戦場 夜の出来事
エルザはその場に残り、リコの方に歩み寄った。
「さあリコ様、あちら座りましょうか」
ちょうど二人が座れそうな茂みがあり、そこにリコを導くエルザ。
「どうしたのですか?機嫌が良さそうですが」
「うん、まあね」
リコの表情は、どこか晴れやかだ。
「ところでエルザ、私ってアステルのお母様に似ているの?」
「そうですね。女王陛下はお美しい方でした。リコ様も、若い時の女王陛下によく似ていらっしゃいます」
「そうなのね。やっぱりそうか……」
少し悲しそうに言うリコ。
「そのようなお顔をなさって……我が国の婦女子で、女王陛下に似ていると言われれば、皆喜びますよ」
「アハハ、そうね。私の母上だって美人だもんね」
「……もしかして、陛下から何か言われましたか」
「うん、私がアステルのお母様に似ているのが嫌みたい」
エルザはそれを聞いてウン、とうなずいた。
「年頃の男の子にはよくあることです。あまり心配なさらず、普通に接してあげてください」
「でもアステルは、私の言うことをちっとも聞いてくれない」
その言葉を聞いて、エルザはフフッ、と微笑んだ。
「それも含めて、普通に接してあげてください。アステル様がリコ様のことを好きかどうかは、それはわかりません。が、気になっていることは確かです。リコ様もアステル様のことを……」
「うん。多分、好きだと思う」
リコはハッキリと言った。
それを聞いて、またエルザはフフッ、と微笑む。
「こう言ってはなんですが、人を好きになったり嫌いになったり、リコ様たちの年頃ではよくあることです。リコ様の気持ちだって、明日には変わってしまうかもしれませんよ」
「エルザ、あなた本当に嫌なこと言うわね」
「いえ、本当のことですから。私にだって経験はあります。でもそうやって人は成長していくものだと思いますよ」
「エルザ、あなたたまには良いこと言うわね」
「ですから、ミリアのことも含めてアステル様には普通に接してあげてください」
「アハッ、ミリアのことは別に何ともないのよ。あれは勢いで言っちゃっただけ」
「……ミリアのことは私に任せてください。ミリアは危険な存在です」
エルザの表情が険しくなる。
「エルザ、あなた理解があるのかないのか分からないわ」
驚いてエルザに聞くリコ。
「ええ、ミリア自体に罪はないのです。彼女が皇帝軍に襲われ家族を奪われた……そのこと自体は本当のことでしょう。ただそれを利用してフィンデガルドを戦いに巻き込もうとする……そういう汚い大人がいるということです。ミリアの存在がこの戦いを広げている、とも言えるのです」
「分からないわ。私には分からない」
リコはボソッとつぶやいた。
フィンデガルド軍野営地……夜の闇に紛れて迫る黒い影。
「かかれ!」
オーッ、と歓声が上がり、松明の明かりが一斉に灯される。
ティリー軍による夜襲だ。
手には短めの槍を持ち、テントに向かって滅多矢鱈に槍を突きまくる。
「!手応えがありません」
「何!ヤツらどこに行った!」
ティリー軍から悔しそうな声が上がる。
その声めがけて弓矢の攻撃!
ティリー軍を囲むように、周囲から弓矢が一斉に放たれる。
「クソッ!待ち伏せにあったか!」
矢は松明を持った兵士には当たらず、その周囲に向かって放たれる。
「奴ら、明かりを目標に矢を放っているぞ。こちらからは敵の姿が見えん」
松明を持った兵士は右往左往していて、意図せず兵士の位置を教えている。
「おい、早く松明の火を消せ!」
ティリー軍から松明の灯りが消えた。
辺りは月明かりに照らされてぼんやりと明るくなっていく。
その月明かりに照らされて、鎧をまとった一団がティリー軍の周囲に姿を現した。
まさしくそれはフィンデガルド騎兵。
「ここからが俺たちの腕の見せ所だ!」
親衛隊長フロドが、ピカピカと光るボールをかかげる。
「行くぞ!」
フロドは長槍の先でぽんっと、敵の向こう側にいるマリンに向かって光る球を打ち込む。
サッ、とそこだけ光の筋ができる。するとそこ目掛けて騎兵突撃!敵歩兵を蹴散らす。
「そらっ!」と今度はマリンが前方に光る球を打ち返す。
サッ、と光の筋が前方に伸びる。その光の筋をフィンデガルド騎兵は敵歩兵を蹴散らしながら追っていく。
「くそっ!」
ティリー軍の歩兵がジャンプしてその光の球をキャッチする。
「へへっ、手に入れたぜって、おわっ!」
フィンデガルド騎兵は間髪をいれず、槍を光の中心に突き出す。
しかも騎兵が二人、両側から突き出した。
光る球を持った歩兵は両側から槍によって持ち上げられ、後方へ放り投げられる。
敵はたまらず退却を始めた。
「誰だ!フィンデガルド軍は少年王がいないと弱い、なんて言ったやつは!」
フロドがめずらしく吠える。
「光の球、お気に召しましたか?」
イブンが言うと、
「昔はああやって、馬に乗りながらみんなで遊んだよな」
と、マリンが懐かしそうに言った。
「そうでしたね。私は騎士ではなかったので見ているだけでしたが、皆さん本当に楽しそうでした」
イブンが言うと、フロドがウンウンとうなずく。
「でも、アステル様はなかなか一緒には遊ばなかったよな」と、マリン。
「父君と母君を亡くされ、物心ついた時にはもう即位していたからな。無理もない」と、フロド。
「確か、あの若い騎士が来てからじゃないでしょうか」と、イブンが言った。
「かっこいい兄ちゃんだったよな。顔はあんまり覚えてないけど」と、マリン。
「俺はみんなより年長だったから、顔も覚えているよ」
フロドが懐かしそうに言った。
「どうやったらみんなが息を合わせて移動できるか、敵の裏を取って攻撃できるか……一風変わった、面白いことを教えてくれる騎士だった」
「そういえばこういう時、あの騎士は確かこう言ってましたよね……逃げる敵を追う時こそが真の戦いだ、と」
イブンが言うと、
「て、ことは……」
と、マリンはニヤリと笑った。
「ここからはオレたちの時間だ!」
フィンデガルド騎兵は敵を追って氷の壁まで迫っていた。
ティリー軍はここに来るまでの間、騎兵の追撃を受けてその数をだいぶ減らしていた。残った兵士は氷の壁まで到達すると、口々に助けを求める。
「おおーい、開けてくれ!」
「中に入れてくれ!」
しかし氷の壁に変化は起こらない。
「あいつら何を言っているんだ」
マリンが言うと、
「どこにも入り口はなさそうだが……」
と、フロドが状況を見て言った。
「私が付近の住民に聞いたところによると、ティリー軍は氷の壁を自由に出入りしていたようです。とすれば、この氷の壁もどこかに出入り口があるはずです」
「お前、いつの間にそんなこと調べちゃったの?」
いきなり調査状況を話し始めるイブンに、マリンが驚く。
「昨日こちらに到着した時、暗くなる前に聞き込み調査したんですよ」
イブンはそう言って胸を張った。
「でも、氷の壁の中に奴ら入れないみたいだね」
確かにマリンの言う通り、氷の壁は全く変化を見せない。
とうとう諦めたのか、ティリー軍は喚くのをやめ、フィンデガルド騎兵に対して迎撃体制をとった。
「奴ら、いよいよやけになって俺たちと戦う覚悟を決めたようだね」
マリンが言うと、
「こういう場合は気をつけた方がいいですよ。死に物狂いで戦うはずですからね」
と、イブンが心配そうに言った。
「確かにその通りだ。ここは様子を見た方がいい」
フロドは騎兵に対して、ここに留まるように命じた。
「しかし、これは酷な作戦だ。敵は死を覚悟して戦っている。ティリー公爵ってのは氷の魔法を使うだけあって、おそらく冷たくて非情な奴に違いない」
フロドはティリー公爵の冷酷無比な顔を勝手に想像し、背中に冷たい汗が流れるのを感じていた。
この作品を面白いと思われた方、応援したいと思われた方は、
「ブックマーク」と、「評価」をぜひぜひお願いいたします。
アオアヲさんのモチベーション維持のために、必要な栄養分になりますので。
あなたにとって、この作品が日々の活力になれば幸いです。




