ない報告は。何のための偵察だ」
「とにかくアステル様、一緒に来てください!」
アステルはマリンに引きずられるように、ミンツブルク城へ向かった。
「こ、これは……」
アステルは、城から離れた小高い丘からその驚くべき情景を見た。
ミンツブルク城を巨大な壁が囲んでいる。
ミンツブルク城を囲む壁、それは氷の壁であった。壁は二重三重に張り巡らされており、城を囲む壁と、外からの攻撃に備える壁があり、その間のスペースには皇帝軍が陣取っている。
壁の高さは、ミンツブルク城の城壁に届かんばかりの高さであった。
イブンが驚いて、
「もしや、我々に対しての……」
と、つぶやいた。
「ああ、我軍に対しての備えだ。ティリーは我らを待ち構えて、打ち倒そうとしている」
アステルは氷の壁から、強大な魔法力をひしひしと感じていた。
一旦ハンザまで引き上げたアステルは、皆を集めて軍議を始めた。
エルザたち本隊も合流している。
「ミンツブルク城を囲むティリーの布陣はこうだ」
アステルは即席の地図を取り出し、そこに描かれた城のマークを指差した。
「城の南にはエルン川が流れている」
アステルはペンを取ると城の真下に線を一本引いた。
「そして、ティリーは城の周りに氷の壁を築いた」
城のマークを囲むように、少し大きな丸を書いた。
そして、さらに大きな丸を書いた。
「この大きな丸は城からの攻撃に対してではなく、外からの攻撃に備えるものだ。さらに氷の壁と壁の間にティリー軍はいる。完全防御態勢だ」
ここで、アステルはペンを置いた。
「土地の者の話によると、この氷の壁は一夜にて出来上がったそうです」
フロドが皆に説明した。
「恐ろしい魔法力です。ミンツブルク城は為す術がない」
イブンが言うと、
「ホント、凄い魔法力。アステル様といい勝負」
と、マリン。
「いや、アステル様よりすごいんじゃ……」
と、場がざわつきだした。
「静かに!何を恐れている。私がもう一度行き、敵の弱点を探ってこよう」
アステルはまたも部屋を飛び出した。
アステル以下親衛隊に、エルザも加えた部隊は――彼女はお目付け役を自負していた――威力偵察を目的に、前回よりも氷の壁に近づいていた。
すると、前方でめったやたらに剣を振り回している騎士がいる。
「何かに襲われている?」
アステルが疑問に思いながらさらに馬を走らせると、空中がキラキラと輝きだした。
「ダイヤモンドダストだ!」
北国出身のアステルたちには見覚えのある光景だ。
しかしここはミンツブルク。しかもまだ冬ではない。
前方の騎士がよろけて馬から転げ落ちた。
その時、アステルたちは見た。
大きさは手のひらほどで、姿形は少女のよう。肌は驚くほど白く、透き通って見えることもある。背中には、こちらも透き通った羽根を持ち、ユラユラと宙を舞っている。
「あれは、雪の精では?」
こういう事には詳しいイブンが、あれあれ、と指し示した。
雪の精はこちらに気づかないのか、遠くに飛んでいってしまった。
倒れた騎士の様子を見に行ったフロドが戻って来た。
「駄目でした……凍死です」
皆驚いていると、向こうで甲高い叫び声がした。
一同顔を見合わせて、声の方――明らかに少女の声だった――に駆け出した。
案の定、騎士や馬が倒れている脇で、ただ一人戦っている騎士がいる。
体を守る鎧は最小限に抑え、防御よりもスピード重視のその出で立ち。
その背格好から、女騎士に違いない。
女騎士が剣を振るうと風が舞い上がり、雪の精は木の葉のごとく吹き飛ばされる。だが雪の精は多い。
アステルは魔反射の盾を構えると、雪の精めがけて投げつけた。
盾はものすごいスピードで、雪の精を薙ぎ払っていった。
そのさまを、女騎士はただ呆然と見ていた。
「早い……魔法?風の魔法なの?」
そうブツブツと言いながら、女騎士はアステルに近づいてくる。
「もしかしてアステル?やっぱりアステルだぁ」
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