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少年王と最強騎士団~王様だけど、先頭切って剣と魔法で戦います~  作者: 青柳 漠(アオアヲさん)
第二章 ミンツブルク解放戦

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リコ様突撃

 空が暗くなってきた時分に、親衛隊の三人はアステルに呼ばれてテントの外に出た。


 月明かりに照らされたアステルとエルザは、馬にまたがり出かけようとしていた。


「アステル様、エルザ様。これからどちらへ?」

 フロドが怪訝(けげん)そうに尋ねた。


「明日以降の戦いに備えるため、これから諸侯のところに行ってくる」

 アステルがそう言うと、

「私は陛下が無茶をしないように、お目付け役で同行します」

と、エルザは淡々と言った。


「明日じゃいけないんですか?お偉いさんたちは、もう寝ちゃってますよ」

 マリンがおどけて言うが、エルザに睨(にら)まれて慌てて口をつぐんだ。


「まあ、とにかく、だ。お前たち、何かあったらよろしく頼む」

「お任せください!」

 三人は威勢よく答えた。



「さて、アステル様たちも行ってしまいましたし、ひと眠りしますか」

 イブンがあくびを噛み殺しながらテントに戻ろうとする。


「ちょっと待ってイブン。これから長くなるぞ」

 フロドに呼び止められたイブンは、えっ、と怪訝(けげん)そうな顔をした。


「長くなるってどういうことでしょう?」

 イブンが尋ねるとフロドがそれに答えた。

「お前は新米騎士だから分からないかもしれないが、戦場に着いたばかりの夜はあるんだな、これが」





「思った通り、諸侯たちは進んで戦う気はないようですね。あの氷の壁を見れば致し方ないことでしょうが」

 諸侯たちと顔合わせを終えたばかりのエルザが言った。


「諸侯たちが乗り気じゃないのは、今に始まったことじゃない」

 アステルとエルザは、馬をゆっくりと進ませながら話す。


「ここは我らが先陣を切るしかないな」

「やはりそう来ますか」

 予想通りのアステルの言葉に、苦笑するエルザ。


「陛下、少しは外交というものを学んでください。我々が先陣を切ればいいというものではありません。自分たちの戦力を温存しながら、味方を巻き込む。そのような戦略が必要です。そもそも共同で戦う時は……」

「はいはい、わかってますよ」

 アステルは慌ててエルザの言葉をさえぎった。


「陛下、ちゃんと私の言うことを聞いてください」

「聞いているさ。私だってちゃんと考えて発言しているんだ。夜が明けたらちゃんと諸侯会議を開いて話すから」

「本当ですか。会議の場に私が同行できるとは限りません。これに関しては陛下にかかっていますよ」

「わかったから。さ、もういいだろう」

 アステルはうんざりした表情で言った。


 辺りが月の光に照らされ、闇が少し明けてきた。


 アステルが空を見上げると、今まで月を隠していた雲が流れて、月の光が辺りを照らしている。


「よく見れば今日は満月だったのか。……夜襲にはもってこいだな」

 アステルがボソッと言うのを、エルザは聞き逃さなかった。

「陛下、私の言うことを聞いていましたか!絶対!諸侯たちと共同で攻めてください」

「わかったわかった」

 アステルは話を切り上げて馬の歩みを進めた。しかし、パタッと馬の足が止まった。

「お、どうした」

 アステルは馬の様子を見て、さらに周りを見た。


 ……前方に、居た。


 月明かりに照らされ、仁王立ちでこちらを待ち受けている。


「あいつは……リコ?!」



「待ってたわよ、アステル」

 リコは不敵な笑みを浮かペている。


「あなたとは、話したいことがいっぱいあるんだから」

「おいおい、私の方は特に話すことなどない」

「私の方にはあるの!それに何、その喋り方。私の前なんだから、そんなかしこまった言い方はしないでよね」

「そうは言ってもな……」

 困った顔をするアステル。


「だいたいアステルは……あっ、エルザ!」

 アステルの後方から姿を現したエルザを見て、リコは思わず叫んだ。


「エルザ……私……」

 さっきまでの威勢はどこにいったのか、口ごもるリコ。

「……リコ様、先ほどは長時間失礼しました。お詫びと言っては何ですが、いいですよ」

「えっ!」

 リコは聞き返す。


「だからいいですよ。私は向こうに行っておりますから、アステル様と存分にお話しください」

「エルザ、いいの?」

 驚いたように聞き返すリコ。

「ええ、良いですとも。さあ陛下」

 アステルをうながすと、エルザはその場を離れた。


「おい、エルザ。……仕方ないな」

 アステルがリコの方を見ると、リコは満面の笑みを浮かべていた。




「アステルは何で私からいつも逃げるの?」

「えっ」

と、アステルはリコの方を見た。

「逃げてなんかいないさ」

 アステルはリコから顔をそらして言った。


「逃げているわよ。さっきだって、そう。私が何か言いかけると、すぐに逃げちゃう」

「そんなことないさ。ほら、今だってちゃんと聞く姿勢になっているだろ」

「それは私がちゃんと聞いてって言ったからでしょ。いつもはそうじゃない」

「そんなことない。そうやってお前がいつも口やかましいから、話すのが面倒くさくなるんじゃないか。それに……」

 言いかけて、アステルは口をつぐんだ。


「それに、なに?」

 リコは聞き逃しはしない。

 アステルは黙っている。

「アステル、言って。それに、なに?」

 リコはアステルに圧をかける。

 アステルはリコを見て、また横を向いてしまった。

 リコはじっと何も言わず、アステルの言葉を待っている。ただし、アステルに対して圧をかけ続けている。


 ハー、とアステルは軽くため息をついた。

「わかった。言うよ」

 アステルはリコの方を向いた。


「言われたんだよ、リコが似てるって」

「似てるって誰に似てるって?」

「誰に言われたか忘れたけど、リコが母上によく似てるって言うんだ」

「アステルのお母様に、私が?」

 リコは目をまるくした。


「まあ、確かに、ね。アステルのお母様は、私の母上のお姉様。つまり私の叔母様だから、そりゃ、似てるかもしれないわね。でも、そんなことこれまで一回も言われたことはないわ」

 リコは右手の人差し指をあごに当てて、うーん、と考えている。


「もし私がアステルのお母様と似てるとして、それの何が問題なの?」

「だって嫌だろ」

「何が?」

 リコが不思議そうに聞いてくる。


「だって嫌だろ。母親に似てるから、お前に話しかけていると分かったら」

「うーん」

と、首を傾げるリコ。


 だんだんとアステルの表情がいら立ってくる。


「別に。そんなこと思わないよ」

「オレは嫌だよ。周りからマザコンだって思われるのは嫌だよ」

「あ、今オレって言った」

 指を差しながらニコニコ笑うリコ。


 ムスッとするアステルと、そんなアステルを可笑(おか)しそうに見ているリコ。

「誰もマザコンなんて思わないし、もし思われたっていいじゃない」

 アステルはプイッと横を向いてしまった。




「大変です、陛下!」

 アステルがムスッと、リコがニコニコしているところにエルザが飛び込んできた。

「おや、これはどういう……」

 二人の表情を見て、何かを感じ取るエルザ。


「あー、エルザ。いいんだ。で、どうした」

 アステルがエルザに聞く。

「あ、はい。我が軍の野営地に、ティリー軍が襲撃とのことです。陛下、ここは早く戻られた方が……」

「そうだな。悪いな、リコ。また今度な」

 このチャンスを逃してなるものか、とばかりに、アステルは素早く馬に乗るとさっさと行ってしまった。


リコは特に止めようとはしなかった。

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