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少年王と最強騎士団~王様だけど、先頭切って剣と魔法で戦います~  作者: 青柳 漠(アオアヲさん)
第一章 フィンデガルドの風

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邪忍クロト

 それから帝国を攻める準備が始まった。


「帝国には、トリスデンの町から進攻することになります。ですが、彼の地は高い崖に囲まれた地形。魔導士が陛下一人だけの我が軍では、厳しい戦いが予想されます」

 エルザが地図を見ながら皆に説明した。


「それについてはこちらをご覧ください」

 レンスキー神父がまた別の地図を広げた。


「これは一千年前、太古の魔法技術がまだ盛んだった頃の、北回り航路の地図です。注目すべきはここ、フィンデガルドとトリスデンにあるこの印。印同士の間に線が引かれています」


 皆が地図を見ると、見慣れない印がそこには描かれていた。王冠のマークだった。


「我がセルリア王国で調べたところ、これは『王の道』の印でした」

「王の道?」

「そうです少年王。かつてこの大陸と周りの島々は、王の道と呼ばれる魔法の道で繋《つな》がれていました。この王の道を使い、人々は自由に行き来をしたと言われています。ただ、いつの頃からかこの王の道は使われなくなりました」

「それはどうして?」

「様々な説があります。何か重大な事故があった。王の道を支える魔法力が無くなった。反乱軍による使用を恐れて王の道を使えなくした……」

「王の道はまだ使えるのか」

「そこです、少年王よ」

 レンスキー神父は白くなったあごひげを整えながら言った。


「我が王国の研究では、いくつかの王の道が使用可能な状態であると判明しました。このフィンデガルドと大陸を結ぶ王の道も、その一つです」

「では、この王の道を利用すれば陸側から進攻出来るし、船を使わないでも補給が可能ということか……」

「その通りです。軍資金は我がセルリア王国の方でも用意いたします。少年王には早急に戦いの準備をお願いします」

「そのことだが、セルリア王国はこの戦いに参戦はしないのか?」

「そのことですが……」

 レンスキー神父は神に仕える身でありながら、セルリア王国の宰相(さいしょう)も努めている。


「セルリア王国は、現時点では戦いに参加はできません。これは帝国との間に交わした条約のため。今はそれを破る理由がありません。ですので、今は水面下の協力になります」

「都合の良い話ですね。我らに戦うだけ戦わせて、自分たちは高みの見物ですか」

 エルザが横から口を挟む。


「いや、決してそのようなことは……」

「だってそうでしょう。まずはセルリア王国から戦端を開くべきでは……」

「いや、それは今すぐには出来ません」

 エルザとレンスキーの口論がいつまでも続いていた……



 これは夢か……


 おぼろげな意識の中、アステルは眠りから覚めようと気力を振り絞った。


 無理やり薄っすらと目を開けると、夢に見た少女の顔……ではなく、目の前にはアステルを気絶させた男がいた。


「お前は……あ、痛い」

 アステルは殴られた側頭部を押さえた。そこだけでなく、顔もヒリヒリする。


「まったく、むちゃな王様だ。その『蜘蛛の糸』は、自力じゃぁひっぺがすことはできないはず。それを無理やり取っちまうんだから」

 男は呆れて言った。


「……他の者はいないのか。もしかして私だけ?」

「そうだ。何人か捕まえることはできたんだが、援軍がいっぱい来ちまったんで、王様だけ捕まえてトンズラしたのさ」

「そうか、よかった」

 アステルは、ほっと胸をなでおろした。


「それで、私をどうしようというのだ」

「それは、オレの雇い主に決めてもらわなきゃな。ついてこい」

 男はアステルを連れて、館の中を移動した。


「ああ、あと俺の名はレリックだ、よろしくな、少年王」

 レリックはそのいかつい体に似合わず饒舌《じょうぜつ》な男で、盛んにフィンデガルド軍のことを褒めてくれた。


「……あんなに強い騎兵隊は俺も初めてだ。王様、あんたは良い部下を持ったな」

「それはどうも」

 アステルは苦笑した。そんな強い騎兵隊を率いていた自分が、今では惨めな捕虜となっている。捕虜とは言え、鎧兜と武器は剥ぎ取られたが体は自由だ。


「私を拘束しないでもいいのか」

 アステルの体に拘束具はついていない。仮に魔法を使えば、ここからの脱出も十分可能だ。


「雇い主からの命令だ。王族はこういう時ジタバタしない。優雅に振る舞うのだと。ま、お互いの信頼関係ってやつだ」

「フッ、わからんぞ」

 とは言ったものの、アステルはレリックの雇い主に興味が出てきたので、おとなしく付いて行くことにした。


「入りますよ」

 一声かけると、レリックは扉を開け、アステルを部屋へ入るように促す。


 そこにいたのはシュタインボルトのしもべ、クロトだった。



「おいクロト、傭兵侯はどこだ」

 レリックの問いに、

「閣下はいないよ」

と、クロトはボソッと言った。


「傭兵侯を呼べと、ちゃんと伝えておいただろ」


 だがクロトはレリックの問いには答えず、アステルの方を向いて、

「あんたが少年王か」

と、値踏みするようにアステルを見た。


 アステルはクロトの視線から敵意を感じ、グッと拳を握りしめた。


「おい、聞いてんのかクロト!」

 レリックがイライラしながら怒鳴った。


「お前、わざと傭兵侯を呼ばなかったな。一体何のつもりだ」

「閣下に会わせる前に、ボクが少年王を試すのさ」


 クロトの言葉を聞いて、レリックが可笑しそうに笑った。

「試すだって、この皇帝の犬が。いや、元犬か。お前みたいな邪忍の暗殺者が試すなんてできるのか。闇討ちしか能のないお前がな」


「何ならアンタから相手をしてもいいんだよ」

 一触即発なクロトとレリック。


 アステルは二人の間に割って入った。

「私に用があるというなら相手をしてやろう」

「……ついてきな」

 クロトはアステルをとある場所に案内した。




「ここは……」


 中央に平たい地面。

 その周囲を客席が囲んでいる。


「ここは闘技場。大昔の建物さ」

 クロトは両手を広げた。


「奴隷たちが戦いを繰り広げ、その光景を観客たちが日頃の憂《う》さ晴らしのために見ていた。最も観客は、そこのクソ親父しかいないけどね」

 クロトは笑いながらレリックを指さした。


「さあ、少年王。これを取りな」

 クロトはそう言うと、一振りの剣をアステルに向かって放り投げた。


 むき出しの刀身がキラリと光る。一般的な長剣だ。


「さあ、勝負と行こうじゃないか」

 クロトは左手に長剣を持っているが、構えているでもなく地面に引きずっている。アステルは長剣を拾うと、クロトと向かい合った。


 アステルは長剣を中段に構えた。

 クロトは相変わらず長剣を引きずっている。

 クロトは長剣を引きずりながら、アステルに向かって突っ込んでくる。

 掛け声とともに、片腕で長剣を下から上へ振り上げるクロト。

 アステルは長剣で受け止める。


「くっ!」

 一撃の重さによろけるアステル。


 クロトは反動を利用して長剣を頭の上まで持ってくると、今度は両腕を使って長剣を振り下ろす。

 その重い一撃を長剣で受け止めるアステル。


「ハハハ、どうしたどうした」

 クロトは連続で長剣を打ち込んでくる。


 一撃一撃を長剣で振り払うアステル。

 

「どうした少年王。防戦一方だな」

 クロトの息は乱れていない。まだだいぶ余裕がありそうだ。


 一方のアステルは肩で息をしている。


「今度はこうだ!」

 クロトはアステルに接近すると、長剣を振り下ろすのではなく、突き出してきた。


 サッと避けるアステル。再び突きを仕掛けてくるクロト。アステルは長剣を使ってそれを防ぐ。二突き、三突きとクロトの剣を防いだものの、アステルの体は少しずつ切り刻まれていく。


 たまらず後方に飛びのき、アステルはクロトとの距離を取る。肩で息をするアステル。

 と、顔に痛みが走る。血が、すーっと流れ落ちるのを感じる。わずかに剣の切っ先が頬《ほほ》を掠《かす》めたらしい。

この作品を面白いと思われた方、応援したいと思われた方は、


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アオアヲさんのモチベーション維持のために、必要な栄養分になりますので。



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