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少年王と最強騎士団~王様だけど、先頭切って剣と魔法で戦います~  作者: 青柳 漠(アオアヲさん)
第一章 フィンデガルドの風

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激突!騎兵VS歩兵

「……イブン」

 アステルが、イブンのそばに寄ってきた。


「はい?何でしょう陛下」

「お前、何かやれ」

「えっ、私ですか?よりによって私?」

「意外な奴がやるから、盛り上がるんじゃないか。ここでマリンが景気付けをしたら、当たり前すぎだろ。フロドでも駄目だ。まして、この私も駄目」

「そっ、そんな」


 イブンは困ってしまい、フロドに助けを求めようとするが、フロドはそれを無視した。

 それならばと、イブンはマリンに声をかけようとするが、マリンは後ろの隊列に隠れてしまった。


「早くしろ!ラドガッド兵の気合い入れも、いつまで続くかわからない。いざとなれば私が何とかするから」

 アステルが目配せをして催促する。


 何とかするとは、先程の戦いでの弓矢の飛距離が異様に長いこと……風の魔法を使い、矢の飛距離を伸ばしていたことをいうのだろう。さらに、魔法の力で威力も倍増できる。



 イブンに決断の時が来た。



「わかりました。この私、錬金術士(アルケミスト)のイブン=ルシュド。親衛隊の名にかけて、これより敵の旗を撃ち落としてみせます」

 イブンは馬を進め、隊列の前に出た。


 すると、それまで無視していたフロドが角笛を取り出し、フィンデガルド軍の勇壮な行進曲を吹き始めた。それに合わせ、親衛隊が歌い出す。



 ~我らフィンデガルドの勇敢な戦士~

 ~我ら仲間のために戦おう~

 ~我らに勝利と栄光を~



「隊長……ありがとうございます。見ていてください」

 歌が終わると、イブンは弓に矢をつがえた。


 こちらが何をしようとしているのかわかったのだろう。ラドガッド兵たちも静かになる。



 ――辺りが静寂《せいじゃく》に包まれた――



 イブンは狙いを定め、矢を放った。


 放物線を描きながら、吸い込まれるように片耳の大シカの旗めがけて飛んでゆく。見事、矢は旗を根元から撃ち落とした。


「やったー」

「イブン、よくやった」

 フィンデガルド軍から歓声が上がる一方、ラドガッド兵たちからはため息が漏れる。


「イブン、頑張ったな」

 アステルがイブンの肩を叩いた。


「陛下のおかげですよ。陛下の魔法がなければ今頃は……」

「えっ、私は何もしてないよ」

「でも、私が何とかするから、と言いましたが」

「ああー、あれね」

 アステルは困ったように苦笑いをした。


「あれはイブンが失敗しても、私が何かしらの技を見せて場を盛り上げるから気楽にやれっ、てことを言いたかったのだ」

「陛下、それでは今のは!」

「そうだ、イブンの実力だ」

「そうか……これで私も本当の騎士になれた気がします」

 アステルの差し出した手を、イブンは堅く握りしめた。



 戦いの前に妙に盛り上がった両軍だったが、先にラドガッド軍が動いた。六メートルもある長槍(パイク)を構えると、横五十列縦四列の横隊(おうたい)で突進してきた。


「フォーメーションYだ」

 アステルが叫ぶと、自身が先頭になってラドガッド軍に向かって進撃する。アステルが手を挙げると、フィンデガルド軍は二手に分かれた。一方はアステルが、一方はフロドが率いて、圧倒的なスピードをもってラドガッド軍の側面に回り込む。


 フィンデガルド騎兵は、先程の戦いと同様矢を射かける。しかし敵兵は、コモデが率いていた先程の守備隊とは違った。隊列を乱さず、二列目以降の歩兵隊が長槍を高く掲げ、飛んでくる矢を撃ち落としていく。中には矢が体に突き刺さる者もいたが、それでも隊列を崩さない。二手に分かれたフィンデガルド騎兵は合流し、再びラドガッド兵に側面から矢を射かけようと馬を走らせる。


 この時、ラドガッド兵は自ら隊列を解き、バラバラに動き始めた。


「これはチャンスだ!」

 アステルが手を挙げるのを見て、

「アステル様、これは罠では……」

と、フロドが止めようとしたが間に合わない。


 全軍突撃の命令が、フィンデガルト騎兵に伝えられた。


 槍(ランス)を構え、騎兵が突撃を開始する。騎兵対歩兵。隊列が崩れた歩兵相手には、騎兵は絶対有利だ。


 もちろん最初の突撃部隊の中に、アステルは入っていた。


 猛スピードでラドガッド兵に向かって行くアステルに、ラドガッド兵は腰にぶら下げた丸いボール状の物を取り外すと、アステルに向かって投げつけた。ボールはアステルに当たると、放射状に広がり、手や足を包み込む。体を動かすことができないアステルは、馬から投げ出されてしまった。


 地面の上でもがくアステルだが、粘着物質は完全に固まってしまい、もうどうすることも出来ない。


 顔面も粘着物質に覆《おお》われ息が苦しい。かろうじて右目部分だけは空いている。


 先程アステルに向かってボールを投げた兵が来て、アステルを覗き込んだ。


「まさかと思ったが、やっぱり少年王だ。なーに、殺しはしない。身代金と交換するまでの人質だ」

「くそっ、取れない」

 アステルは必死に体を動かすが、どうにも動かない。


 敵をろくに観察もせずに攻撃した事を、アステルは悔やんだ。


 顔が動かない今のアステルには、青い空しか見えない。馬のいななき。人間や馬の大地を駆ける足音、槍(ランス)と斧槍(ハルバード)がぶつかり合う音、そして味方が捕まり引きずられる音が聞こえる。


「このままではいけない。できるか!」


 両腕は動かない。

 今まで手をかざしたり、突き出したりして魔法を操った。今はイメージのみで、魔法をコントロールしなければいけない。


 だが、やるしかない。


 アステルは意識を集中させ、風の刃をイメージした。風の刃で、この体についた固まりを切り刻み、剥《は》ぎ取る。刃が、アステルの体についた固形物を切り刻んでいく。


(いいぞ、その調子だ)


 アステルがさらに切り裂こうとした。


「うっ、痛い」

 刃を深く入れすぎて自分自身の肉を切ってしまい、アステルは刃を引っ込めた。顔を切ってしまい血がにじむ。


(くっ、顔は後回しだ)

 口元の固まりは取れた。呼吸は苦しかったが、まだ我慢できる。


 アステルは鎧の上の固まりを中心に、風の刃で切り裂いた。刃が鎧にあたり、嫌な金属音がする。


「よし、取れた」


 コツを掴んだアステルは、まず手を自由にすると、続いて足を、そして顔の物質を取り除いた。


「ここから逆転だ!」

 アステルは立ち上がった。


 目の前には先ほどのラドガッド兵がいた。

 あっと思う間もなく、アステルは側頭部を殴られ気絶した。




 薄ぼんやりとした情景に見覚えがあった。


 あれは確か一年前、フィンデガルトの宮殿に二人の客が訪れた時のこと。


 一人は初老の神父、もう一人はどこにでもいそうな普通の少女だった。


「今、皇帝は神になろうとしている!」

 神父はそう力説した。


「人の心に土足で押し入り、従わせようとしているのです。今まで我らが信じていた神々を否定した。そして……」

 そこまで言って、間を置き、周囲の視線を自分に集中させる。


「そして、自らを神として崇《あが》めよと強制した」


 神父は女の子を傍《かたわ》らに招き寄せた。

「彼女は大陸のヌーベル村に住んでいました。両親と一緒に幸せに暮らしていたのです。ある日、皇帝軍は村に侵攻し、村は占領されました。彼女は我々に庇護《ひご》を求めてきたのです」

 少女は悲しげに顔を伏せている。


 まだ何か言おうとしているレンスキー神父を、アステルは止めた。


「それで、私は何をすれば良いのだ」

「陛下、いけません」

 レンスキー神父の話に乗り気のアステルを、アステルの乳母(うば)であり、この国の宰相(さいしょう)でもあるエルザが止めた。


「これはあくまでも他国の問題です。我らには関係ありません」

「しかし、皇帝の力はやがてこの北の大地まで伸びることになる」

「その時に戦えばよいではありませんか」

 すっと手を上げ、アステルが話を止めた。


「虐《しいた》げられた民を助ける。それが王の務めだ」

 アステルはそう言うと、少女をチラッと見た。


 少女は相変わらず悲しげな顔でうつむいていた。

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