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少年王と最強騎士団~王様だけど、先頭切って剣と魔法で戦います~  作者: 青柳 漠(アオアヲさん)
第三章 復活のシュタインボルト

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乱れ(2)

 出陣の準備をしていたアステルに、エルザが近寄ってきた。

「陛下……いえ、アステル様、お話が……」

「……」


 マリンの死から、エルザとはまともに話していない。アステルは正直戸惑っていた。


 場所を移し、話を聞く。


「アステル様、今回の出陣はおやめくださいませ」

「なぜだ」

「一体今回の戦いに、どんな意味があるのですか。我が国にメリットはなにもありません」

「この国の人々が圧政で苦しんでいるのに、何がいけない」

「要するにこの国の問題です。この国の人々が解決することです」

「いや、それは違う。私は自分だけが安全な場所にいて、安穏と暮らしていようとは思わない」

「それではなぜ、セルリア王国は兵をよこさないのですか。明らかに傍観(ぼうかん)しています。彼らの考えは、我々を利用して、帝国の力を弱らせようとしているのです」

「確かにそうかもしれない。だが、こちらにもメリットは有る。セルリアから軍資金を出してもらい、その金で出兵できた。帝国の拠点を叩き潰し、フィンデガルドに対する脅威を取り除いたではないか」

「そうです。それ故、これ以上の進軍は意味が無いのです」

「いや違う。帝都を占領しなければこの戦いは終わらない」


 それまで冷静に議論を続けていたエルザが、だんだんと感情的になっていく。


「アステル様、死ぬのはマリンだけでいいのです。こんな戦いで兵士たちに死んで欲しくない」

「それは承知している。だから私が先頭に立って戦っているのだ」

「アステル様にも死んでほしくないのです。あなたが死んでしまったら、フィンデガルドはどうなるのですか」

「……私は死なない」

 アステルは議論を打ち切り、その場を離れた。




 ミンツブルク城において、反皇帝軍の出陣の準備が行われているとの報は、帝都にも届いた。

 多少の混乱はあったが(と、シュタインボルトに教えてくれる人がいた)、皇帝の使者がミッドラン城へ下向してきた。


 シュタインボルトは上座を開け、自らは下座にひざまずき、使者を迎えた。

 使者は皇帝からの親書だと言って、それを読み上げた。


「汝シュタインボルト、兵を率いて反乱の諸侯たちを討ち滅ぼすべし」

 シュタインボルトはうやうやしく聞いていたが、おもむろに顔を上げ、使者に向かい合った。


「恐れながら辞退申し上げます」

 シュタインボルトの言葉に使者が慌てて、

「これは皇帝陛下のたっての願いなのだ。周りには貴殿に対し反対意見を言う者もいたが、それを押し切ったのが陛下だ」

と、言った。


 シュタインボルトはすかさず、

「そこが問題なのです」

と、続けて、

「周りが反対、陛下が賛成。まことにありがたいこと。だが、それ故恨み、妬み、そういった負の感情が私に集中します。これでは大命を受けても、誰も協力しない。あまつさえ後ろから弓引く者も出るでしょう」

「そんなことはない、陛下の命令は絶対だ。そのような裏切り者はいない」

 皇帝の使者は、声を上ずらせて言った。


「そうでしょうか。私は下級貴族の出身で無位無官の身。陛下の大命をもってしても、協力してくれるかどうか……」

「それではどうするのだ。陛下の願いを無にするのか」

「そんな恐れ多い!」

と、シュタインボルトは大袈裟に言うと、

「私は、本当に信頼できる兵たちと一緒に戦いたい、と言っているだけです」

「ほう、つまり貴殿は自分自身で兵を集めたいと……」

「そうです、そのために一つ二つお願いがあります。兵の募集と通行の自由、そしてクロトの完全な自由をお約束願いたい」

「クロトの完全な自由?それは何のことだ?」

「陛下にそうお伝え願えれば、分かるかと」

「分かった。この件、陛下に奏上(そうじょう)してみよう」

 皇帝の使者は大急ぎで帝都へ帰っていった。




 ミリアがいないとの知らせに、アステルはピンときた。

(エルザの仕業に違いない)


 アステルはエルザの部屋に怒鳴り込んだ。

「エルザ、ミリアはどこだ」

 普段のアステルとは違う表情に、エルザは驚いているようだった。


「ミリアはどこだと聞いている」

「ミリアのことは知りません」

「お前がミリアを激しく責めているところを、見ている者がいるぞ」

 一方的に言い立てるアステルに対し、エルザの表情が険(けわ)しくなる。


「アステル様、それは誤解です。私はミリアにその役割を諭(さと)したまでです」

「諭しただと。綺麗事を言うな」

「アステル様!」

 それまで我慢していたであろうエルザの苛立(いらだ)ちは、頂点に達した。


「アステル様は、ミリア、ミリアと、ミリアがそんなに大切ですか。あやつめは、フィンデガルドをこの戦いに巻き込んだ張本人。本来ならアステル様に話すこともままならない者ですよ」


 アステルの方も、エルザの言い方にカチンときた。

「弱きを助けることがそんなに悪いことなのか。ミリアは故郷を失った。彼女の居場所が見つかるまで、ここに居させてもいいだろう」


 エルザの激情も止まらない。

「故郷を失う?それがどうしたのです。私は、アステル様、私は息子を失ったのですよ。実の息子を、ミリアのせいで失ったのです。分かりますか」

「それは分かっている。マリンにはすまないことをした。悔やんでも悔やみきれない。だが、マリンはミリアを守って死んだのだ。彼こそ騎士の鏡だ」

「アステル様、私はアステル様の乳母です。亡くなった女王様の代わりに、アステル様を育ててきました。私は、マリンのことは自分の息子として接していません。アステル様の親衛隊員の一人として接してきました。私はアステル様に、人生のすべてを捧げてきました」

「……エルザには感謝している。ここまで私を育ててくれた」

 話が違う方向にそれてきたのだが、アステルはエルザの話に付き合ってやる。


「アステル様は、それではなぜ、私を一番に心配してくれないのですか。なぜ、ミリアを優先して、私を後回しにするのですか。なぜ……」

 エルザは泣き出してしまった。


(結局はそれが言いたかったのか)

 アステルはミリアの行方が気になったが、今はエルザの気持ちを鎮めることを優先した。


「すまなかった、エルザ。許してくれ。マリンを失ったお前の気持ちを分かってやらず、ミリアのことばかり聞いてしまって本当にすまない」

 エルザはそれには答えなかった。顔を背け、アステルの方を見ようともしない。


 先程とは打って変わって、部屋に沈黙が流れる。


 アステルは辛抱強く待ったが、場の空気に我慢できなくなり、

「それで、ミリアのことだが……」

と、聞いてしまった。


 場の空気はさらに悪くなり、アステルはその場を逃げるように後にした。


 結局、ミリアの行方はわからなかった。




 エルンスト城政めは、なかなかはかどらなかった。敵は城の守りを固めるばかリ。

 野戦では圧倒的な強さを誇るフィンデガルド軍であったが、城攻めは不得手(ふえて)であった。


「これでは政める手だてがない」

 アステルは苛立(いらだ)っていた。


 一週間前の戦闘では、城の間際(まぎわ)まで攻め入ったものの、高くそびえる城壁に遮(さえぎ)られた。

 また、強固な魔法シールドの前では、アステル個人の魔法力など、到底(とうてい)及ばなかった。


「ティリーは雪の女王の力を得てあの氷の壁を作っていたが、くそっ、私にはそこまでの力はない」

 アステルがくやしがっているのを見て、イブンが言った。

「アステル様、それはしょうがありません。ティリー公は魔導器を持っていて、それで雪の女王から魔法力を集めていたのです」

「そうなのか。それではティリーを倒したとき、魔導器を回収すればよかった」

「実は……」

と、イブンがふところから指輪を取りだした。


「まさか、これが?」

「はい、そのとおりです」

「ではこれを使えば、ティリー公のような大魔法力を使えるのか」

「残念ながらそれはできません」

 イブンは申しわけなさそうに言った。

「アステル様、我が軍に魔導士は一人しかいません。そのたった一人がアステル様なのです」

「そうか……そうだな。これでは宝の持ち腐れだ」

 アステルは落胆したが、何かを思い出してパッと顔を輝かせた。


「そうだ!リコだ。リコなら協力してくれる。リコはどこだ!」

「リコ様は国に帰られました」

「何?なぜだ」

「お父上の命令です。……言いたくはないのですが、バジルバーン候は今回のエルンスト攻めには反対の立場でしたから、軍を引いたのでは?」

「……この城は我らだけで落とす」

 イブンの心配をよそに、アステルは気持ちを新たにした。

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