オレたちの実力、見た!?
味方だけに知らせる場合は、言葉にならない風の音を送る。
だがそれには一定のリズムがあり、訓練されたフィンデガルド騎士ならその意味が分かる。
アステル軍は一斉に敗走しだした。
もちろん偽装敗走である。
「敵は退却しているぞ!」
ティリー軍から歓声が上がる。
追い打ちをかけようとティリー軍は前進を始めた。アステルの風通信により、アステル軍の退却は一斉ではなく、間隔を空けて退却している。そのため敵の進行も場所によりバラバラだ。
「今だ!」
アステルが全軍に風を送る。
今まで敗走していたアステル軍はクルッと反転し、バラバラに攻め上がってくるティリー軍に反撃を開始する。浮き足立ち隊形を乱しているティリー軍は各個撃破され、またもや氷の壁に向かって逃走を始めた。
今度は戦場全体に、アステルは風通信を送った。
"フィンデガルドの少年王アステル、ここにあり。手柄が欲しい者はかかってこい"
「アステル様、何を?」
「おいおい、ちょっと自分をアピールしすぎじゃない?」
フロドとマリンは風通信に驚きを隠せない。
二人はアステルの元に駆けつけようとするが、乱戦の中アステルに近づけない。
その時、氷の壁の一角が音もなく溶けて、そこにぽっかりと穴が開いた。穴の向こうにはミンツブルク城の城壁が見える。
アステルとリコの乗った馬は、その穴に向かって突き進む。
「アステル様危ない!これは罠です!」
フロドが叫ぶもアステルたちには届かない。
アステルとリコが壁の向こうに消えた後、氷の壁の穴はガタガタッ、という音とともに塞がった。
「アステル様!」
フロドは氷の壁に到達すると馬から降り、氷の壁に触った。
とても分厚い氷の壁だ。手で叩いてみても、相当な厚さだ。とても人の力で打ち破れるとは思えない。
「くそ!早くアステル様をお救いしなければ」
フロドは馬に飛び乗ると、辺りを見渡した。
ティリー軍はあらかた掃討され、あちこちで捕縛されている。
向こうからマリンが馬に乗って駆けてくる。
「フロド隊長!敵は戦意をなくし、降伏する者、逃げる者多数。この場にはもはや戦う者はいません!」
「分かった。降伏した者は武器を取り上げて一箇所に集めろ。オレはアステル様を助けに行く」
「助けるってフロド隊長、この壁を通り抜けるのはさすがに無理ですよ」
「確かにそうだが……どうしたらいい」
フロドとマリンはその場で考え込んでしまった。
「ウーン」
「ウーム」
考え込むが何も浮かばない。
「ウーン。……何か冷えてきましたね。ハッ、これはもしかして雪の精が出現する前兆!」
マリンがあたりを警戒する。しかし雪の精は出てこない。出てこない代わりに氷の壁の上を滑るように進んでくる一基の巨大な壺。
「何だ、あのデカい壺は?」
巨大な壺の底は、氷の壁をまたぐように真ん中が凹んでいて、ちょうど氷の壁を挟んで移動してくる。そして壺はフロドたちの真上で止まった。
その壺から顔を出したのはティリー軍の兵士。その格好からおそらく魔導士!
魔導士たちはフロドたちに向かって氷の魔法を放った。巨大な氷柱が空中に出現し、フロドたちに降り注ぐ。
「マリン、散開だ!」
フロドとマリンはそれぞれ別方向に向かって馬を走らせた。フロドたちは華麗に氷柱を避ける。
「くそっ!この距離なら……届くか!」
マリンは馬に乗りながら手綱から両手を離し、矢をつがえると壺に向かって放った。
見事命中!壺から身を乗り出していた魔導士の一人は、地面に転げ落ちた。
「高いところにいるから、矢が届かないと思ったのか?風の魔法がなくても、これくらいはへっちゃらさ」
マリンは二の矢を放ち、もう一人の魔導士も射抜く。
「それに盾兵士を配備し忘れるなんて、オレたちを低く見過ぎなんだよ!」
しかし、敵も反撃を開始する。体を乗り出さず、両手だけを壺の上から出して滅多矢鱈に氷の粒を放つ。
「こっちを見ない攻撃なんて当たらないぜ」
マリンは巧みな手綱さばきで氷の粒を避ける。
「マリン!大丈夫か」
フロドが馬に乗って駆け寄ってくる。
「フロド隊長、全然平気ですよ」
「そうか、良かった。しかしこの地面、えらいことだな」
フロドに言われ、マリンが改めて地面を見ると、氷によって地面はデコボコし、いたるところに氷の柱が立ち、いまや全くの悪路と化している。
「この悪路だと、止まって矢を放つならまだしも、走りながらだと馬が揺れて狙いが定まらんな」
そんなフロドの声を聞いていたかのように、壺の中から魔導士たちが四人現れた。
「敵さんも、こちらの矢が当たらないと思っているな。……ここは日頃の鍛錬の成果を見せる時だ」
フロドはマリンに言った。
「お任せを!」
マリンは威勢の良い返事をして駆け出した。フロドもそれに続く。
壺の上から氷魔法の攻撃!
地面は氷による悪路!
しかし二人は馬を巧みに操り、弓の射程まで近づく。
「今だ!」
馬の四本足が地面を離れる、そのわずかな瞬間をとらえ、マリンは弓を引き絞り矢を放った。矢は身を乗り出した魔導士に突き刺さり、魔導士は叫び声を上げて後ろにひっくり返る。
隣の魔導士は驚きの表情を浮かべた。そして威力よりも数だ、とばかりに小さな氷柱を大量に放つ。二人は巧みな手綱さばきで氷柱を避けながら、今度はフロドが馬の跳躍するタイミングに合わせ矢を放つ。
叫び声を上げて、魔導士は壁の外側に落下した。
「敵は確か四人いたはずだが……」
フロドは下から壺を見上げるが、魔導士の姿はない。おそらく怯えて壺の中から出て来られないのだろう。
勝負は……有った。
「フロド隊長〜マリンさ~ん」
イブンと複数のフィンデガルド騎兵が帰ってきた。
「おお、イブン。無事だったか」
体力を消耗し、苦しそうに息を吐くイブンに向かって、フロドは声をかけた。
「氷の壁を調査中に、アステル様の風通信を受けたのです。あんな己の居場所を晒すような風を送って、何があったのですか?敵に自分の居場所を教えるようなものです」
「確かに……そのことなんだが……」
フロドが腕組みをして考える。
「今日のアステル様は、普段より悲壮感が漂っているように思える。もしかして己の居場所を敵にさらして、敵の司令官ティリー公爵をおびき出そうとしているのではないか?」
フロドが言うと、
「確かにアステル様ならやりかねないな。自分の責任だと思っちゃうんだよな~あの人は」
と、マリンが言った。
「でも、ティリー公爵の実力が分からない以上、これは危険な賭けです!」
と、イブン。
「そうか、だからリコ様を伴って行ったのか。普段のアステル様なら、リコ様と一緒になって行動するなんてありえない。我々はここで待つしかないかもな……」
「フロド隊長、そんな悠長なことは言ってられませんよ」
マリンが氷の壁の上を指さした。
ちょうどイブンが走ってきた方角から、大量の壺が氷の壁の上を滑ってやってくる。そして、ガチャガチャ!と音をたてぶつかりながら、フロドたちの真上に止まった。
「これは……こっちはこっちで大ピンチだ」
フロドたちは急いで散開した。
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