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少年王と最強騎士団~王様だけど、先頭切って剣と魔法で戦います~  作者: 青柳 漠(アオアヲさん)
第一章 フィンデガルドの風

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クロト狂乱

「おい、やめないか!」

 見かねてレリックが二人の間に割って入る。


「お前、こんなことして傭兵侯が黙っていると思うのか」


 それを聞いて、

「分かってますよ。殺さなきゃいいんでしょ。ちょっと痛めつけてやるだけですよ」

と、不機嫌そうに言うクロト。


「王様、あんたもやられっぱなしで悔しくないのか。何で魔法を使わないんだ」

と、レリックはアステルに小言を言った。


 アステルはしゃがみ込むと、長剣を静かに置いた。そのままじっと長剣を見つめる。


「クロトに私を殺す意思がないことはわかっていた。だから、この戦いには魔法を使わないと決めたのだ」


 アステルは立ち上がると、真っ直ぐにクロトを見た。


「むやみに魔法を使うのは、王家の者として許されないことだ」


 クロトはハッ、と驚いた表情をすると、クルッと二人に対して背を向けてしまった。


 レリックは、やれやれとため息をついた。

「王家のプライドは俺にはよくわからんし、クロトがなぜ王様を襲ったのかもわからん。が、クロトの意思を見抜いたことは褒《ほ》めてやるよ」


 レリックはアステルに行くぞ、とうながす。

 アステルはうなずくと、闘技場の出口に向かって歩き出した。


 クロトはまだ背を向けている。


 あっ、と思った瞬間、クロトはその場でクルッと背面飛びをすると、アステルの後頭部に左足をぶち当てた。

 とっさの判断で、アステルは自ら前方に向かって体を回転させ、蹴りの衝撃を弱める。

 視界が反転し、アステルは地面を転がる。


 クロトは執拗にアステルと地面で組み合い、後ろに回り、右腕をアステルの首に回し締め付けてきた。


「おい、クロト、やめろ」

 レリックが慌てて駆け寄ってくる。


「来るな!来れば首の骨を折るぞ」

 クロトの声に、レリックはピタッと動きを止める。


 首を絞め続けるクロト。


 アステルは目の前が霞んでくるのを感じていた。

 今度は右腕に左腕を合わせ、グイグイと力を込めてアステルの首を絞めるクロト。

と、首を絞める力が弱まった。


「何しているんだあいつ?」

 レリックがそーっと地面の上で組み合っている二人に近づく。


 クロトがアステルの頬から流れる血をジッと見ている。


 そして、クロトはその血を自らの舌で舐めあげた。


「ゲッ!おい、クロト!お前、そういうことは止めた方がいい」

 レリックはそうクロトに忠告する。


 クロトは一瞬横目でレリックを見たが、再びアステルの血を舐めあげた。しかも今度はチロチロと舌を小刻みに上下させた。——そのざらっとした感触は、無意識にアステルの中の、魔法を発動させるトリガーを作動させた!


 蜘蛛の糸を取ったのと同じように、アステルの身の回りに風の刃が降り注いだ。


 クロトが離れたのが分かる。


 アステルは頭を振り、何とか起き上がった。視線の先にはクロトがうずくまっている。両手で顔を覆《おお》っている。おそらく顔が傷つかないようにガードしたのだろう。


  クロトは顔を上げた。両腕には無数の傷があるが、顔は傷一つない。それでもクロトは両手で顔を触ると、顔に傷がないか確認している。やがてホッ、とした表情でクロトは立ち上がった。


「悪あがきを……」

 クロトがつぶやいたと同時に、アステルは右手をクロトに向けた。


 ――フッ、と風の刃がクロトの頬をかすめる。

 僅かではあるが、その風はクロトの肌を傷つけた。


 僅かにクロトの顔に血がにじむ。

 クロトは黙って手で傷口を触る。そして手についた血を無言で見つめている。


「魔法を使う気はなかったのだが、お前のその奇矯《ききょう》な行いに少々腹を立てた……すまない、つい」

 アステルはペコリと頭を下げた。


「…………」

 クロトは何も言わない。


 アステルが顔を上げると、ギョッ、とした。

 クロトの端正な顔が怒りのあまり美しくも歪んでいる。

 クロトの体から殺気が立ち上っているのが分かる。

 先ほどとは、殺気の濃さが違う。


「これは……こちらも本格的に魔法を使わなければいけないな」

 アステルは下腹部に力を込め、構える。


 両者、一触即発の状態。


「やめないか!」

 その声で、場の殺気が消えた。


 クロトが怯えている。


 アステルがその声の方向を見ると、レリックと、威圧感たっぷりの長髪・長身の男が立っていた。




「これはどういうことだ」

 アステルとクロトが対峙しているのを見て、長髪・長身の男――言わずと知れた、シュタインボルト――が低いがよく通る声で言った。


 クロトはさっと身をかがめ平伏する。


「申し訳ございません、閣下!」

 クロトの第一声は誤りの言葉だった。


「言いつけ通り、少年王の力量を計っていたのです。しかし、少々やりすぎました」

「ふむ」

 シュタインボルトは、あごひげに手を添えながらクロトの言葉を聞いていた。


「確かに少年王の力量を計ってこいとは言ったが、それは戦場での働きを見ろ、ということ。こんな決闘を許可したつもりはない」

「はい、申し訳ございません」

 クロトがまたしても平身低頭する。


 クロトは平伏している姿勢から顔を横に向け、チラッとアステルを見た。


 ハッと動きが止まる。


 アステルがクロトのことを見ていたからだ。


 一瞬、二人の視線が交差する。


 だがクロトは、すぐに顔を下に向けてしまった。


 恥ずかしそうに身を震わせていたクロトであったが、

「閣下、申し訳ございませんでした!」

と言うと、その場から姿を消した。


「あいつ、一体何がしたかったんだ」

 レリックが呆れてつぶやく。


 その横で、シュタインボルトは無言のままだった。




「先程は申し訳なかったな」

 シュタインボルトはアステルに頭を下げた。


「いえ、少々びっくりはしましたが、何とか……」

 アステルも何と言っていいか、言葉を濁す。


「ところであなたは……」

 アステルが言うと、

「これは失礼した。自己紹介がまだだったな。余の名前はシュタインボルト。今はただの旅人だ」

 シュタインボルトは微笑んだ。


「シュタインボルトですって!あなたは皇帝軍の総司令官では!」

 アステルは、そこで言葉を切った。明らかに警戒している。


「まあ、そんなに警戒することはない。余は確かに皇帝軍の総司令官として戦ったが、今ではその座を追われた身。だから、今はただの旅人なのだ。……レリック!」


 シュタインボルトはレリックに話を振る。


「そうだぞ、王様。俺たちラドガッド兵が雇われているって事は、もう皇帝とは切れたってことだ」

「……そうですか。にわかには信じがたい話ですが……」

 アステルはまだ警戒を解いていない。


「まあ疑うのはしょうがない。ところで今回の戦い、『王の道』を使うとはいささかびっくりした。まさかフィンデガルドに古代の魔法知識があるとは……」

 強引に話を進めるシュタインボルト。


 アステルは黙って何も言わない。


 シュタインボルトは続けて、

「少年王、君は実に興味深い。君は魔法を使えるね。今まで魔法を使える王族・貴族たちは、自らの力を誇示するためだけに、攻撃魔法ばかりを主に使用してきた。だが、君は違う。風の魔法を味方全体のために使用した。命令に即反応する瞬発力、騎兵に必要な機動力、敵のアウトレンジから攻撃できる射程力。弓矢の威力を増して敵を倒す殺傷力。……君の軍は強い」


「……」

 アステルは、相変わらず無言だ。


「君は……」

 シュタインボルトは一呼吸置くと、

「この世を変える可能性を持っている」

と、言った。

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