少年王の元へ集え!
フロドが兵を留めて数分後……
アステルから、魔法による風通信が来た。
”今、野営地に着いた。これから氷の壁に向かう”
「聞こえはするが、なんだかいつもより音がぼやけているな」
フロドが周りを見ると、皆同じことを言っている。
「広範囲に聞こえるようにすると、このようにぼやけますよね。以前もありました」
「俺たちの居場所も、だいたいしかわからないから無理もないさ」
イブンとマリンも気づいている。
「まあ、いいか。アステル様を待つとする」
フロドは引き続き部隊に対し待機命令を出した。
「フロド隊長」
イブンがフロドに近づいてきた。
「イブン、何だ」
「隊長、アステル様が着く前に、この氷の壁を調べたいと思います。少し兵を分けてもらえませんか」
「いいだろう。どうやって調査するつもりだ?」
「氷の壁をぐるっと一回りしようと思います。この氷の壁は、魔法で作られた物ですが、何かしらの法則があるような気がするのです。錬金術師の情報網からある程度予想はしていますが、この目で確認したいのです」
「よし!いいだろう。アステル様には俺から言っておく」
「ありがとうございます。それでは」
イブンは数十騎の騎兵とともにその場を離れて行った。
アステルが到着した。
「お前たち、昨日はちゃんと寝たのか?疲れただろう」
アステルは皆の様子を見て心配そうに声をかけた。
「戦いにおいて、徹夜の一日や二日なんて当たり前です」
フロドが言うと、
「でもさすがに眠いよなー」
と、携帯用の干し肉をがっつきながらマリンが言った。
「すまないね、腹減りマリンくん。でも、もうひと頑張りしてもらうよ」
「と、言うと……」
アステルの言葉に何かを感じたのか、フロドがたずねる。
「うん、このまま敵と乱戦状態になり、どさくさに紛れて氷の壁の中に入ろうと思う」
アステルの言葉を聞いて、フロドは「えっ」と、思わず声を上げた。
「ちょっと待ってください、それはあまりにも危険ではありませんか。現段階でティリー軍は敵歩兵たちを壁の中に入れていません。乱戦を利用して氷の壁の中に入ろうなどと、恐れながら考えが甘いかと。もし入れたとしたならば、それは敵の計略ではないでしょうか」
フロドの言葉を、アステルは目をつぶって聞いていた。聞き終わると、
「ミンツブルク城内の士気が心配だ。ここは一気に攻めたい」
と、言った。
「イブンが今、氷の壁の調査に行っています。せめてイブンが戻ってくるまで待ってくれませんか。必ずや何か新しい知らせを届けてくれるに違いありません」
「おおー、フロド隊長、珍しく熱が入っているねー」
フロドが必死になって言うのを、茶化すマリン。
「おい、マリン!こっちは本気だ!」
ジロッとマリンをにらむフロド。
「弱ったな」
困った顔のアステル。
「どうしても駄目?」
少し可愛く言ってみるアステル。
「ダメです。さすがに敵の術中にはまりに行くようなものです。我軍には、魔導士はアステル様しかいないのです。いかにアステル様が優秀な魔法の使い手だとしても、さすがにこれは……」
ここでフロドは異常を感じ取り、言うのをやめた。
戦場には似つかわしくない、さわやかな香り。
マリンもそちらを見て、ニヤリと笑う。
アステルは……何とも気まずい顔をしている。
「私がいるわ」
案の定、現れたのはリコだった。
「リコ様、どうしてここに?」
フロドが驚いて聞くと、
「だってアステルがあんな広範囲に風通信を送るんだもの。何を考えているのだか」
と、驚きの事実を話し始めるリコ。
「アステル様、これは一体、どういうことですか」
フロドはアステルを問い詰める。
「……いやぁ〜悪い悪い。ちょっと魔法の扱いを間違えて、広範囲に風通信を送ってしまったみたいだ」
アステルはハハハ、と苦笑いした。
「アステル様、それじゃあ敵に位置がバレバレじゃないですか。敵はアステル様の首を狙ってきますよ」
マリンが言うと、
「そうです。皆アステル様を狙ってきます。ますます軽はずみな行動は謹んでください」
と、フロドも重ねて訴える。
「あのね、話を元に戻しますけど。え~、コホン」
と、リコが軽く咳払いをして、
「私がいるわ!」
と、改めてリコは己の存在をアピールした。
「……と、おっしゃいますと」
フロドがおずおずと聞く。
「私、優秀な、魔導士。アステルと二人でタッグを組めば最強だと思わない?」
リコは、エヘン、と胸を張った。
「最強だとは思いませんが、強い力なのは認めます。でも危険だ」
フロドはなかなか納得しない。
「そう、じゃあこれならどう」
リコはそう言うと、皆をとある場所へと誘った。
「こ、これは!」
アステル一行が見たものは、様々な軍旗のもとに集った兵士たちの姿だった。
騎兵から始まり、槍歩兵、弓歩兵、さらには数人の魔導士たちもいた。
「これは一体……」
アステルはリコに訪ねた。
「アステルの風通信を受けて、心ある者たちが集まってくれたの」
「この者たちが……」
アステルは感激のあまり言葉が出ない。
「そうよ、誰かの命令ではなく、一人の騎士、一人の兵士として、あなたの元に集った勇者たちよ」
リコは力強く言った。
「そうか……皆、ありがとう。皆の力を合わせてミンツブルク城を解放する!」
アステルは皆の前で力強く宣言した。
「オー!」
と、アステルの思いに応えて歓声が湧き起こった。
アステルはフロドに命じて、フィンデガルド騎兵と各国の兵士を組み合わせた混成部隊を結成させた。これでアステルの風通信の内容を理解して、各隊が一体となって動くことができる。
「何でリコがここにいるんだ」
フロドが兵士たちの編成作業をする間、アステルの傍らにはリコがいた。
「あら、私はアステルの側にいるに決まっているじゃない」
リコはさも当然のような顔をしている。
「お前はバジルバーン軍を率いるのじゃないのか?」
「さっきの私の言葉、聞いてなかったの?私とアステルが力を合わせば、ティリー公爵にも対抗できるわ。だからお願い、側に居させて!」
「駄目だ!……と言っても、どうせリコは聞かないだろ?私の側から離れるなよ」
それを聞いて、リコの表情がパッと明るくなった。
「ありがとう、アステル。もう一生離れないから」
ティリー軍は密集隊形を取っている。長槍の穂先はアステル軍に向き、統制は取れていないが逃げ場がないので逆に士気は高い。
「このまま闇雲に突っ込めば、こちらの損害が増えるだけだな」
アステルは皆に風を送った。
“フォーメーションXだ”
フィンデガルド騎兵の先導で、各部隊が一斉にティリー軍に向かって駆けて行く。
あちこちで始まる戦闘。フィンデガルド騎兵が敵に向かって突撃!……と思いきや、敵直前でスピードダウン。槍をチョイチョイ、と敵陣に振り下ろすと踵を返して自陣に戻る。
また突撃!直前でスピードダウン。申し訳ない程度の攻撃をして U ターンを繰り返す。
そういう戦闘もあれば、長槍による乱打戦が始まっている箇所もあり、また一方では弓矢による応酬もあった。
アステルは後方で指揮を執っている。
今は目をつむり、精神を集中させこの戦場の風の流れを読んでいる。
ある戦いでは味方が敵を押している。
ある戦いでは味方が攻撃の手を緩めていることにより、敵が押し気味になっている。
その全ての戦場の動きを、風の流れでアステルは把握していた。
「へー、アステルってこんなこともしていたんだ。ただ闇雲に先頭切って突っ込んでいるだけかと思った」
思わずつぶやくリコ。
「当たり前です。それにただ突っ込んでいるだけじゃなく、状況を見た上で先頭を切って戦っているのです。そうじゃなきゃ我々だってアステル様について行きませんよ」
フロドが速攻でリコにフォローを入れた。
「それでも最近のアステル様は、以前よりもまして無茶な行動が多いけどな」
こちらは全くフォローになっていないマリン。
「よし、ここだ!」
アステルはこのタイミングで、一斉に騎兵たちに風を送った。
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