番外編(ルーカス編)⑥「残ったもの」
あの出来事の後に残ったものを、
ルーカスの視点から描いた短い回です。
すべてが終わったあと。
それでも消えなかったものをお読みください。
静かだった。
音が、遠い。
さっきまであったはずのざわめきが。
すべて、引いている。
残っているのは——
重さだけだ。
腕が、重い。
血が、流れている。
感覚はある。
(……どうでもいい)
視線は、そこにない。
腕でも。
傷でもなく。
腕の中。
支えているものへ。
「……エリアス」
名前を呼ぶ。
返事は、ない。
目は閉じたまま。
呼吸は、ある。
浅い。
弱い。
(……なんで)
分からない。
何が起きたのか。
理解できない。
自分は、止まった。
暴走は、終わった。
それは、分かる。
それなのに。
エリアスだけが——
動かない。
「おい」
もう一度、呼ぶ。
反応はない。
肩を揺らす。
軽い。
あり得ないほどに。
軽い。
まるで——
中身が、抜けているみたいに。
(……違う)
否定する。
分からないことは、考えない。
今は。
それでいい。
周囲に、人が戻ってくる。
遠巻きに。
距離を保ったまま。
誰も近づかない。
何も言わない。
ただ、見ている。
(……終わったんだ)
そう判断する。
だから——
もう、問題はない。
腕の痛みが、遅れてくる。
じわじわと。
確実に。
広がる。
それでも。
(……関係ない)
これくらい。
どうでもいい。
それよりも。
ただ一つ。
確かなことがある。
あの瞬間。
止まった。
暴れていたものが。
崩れていたものが。
全部。
止まった。
あの声で。
あの剣で。
あの距離で。
「……助けられた」
言葉が、出る。
自然に。
迷いなく。
それが。
結論だった。
腕の中の重さが、わずかに動く。
錯覚かもしれない。
それでも。
「……大丈夫だ」
自分に言うように。
相手に言うように。
小さく、呟く。
「止まった」
それだけで。
十分だった。
それ以上は。
必要ない。
傷も。
痛みも。
理由も。
全部。
後でいい。
今はただ——
(止まった)
それが、すべてだった。
それだけで——
十分だった。
⸻
その日。
ルーカス・フェルナーは。
“止まった”という事実だけを、
ただ、握りしめていた。
残ったのは、痛みだけではありません。
それでも——
あの日の選択が、間違いだったとは思っていません。




