実は強い、マリンの実力
このままではいけない。
アステルは打開策を見つけようと、氷の中から外を見た。ティリーが膨大な魔法力を使っているせいか、今まで見えなかった魔法力の流れがはっきりと見える。その流れは、氷の壁の外からティリーの指輪に向かって流れ込んでいる。
(これは……あの指輪を使って外から魔法力を取り入れていたのか。魔法力の元はティリーが口走った雪の女王か……魔法力の元を絶てば、この氷、ぶち破れるかもしれない。……集中しろ……集中だ)
アステルは氷の中からフィンデガルド騎兵の位置を探った。動き回っているが、いた!
親衛隊のフロド以下三人だ。
”頼む!雪の女王の居場所を突き止めてくれ!”
アステルは精一杯の魔法力を使って風を送った。
「感じたか」「感じた」「感じました」
魔導士の攻撃に逃げ惑っていた親衛隊三人のもとに、アステルからの風通信が届いた。今までの風通信にはない、“雪の女王を探す”という明確なメッセージが、頭の中にイメージとして浮かんでくる。三人は魔法攻撃を避けながら一旦集まった。
ゆっくりはしていられない。魔法攻撃が来る前に散開しなければならない。
「雪の女王って、心当たりがあるか?」
フロドが言うと、
「心当たりがあります!」
と、イブンが答えた。
「時が無いので詳細は省きますが、だいたいの見当はついています」
「よし!そこに向かおう!」
イブンの意見を聞き、フロドは即決。三人は馬を走らせた。
「寄ってくる寄ってくる」
馬を走らせながらフロドが言った。
フロドが指し示したのは、氷の壁を移動してくる壺だ。壺は馬にも負けない猛スピードでフロドたちを追ってくる。
「あれだけ必死になって追ってくるということは、まず間違いありません」
イブンが確信めいた表情で言った。
「しかし、このままだと追いつかれるぞ」
マリンが言った。壺のスピードは馬が走るスピードより明らかに早い。
「イブン!お前のお目当てまで、後どれくらいだ!」
「はい、あと数分で着くと思います!ですが、このままでは!」
それを聞いたマリンは馬の進路を大きく右に変えると、壺に向かって駆け出した。
「マリン、頼むぞ……」「マリンさん、頼みます!」
フロドとイブンは後ろを振り返らず駆けて行く。
「死地に赴く、俺一人。フッ、カッコイイな」
一人で戻ったところで、どれほどのことが出来るだろう。壁の上から一方的に魔法を撃たれて、それで終わりではないか。多少は弓矢による反撃もできるだろうが、しょせんは蟷螂の斧、焼け石に水……これは違うか。
とはいっても、フロドとイブンが雪の女王を探す時間を作らないといけない。
「まずは一発目!」
マリンが弓を引き絞り、矢を放つ態勢を取った。
「これは……」
よく見ると、以前より壁が低くなっている。
「アステル様がティリーと戦っている影響なのか?壁が低くなれば、多少勝機は増すか」
マリンは壺に向かって矢を放った。壁が低くなった分、以前よりも狙いやすい。
矢は狙い違わず壺に命中する。
(これで壺が止まってくれれば……)
マリンは続けざまに二の矢三の矢を先頭の壺に放つ。壺はスピードを緩めた!
(ヨシ!いいぞ)
壺は停止した。総勢十基。だがそれぞれの壺の中に、魔導士とそれを守る盾兵士がいる。
マリンの弓矢での攻撃は盾兵士に弾かれ、壁の上から魔法で一方的に撃たれてしまう。
(正直、これはないでしょう)
しかも壺から顔を出した兵士たちは、マリンが一騎なのを見て、馬鹿にしたような笑いを浮かべた。壺同士でお互い笑うと、十基のうち五基が動き出した。残りの五基はその場に残って動かない。
(ハハハ、俺の価値は壺五基分ってことか。まあ、なかなかじゃないですか)
マリンは先に動き出した五基をもう追わなかった。追ったところで、壺がスピードを緩めることはないだろう。
(ならば、今はここに残った五基を倒すべし)
マリンは騎上から矢を放つ。
矢は正確に壺に向かって飛んでいくが、盾兵士に塞がれる。
マリンが次に射出するまで、壺からの魔法攻撃。
それをマリンが避けながら、次の矢を放つ。
またそれを盾兵士が防ぐ……その繰り返し。
壷の中の魔導士たちは、もはや笑いながら攻撃してくる。もう余裕しゃくしゃくだ。
(足止めにはなっているが、敵さんは完全な遊びだな)
腹も立ったが、マリンにはこの場を打開する妙案は浮かばない。
(こちらが力尽きるか、向こうが飽きるまでこれを続けるしかない)
……どれくらい同じことを続けたか。飽きたのか、壺が動き出した。
無駄と知りながらマリンは矢を射かけようとした。だが……
「あれ?矢がない!」
馬の横腹に着けている矢筒には、もう矢がない。
「お願いだ、待ってくれ!」
マリンは動き出した壺を追う。盛んに止まるように呼びかけるが、もちろん壺は止まらない。
(ここまでか……)
すると、マリンの願いが通じたのか、壺が止まった。壺の兵士たちが、マリンの後ろ側を盛んに指さしている。
マリンが振り向くと、多数の土ぼこりが舞い上がっていた。
土ぼこりの下では、多数の軍旗を押し立てて、氷の壁に向かって軍勢が押し寄せる。今まで傍観していた諸侯たちがやっと動き出したのだ。
マリンの元にも、先ほど一緒に戦ってくれた騎士が馬を走らせてくる。騎士と共に、馬六頭にひかせた台車と、数人の魔導士も一緒だ。
「マリン殿、これを見てくれ」
騎士は馬に引かせてきた台車の中身を見せた。
それは、城壁に登るために使う巨大な攻城梯子であった。
「今まで氷の壁が高いため使えなかったが、今なら使えるはずです。すでにお味方も、城壁の上に登って壺に戦いを挑んでいるところです」
マリンが改めて壁を見上げると、大勢の騎士たちが壺に向かって突進していた。その突進を助けるように、地上からは味方の爆裂魔法による攻撃が壺に向かって放たれている。
「我らも行きましょう」
「やりましょう!」とマリン。
マリンたちは、壺から少し離れたところまで馬を飛ばし、攻城梯子をかける準備をする。
「どうやってこの梯子をかけるのですか?」
「そこは魔法の出番ですよ」
後ろに控えていた魔導士が魔法力で梯子を動かし、見事城壁に梯子をかけた。
「これができるなら、兵士たちを魔法の力で城壁の上まで移動すればいいのに」
マリンが言うと、騎士と魔導士はハハハ、と笑った。
「もちろん魔法で兵士を飛ばすこともできますが、その分魔法力を消耗します。何より兵士の安全性が保たれませんよ。梯子なら、多少乱暴に扱っても大丈夫ですし、梯子の揺れを抑えるぐらいだったら、さほど魔法力も消耗しませんからね」
「なるほど、確かに」
魔導士の言葉に、マリンは感心してうなずいた。
「分かりました。この不肖マリンが登らせていただきます」
マリンが先頭を切って梯子を登って行く。
城壁の上まで届く、長い梯子。普段なら不安定なところを、魔法の力でしっかりと固定している。
大丈夫だとわかってはいても、やはり怖い。
途中まで登ったところで、マリンは下を見つめる。
(結構高いな……)
高いところは苦手ではないが、この状況だ。当然恐怖心も出てくる。
しかし今は、目の前の壺を城壁から退治しなければならない。
氷の城壁の上は、人が行き違いできるくらいのスペースがあった。改めて見ると、分厚い氷でできている。
(これなら簡単には崩れないな。さすがはティリー公爵様ですってか)
妙に感心したマリンは、安心して壺に向かって走る走る。
イブンが作ってくれた特製の鎧は、防御力もあるのに軽い。これなら壺にたどり着くまでに、体力の消耗は極力抑えられるはずだ。
「こちらからも来たぞ!」
壺の中の魔導士がマリンに気づき、マリンに向かって魔法を唱えた。
空中に現れた氷柱が、マリンに襲い掛かる。
マリンは剣を抜くと、その氷柱を叩き切った。
ならばとばかりに、魔導士は氷の粒をマリンに向かって吹き付ける。
マリンは盾を前面にかざし、氷の粒を受け止める。そのまま一番手前の壺まで押し込むと、魔導士の肩口を刺し貫き、戦闘不能にする。
続けざまに剣を横一線に振りぬき、魔導士をなぎ倒す。
接近戦に魔導士たちは慣れていない。呪文を唱える余裕もなく、マリンは魔導士たちを戦意喪失状態にさせていく。
敵の盾兵士たちは盾を構えるだけの防御戦士で、なんと武器は持っておらず、マリンの迫力に押され次々と降参していった。
マリンが肩で息をしているところ、後ろから続々と他国の騎士たちも駆けつける。
「あとは仲間に任せて、アステル様を探しに行かないとな……」
マリンは元来た道を戻って、また長い梯子を下り始めた。
(ここでの勝利は、アステル様にはまったく貢献していないんだよな。フロド隊長、イブン、頼んだぞ)
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