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少年王と最強騎士団~王様だけど、先頭切って剣と魔法で戦います~  作者: 青柳 漠(アオアヲさん)
第一章 フィンデガルドの風

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騎兵無双

 ここで時間は現在に戻る。


「陛下、無事ですか」

 イブンが兜と剣を拾って、アステルに渡した。


「私が鍛え上げた逸品、大事にしてくださいよ」

「そうだな、イブンの錬金術の技、敵に見せつけないとな」

 アステルの言葉に、イブンは軽くお辞儀をした。


「陛下、これからどうしますか」

「町を混乱させよう。ただし、放火・略奪・建物の破壊は厳禁だ」

「あれもダメ、これもダメでどうやって混乱させるのですか。難しい注文だ」

 イブンはしばし考えた。


「こういうのはどうでしょう」


 イブンは布で出来た筒を取り出した。筒の一方の先には、鉄のリングが取り付けられている。


「これは吹き流しといって、そもそもは風の勢いを知る道具です。これにちょちょいと細工しました。これを身につけて馬を走らせれば、唸り声のような音がします。これでしばらくの間脅かしましょう」


「よし、それで行くぞ」


 フィンデガルド騎兵は吹き流しを身に着け、町中を駆け回る。何とも言えない、人間の恐怖心を引き起こす音が町に響き渡る。


 たまらず家という家から住民が飛び出し、何事かと町は大騒ぎになる。


 アステルが町の奥を見ると、海に面した城壁があり、そこは高台になっていた。その城壁から、他の民衆とは違う、見るからに高価な衣装をまとった一団が降りてくる。手には魔導石をはめた杖を持っている。典型的な魔導士だ。


 群衆の波に揉まれながらも、アステルは魔導士に狙いを定め、矢を放った。


 先ほどと同様に、アステルは風の魔法を使って矢の飛距離を伸ばし、その威力を増した。


 矢は狙い違わず、魔導士を射抜いた。


「ひえ~」

 仲間が倒れるのを見て、魔導士の間から悲鳴が上がる。


 アステルは続けて二の矢、三の矢と流れるような動作で射掛けたが、今度は魔導士の周りの盾騎士(ガードナイト)の巨大な盾に阻まれてしまった。


「ええーい、何をしているの、早く魔法を放て!」


 魔導士の一団の中にいるコモデ伯爵が叫ぶが、魔導士たちは盾騎士(ガードナイト)の陰に隠れて魔法を撃とうとしない。


 コモデは手近にいる魔導士の胸ぐらを掴んだ。


「何してるの、早く魔法を!」


 しかし、魔導士は首を横に振り、

「無理ですよ、魔法を放《はな》とうと身を乗り出せば、そこを矢で射抜かれてしまいます」

と、言ったので、コモデはその魔導士を床に突き飛ばした。


「ああ、確かに奴らの矢は遠くまで届く。これでは遠距離から一方的に攻撃するという、魔法の特性が活かせないわ」


 フィンデガルド騎兵の弓攻撃の前に盾騎士の後ろに隠れるだけの魔導士たち。


 しばらくはそんな状態が続いた。


「そろそろ頃合いだ。撤収せよ」

 アステルは矢を放つのは止め、馬首をひるがえした。


 さっと手を振ると、フィンデガルド騎兵はすぐさま反応し、城門から外に駆けてゆく。


「敵を追え、逃すな」

 コモデは兵を率いて城門から出ると、まだ視界の中にいるフィンデガルド騎兵の後を追った。



「来てる来てる。おびき寄せられて来た」

 遺跡の壁に身を隠しながら、マリンはコモデ軍が来るのを今か今かと待っていた。


「案外敵が多いな。船での陽動作戦は上手くいかなかったのか」

 フロドがコモデ軍の数を見て言った。


「アステル様が派手にやったんじゃないの」

と、マリンは相変わらず軽口をたたいた。


「……まあそれはともかく、敵は歩兵が方陣(ほうじん)を組み、内側の魔導士を守っている。こちらの予想通りの陣形だ。後はアステル様の命令を待つのみ」

 二人はアステルの命令を待った。



「えーい、爆裂の魔法をどんどん打ち込め!」

 コモデのヒステリックな叫びに応えるように、魔導士部隊から魔法が放たれた。


 巨大な火球が、周りを囲っている歩兵の上を飛び越え、フィンデガルド騎兵に降り注ぐ。



 ドーン、と大地が砕け岩が飛び散る。



 コモデ軍が魔法を放つたび、馬が驚き、騎士たちは振り落とされそうになる。


「イブン、大丈夫か」

 必死に馬を走らせるイブンに、アステルが駆け寄ってきた。


「陛下、大丈夫です。私は新米騎士ですが、迷惑はかけません。しかし……」

「しかし、なんだ!」

 爆裂音の絶えない戦場だ。アステルの声も大きくなる。


「いえ!ただ!敵との距離が近すぎやしませんか!」

 負けじとイブンの声も大きくなる。


「我慢だ。魔法が当たるか当たらないかの、ギリギリのところで勝負している!」


 アステルはわざと馬の勢いにブレーキをかけたり、よろめかせたりしながら、コモデ軍を遺跡まで誘導してきた。


「もう少しだ。もう少しで合流だ」

 遺跡はもうすぐそこだ。



 アステルたちが遺跡を通り過ぎるのを横目に見ながら、マリンは飛び出すタイミングを見計らっていた。続いてコモデ軍が進軍してくる。


「今だ!」

 マリンが飛び出そうとするのを、フロドが止めた。


「まだだ、アステル様の指示を待て」


 コモデ軍を町から十分に引き離したと見るや、アステルは風通信で指示を出した。


「よし、行くぞ!」

 遺跡の陰に隠れていたフロドとマリンの別働隊が飛び出し、包囲態勢を取る。


「しまった。待ち伏せか」

 コモデが気づいた時には、フィンデガルド騎兵が包囲を完了した後だった。


 だがフィンデガルド騎兵は魔法を警戒して突撃はせず、お互いが牽制するなか、フィンデガルド軍の中からただ一人、コモデ軍に向かってゆっくりと駆けていく騎兵がいた。


 少年王アステルだ。


 アステルはゆっくりと馬を走らせ、徐々に間合いを詰めて行く。


 ついに、コモデ軍の魔法の射程に入った。


「魔法を撃て!」


 コモデの命令で、傍《かたわ》らの魔導士が魔法を放つ。

 杖の先から、目もくらむような電撃がほとばしる。


 アステルは背中に背負った丸い盾を、電撃に向かって投げつけた。盾は魔法を反射し、電撃はコモデ軍の歩兵に当たり爆発する。


「撃て、撃てぇ」

 コモデは部下に命令しながら、自分も魔法を放つ。


 何発もの魔法が、アステルを襲う。


 アステルは、風の魔法で盾を自由自在に動かすと、魔法を次々と打ち消し、反射してゆく。


「クソ、どんどん撃てぇー」


 コモデはついに、十人いる魔導士全員に、アステルを攻撃するよう命じた。


 アステルは……この時を待っていた。


 さっと風通信で合図を送ると、コモデ軍を取り囲んでいた騎兵が一斉に槍(ランス)を構え、同じタイミングで、同時にコモデ軍に突撃した。


 コモデ軍の歩兵たちはその勢いに恐怖し、隊列を崩し、我先にと逃げ出した。


 騎兵隊の突撃に気づいて、魔導士たちも騎兵隊に魔法を撃とうとするが、急な方向転換は出来ない。


 歩兵は逃げ出した。

 騎兵もあえて追わない。


 魔導士は逃げようとするも、周りを囲まれ、槍(ランス)で突き回され逃げ場はない。ついに追い詰められ、魔導士たちは背中合わせに一箇所に集められてしまった。


 騎兵はスピードをゆるめず、お互いが串刺しにならんばかりに槍(ランス)を突き出した。


 コモデと魔導士たちは、前から、後ろから、横から無数の槍(ランス)で串刺しに……はならなかった。


 槍(ランス)が突き刺さる寸前で、騎兵が止まった。

 アステルが、風の魔法によってブレーキをかけていたからだ。


 騎兵たちは馬を後退させ、元の隊列に戻る。



 完全に戦意を喪失したコモデ以下魔導士は、グルグル巻きにされ遺跡に放置された。




 フィンデガルド軍が改めて町に向かって進軍すると、片耳の大シカの旗のもと、二百人の歩兵隊が野外に整然と布陣していた。


「……守備隊はどうやら彼らだけらしいな」


 アステルは、歩兵隊の規律の取れた佇《たたず》まいが気になっていた。


「隊長、彼らはもしや……」

 イブンが言うと、

「ウム、奴らはラドガッド傭兵じゃないか」

と、フロドも険しい顔になった。


「ラドガッド傭兵って、あの最強の歩兵集団のことでしょう?」

 マリンが物知り顔で聞いた。


「そうです、山岳の民で、騎兵どころか魔法すら恐れぬ傭兵たちだと聞いています。ですが……おかしいな、彼らは皇帝には味方しないはずですが……」

と、イブンが言った。


「アステル様、お聞きの通り相手はラドガッド傭兵。それに騎兵有利の見通しの良い場所で、あえて戦いを挑むとは……ここは本軍の到着を待った方が良いのでは」

 フロドが話をまとめて、アステルに進言した。


「しかし、ラドガッドの皆さんはやる気のようだ」

 アステルはラドガッド兵を見てニヤリと笑った。


「えっ」

 皆がラドガッド兵の方を見ると、今まさに彼らは立ち上がり、両手を空に突き上げ、大地を踏みしめ、腹の底から響き渡る声で雄叫びをあげ始めた。


「なっなんだ、ダンスか?」

 マリンがびっくりして、馬から落ちそうになる。


「おそらく戦闘前の儀式のようなものでしょう。ああやって戦意を高揚《こうよう》させ、さらに仲間との一体感を出す。と同時に、相手に恐怖心を与えるのです」


 イブンがそっと後ろを見ると、フィンデガルドの騎士たちは、ラドガッド傭兵の迫力にすっかり気圧《けお》されている。

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