アステルVS.ティリー 圧倒的な魔法力の差
「リコ、すまない。お前を巻き込んでしまった」
馬を走らせながら、アステルがリコに謝った。
「いいのよ、巻き込まれた感はあるけど、アステルが私を頼ってくれたんだもの。女は度胸、やるっきゃないわ」
「ありがとう……しかしティリー公爵はうまく誘いにのってくれるだろうか」
「そこは大丈夫じゃないかな。こうやって私たちだけ……まあ、私はオマケだけど、壁の中に入れたんだから、現れるわ」
さらに進むと、何もない空間から雪の精が現れた。
「ルドラ神の名において雪の精に命ずる。去れ!」
アステルの言葉に雪の精は姿を消していく。
「これは……なんで?」
「ルドラ神は暴風の神でもあるが、同時に雪嵐の神でもある。雪の精よりも上位の存在なのさ。昨日は気づかなかったが、私なら雪の精を押さえ込める」
不思議がっているリコに、アステルは説明した。
「やった、さすがアステル。これで後はティリー公爵だけね」
「ああ、そして……来た!」
アステルは巨大な魔法力が近づいてくるのを感じ、あたりを見渡した。
巨大な壺が……来た。壺が氷の壁の上をスーと滑ってきて、アステルとリコの上でピタリと止まった。
そして、ティリー公爵が壺の中から姿を現した。
「で、でかい!」
アステルは思わずうめいた。
脇に二人の盾兵士を従えて登場したティリー公爵は、明らかに圧倒的な存在感を発していた。隣の盾兵士は通常の大人の兵士だが、この兵士が子どもに見えるほど背が高く、しかも横幅も大人二人分かと思うくらいだ。身につけられる鎧がないのか、その服装は豪華な刺繍が施された宮廷礼服を着ている。
「なんてスケールの大きい奴だ」
アステルがそう声を絞り出す。それを聞いて、
「ちょっとアステル!なに圧倒されちゃってるわけ?あんな見てくれに騙されちゃダメよ」
と、リコがアステルを励ます。
「中身はきっと木偶の坊に決まってるわ」
「確かにそうだな……よし!」
アステルは弓を引き絞ると、ティリーに向けて矢を放った。矢はティリーに向かって勢い良く飛んで行く。
しかし、カキーン!と、ティリーの両脇にいる盾兵士によって弾かれてしまった。
「もう一度!」
アステルは矢を放つ。
先ほどと同じように矢はまっすぐティリーに向かって飛んでいく。……が、同じように盾兵士に防がれる。
アステルの放つ矢を警戒して、盾兵士がティリーの前を囲んでいるのだ。
「あーもう!盾兵士が邪魔ね!」
リコは悔しがっているが、アステルはどこか余裕顔だ。
「リコ、私の矢に風の力を追加してくれ。私がいいと言ったらやるんだ。いいね」
「分かったわ!」
アステルはティリーに向かって矢を放ったが、今回は的を大きく逸れて、ティリーのいる壺の上を超えてしまった。
「ここだ!」
アステルが矢に風の魔法を送ると、矢はグーッ、と方向を変え真上からティリーに向かって飛んで行く。
「今だ、リコ!」
「分かったわ!」
リコも矢に向かって風の力を送る。矢はスピードを増し、ティリーを射抜こうとする。ティリーは気づく気配がない。
「よしっ、これで!」
アステルはティリーに突き刺さる矢を思い浮かべた。しかしその場の空気が一瞬で凍るのを、アステルは感じた。
(ホホホ、無駄なことを)
アステルの頭の中に声が響いてくる。
「誰だ!」
(小娘、アタシに対して木偶の坊なんて、えらい言われようね。アタシは悲しいわ)
アステルの頭の中に何者かの言葉が響いてくる。
「リコも聞こえたか?」
「うん、アステルも?」
「と、いうことは……」
二人は壁の上を見上げた。
(アンタたちとは離れているから、少年王の風魔法による通信、それを使わせてもらったわ)
(あなたはティリー公なのか?しかも、私の風魔法を真似したって?)
(その通りよ、アタシがティリー。しかもアンタの風通信は一方通行。アタシの通信はお互いが話すことができる優れもの。分かった?この圧倒的な魔法力の差!)
「納得がいかないわ!」
リコが叫んだ。
「いかにもヤラレ役みたいな格好をして、アステルを上回る魔法力ですって!そんなの100%ありえないわ」
「おい、リコ。ティリー公は十分貫禄があるぞ」
隣で聞いていたアステルが、なぜかティリーをフォローするように言った。
「もう!少年王がそんな弱気でどうするの。これから王道ストーリーを歩むっていう時に、こんな雑魚キャラに倒されちゃうわけ!それじゃあ、ヒロインとしての私の立場はどうなるの!」
「おい、リコ。お前、変な本でも読みすぎたんじゃないか」
「そんなことないわよ!いい、魔法で攻撃よ!」
「わかった、風の魔法を出すぞ!リコ、いいか」
「オッケーよ」
「ビッグストーム!」「ビッグストーム!」
アステルは右から、リコは左からティリーのいる壺めがけて、風魔法による竜巻を浴びせた。二人の竜巻攻撃によって、氷の壁から壺を浮かせて地面に落下させる予定だったのだが……
「おい、リコ。もっと竜巻を大きくしろ」
「アステルの方が魔法力が大きいんだから、私に合わせてよ」
二つの竜巻の大きさは左右バラバラ。しかも回転方向も逆という、ちぐはぐさ。心配した通り、壺はビクとも動かない。
「クソ!こうなったらやけだ。リコ、とにかくありったけの魔法力を風に込めろ」
「やってるわよ!」
左右バラバラだが、二人は風に魔法力を送る。すると……
「あれは!」とアステルとリコ。
アステルとリコが作ったものではない、第三の竜巻が発生!見事、壺を氷の壁から叩き落とした。
壺はアステルたちがいる側に転げ落ち、氷の壁に当たりながらどんどん割れていく。
最後は地面に激突すると粉々に砕け散った。
辺り一面に土煙が上がる。どうやら壺は落下の衝撃で完全に壊れたようだ。
「何も見えないな……」
アステルは土煙が収まるのを待った。
すると……何事も無かったかのように、ティリーがその姿を現した。
やはりデカイ!身近で見ると、そのデカさが分かる。
アステルは改めてティリーの巨体に驚愕した。
出っ張っているお腹は異様に膨れ上がり、その顔もデカイ!なぜか兜はかぶっておらず、その頭には毛が一本もなく光り輝いている。
「ホホホ、今の攻撃にはビックリしたわ。まさか竜巻がもう一個できるとはね。あれも、アンタたちの魔法かい?」
アステルは何と答えようか一瞬戸惑ったが、
「あーそーだ。私たちの魔法だ!」
と、言い切った。
それを聞いてティリーは吹き出した。またもやアステルの頭に直に語りかけてくる。
(少年王、嘘を言ってもらっては困りますわ。あの竜巻は、偶然?たまたま?まぐれで出来たものでしょ。違いますか?なぜなら、アンタ自身がそう思っているからよ)
「何、こちらの考えがわかるのか?」
(そうよ。先ほどの続きだけど、アタシの魔法はお互いが意思疎通するだけではなく、その気になれば相手の考えを読むこともできるのよ。どう!この圧倒的な魔法力の差!)
今度はリコに向かって、
「先程はアタシを三下扱いにしていたけど、これでも皇帝陛下の弟なのよ。見てくれで判断してるんじゃないわよ!アンタなんかより、アタシの方が高貴な身分であーる。当然、魔法力もケタ違いであーる。さあ、アンタたちを氷漬けにしてあげましょう」
ティリーが身につけている指輪が青く光り輝くと、辺りに氷の結晶が浮かび上がりアステルを包みこんだ。
アステルは巨大な氷の中に閉じ込められた!
いや、アステルだけじゃない。いつの間に飛び込んだのか、リコも一緒に氷の中に閉じ込められた!
「ホホホ、どうですこの魔法力!さすがは雪の女王!」
ティリーは得意顔だ。
(なんて魔法力だ!この力は、ルドラと戦ったあの感じに似ている……)
アステルは魔法力を振り絞って、氷が自分たちを完全に包み込むのを防いでいた。
「おいリコ、大丈夫か!」
リコは今にも意識を失いそうだ。
「フフッ、こうやって二人一緒に氷漬けにされて、全ておしまいっていうのも、刺激的でいいかもね。若い二人は永遠に氷の中に閉じ込められましたとさ。おしまい」
リコがうわ言のようにつぶやいた。
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