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少年王と最強騎士団~王様だけど、先頭切って剣と魔法で戦います~  作者: 青柳 漠(アオアヲさん)
第三章 復活のシュタインボルト

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クロト襲撃

 ここはミッドラン城。皇帝からの使いはまだない。


 シュタインボルトは、マギーの衣装選びに付き合っていた。


「こっちの色はどうかしら」

 マギーがシュタインボルトに聞いてくる。


 シュタインボルトはうんうんとうなずいて、

「いいんじゃないか」

「それも似合っているよ」

「その色好きだな」

と、まるでやる気がない。


「ちょっとあなた、ちゃんと聞いているの?今日は大事なダンスパーティーがあるのよ」

 ついにマギーは怒り出してしまった。


「ちゃんと聞いているさ、こちらのピンクが良いのではないか」

「あら、私もそう思っていたの」

「君は人目を引くから、こちらの色がいいな」

 シュタインボルトはやさしくマギーに声をかけた。

 と、そこへあたふたと召使が書状を持ってきた。


「もしかして!」

と、マギーは期待に満ちた声を上げる。


「まあ、まてまて」

 シュタインボルトは書状を読み始めた。


 だんだんと表情が険しくなる。


「あなたどうしたの?」

 夫の形相が変わるのを見て、マギーが少し怯えている。


 優しい夫は、時々今みたいに怖い顔をするのだ。


「悪いがこれから執務室に行く。何、大丈夫。お前はダンスパーティーを楽しんできなさい」

 優しい夫に戻ると、シュタインボルトはその場を後にした。


「暗殺者だと……皇帝め、あくまで余を使わないつもりか……」

 シュタインボルトは書状をグシャグシャに丸めた。




「これは……ひどいな」

 アステルは荒廃した村を見て、暗い気持ちになる。


 三人はミリアの故郷を訪ねたが、そこは無残な状態だった。


 あたりを探索していたマリンが戻ってきた。

「どうやら皇帝軍が略奪を働いたあと、村を焼き討ちしたみたいです」

「ではみんなは……」

 ミリアが聞くと、マリンはとある場所を指差した。

「そこの教会に村人を閉じ込め、火をかけたそうです……」

 それを聞いて、ミリアが力を失い倒れそうになるのを、アステルは慌てて抱きとめた。


 ミリアは泣いていた。


 アステルは慰めの言葉をかけようとしたが、言葉が見つからず、ただミリアを抱きしめるだけだった。



 どれくらい時間が経ったろうか……



 泣いているミリアの涙の冷たさと、その体の温もりを同時に感じ、自分の体の奥から湧き上がってくる感情に、アステルは戸惑っていた。


 しかし、この場を支配する殺気にアステルは現実に引き戻された。

 急いで四方に目をやるが、敵の姿はない。


 その様子を見てマリンが剣を抜き、

「敵ですか、くそっ、こんな時に!」

と、アステルをガードした。



 沈黙の中、突然馬がいななき激しく体を揺すり出した。


 アステルが様子を確かめると、馬の四本足を地面から伸びた人間の手が掴んでいる。

 それも一本や二本ではない。何十本もの手が伸び、馬の動きを封じている。


「これは……逃げる道を封じられたな」

 アステルが言うと、ミリアも立ち上がり、周囲に気を配る。


 ボコッと、かつて農園であったところが陥没し、大きな穴ができた。


 さらに向こうでも土地が沈み込んでいる。

 アステルたちに向かって、土地の陥没が始まっていた。


「このままでは巻き込まれます。ああ、どうしたらいいんだ」

 マリンが慌てるのを見ると、逆にアステルは冷静になれる。


 どんどん陥没する大地。馬は足を捕まれ動けない。敵はどこだ、上か?いや下だ!



 アステルは己が立つ大地に風の魔法を放った。


 土ぼこりが舞い、地面がえぐれる。


 地面の中に潜んでいた人間が、土と一緒に飛び上がった!


 マリンが剣を振るうと、あっさりと斬られ、倒れた。


「何だ、呆気ないやつだ」

 マリンが倒れた者の覆面を剥ぐと、中年の男だった。


 だがアステルは、魔力が一向に衰えないのを感じていた。

「魔法が止まらない」

 地面の崩壊も、地面から伸びた手もなくならない。


「これはどういう……確か術者が死亡すれば、魔法の効果は無くなるはずじゃ……」

 マリンは、以前イブンが言っていたことを引き合いに出した。


「この魔法の使用者がまだいる!」

 アステルが気付いたときには、大地の陥没はすぐそこに迫っていた。


 もう逃げ場はない。


 三人は大地の陥没に飲み込まれた。

 もうもうと土煙が巻き起こる。三人の姿は見えない。


「……殺(や)ったか」

 教会の跡地から、黒装束と、土色の服。二人の人物が現れた。


 そのうちの一人が黒い頭巾を外した。女性をも羨(うらや)む端正な顔立ちが表れる。クロトだ。


「これで皇帝陛下もお喜びになる」

 もう一人の土色の服を着た、若い男が言った。


「ボクは皇帝陛下のためにやったんじゃない、閣下のためにやったんだ」

 クロトがボソッと言うと、

「まあいいじゃないか兄弟。後は死骸を確認するだけだ」

と、男は言った。



 ……土煙がだんだんと晴れてきた。



「何っ」

 クロトは目を疑った。


 三人は無事だ。

 アステルが魔反射の盾に乗り、二人を抱えて大地の上を滑っている。


「ひえ~助かった」

 マリンが思わず声を上げた。

 ミリアもほっとため息をついた。


「このままでは魔力が持たない。安全な所に降りなければ」

 アステルは小高い丘を見つけると、大急ぎでそこに向い、二人を丘の上に降ろした。


 だがその動きを、クロトは見逃さなかった。


 背中を向けたアステルに向かって、クロトは弓を引き絞り必殺の矢を放った。


「危ない!」

 それに気付いたミリアが、アステルをかばおうと身を投げ出す。


 振り返ったアステルが見たものは、ミリアではなく、矢に刺し貫かれたマリンの姿であった。


「マリン様……どうして」

 ミリアが泣きじゃくると、マリンは苦しい息の下、それでも笑みを浮べた。

「ちょっとカッコ良すぎたかな……」


「マリン!」「マリン様!」

 アステルとミリアが呼びかけるも、マリンに反応はない。


 動揺するアステルに容赦なく襲いかかる、地面から伸びる魔法の手。アステルは風魔法で魔法の手を刈り取っていくも、その数は多い。


「ミリアも守らなければならない。このままでは、駄目だ。やられる!」

 アステルが悲痛な覚悟をしたその時、パーッと暖かな光が地面を覆い、禍々しい魔法の手が消滅してゆく。


「これは魔法シールド!」

 アステル以外に、フィンデガルドには魔法を使える者はいない。


 アステルが見ると、そこに年頃十歳ぐらいの、褐色の肌の少女が一人、立っていた。


「君は……」

 アステルには見覚えがない少女だった。アステルが声をかけると、少女はわずかにニコッと微笑んだ。が、直ぐに真剣な表情になると、

「来るぞ」

と、短く言った。


 少女を守ろうとアステルが思うよりも早く、盾兵士七人が少女の前に立ち、盾を重ね合わせて少女を守る。


「これなら大丈夫か……」

 アステルはその場にしゃがみ込むと、マリンの様子を見た。




「アイツはもしかして、閣下の……」

 クロトには、アステルの横で魔法シールドを張る少女に見覚えがあった。


「クロト、どうしますか?」

 傍らに控えた土色の服を着た魔導士が、クロトに指示を求める。


 魔法はシールドで弾かれ、クロトの矢も楯兵士に防がれる。


「これは作戦失敗だ。それに閣下の名前を報告されても困る」

 クロトはその美しい顔を、傍らの魔導士に向けた。


「え……まさか……」

 魔導士がクロトの殺気に気づき、慌てて後ずさる。

 魔導士は恐怖の叫び声をあげ、クロトに魔法を放つ。

 地面から死者の手が伸びクロトを襲う。

 しかしクロトは華麗にジャンプして地面からの手をかわすと、魔導士の前に降り立った。


「まっ、待て、クロト!オレたち家族じゃないか!」

「家族だって?」

 クロトの動きがピタッと止まった。


「あんなゴミ捨て場みたいなところに集められて、地獄の訓練をさせられて、お互い助け合って必死に生きて、邪忍として育てられたボクたちみたいな関係を、家族だって?」

「そうさ!あの地獄のような環境を耐えて生きてきたんだ。俺たちには絆がある。なっ、そうだろ」

「絆……家族……そんなものが家族だって言うなら、ボクはそんなものいらないね。ボクにとっての家族はっ!」

 そう言うとクロトは、剣を魔導士の心臓に突き立てた。


「グフッ」

 魔導士は口から血を吐き、苦しそうにしている。


「ボクにとって家族とは、閣下の息子になること!」

 クロトは剣を持っている手首を返した。剣は魔導士の体の中で動き、魔導士は、

「ウッ」

と、うめくと絶命した。


 クロトは剣を抜き、魔導士の服で剣を丁寧に拭くと鞘(さや)に戻した。


 クロトはアステルを見た。


 アステルはこちらを気にもせず、マリンに対しさかんに呼びかけている。


「少年王……ボクの英雄……でも、閣下の息子になどさせるものか」

 クロトはその場から姿を消した。

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