表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『距離を測るのをやめた日、騎士団長の恋人になりました』 ― 距離と契約の境界線 ―(彼氏×彼氏の事情)  作者: つるぎまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/39

番外編(ヴァルデン編)⑦「見えていたもの」

本編の後日。

すべてを見ていた者の視点になります。


語られなかった理解と、

言葉にされなかった結論の一端をお読みください。


 静かだった。


 部屋には、灯りが一つ。


 机の上には、書類が積まれている。


 だが——

 手は、動いていない。


 視線だけが、止まっている。


 何も見ていないようで。

 確かに、何かを見ている。


「……」


 小さく息を吐く。


 思考は、明確だ。


 あの報告。

 あの変化。

 すべて、把握している。


 距離が変わったことも。

 選んだことも。

 隠すつもりがないことも。


 全部。


(……そうか)


 短く、内側で結論を出す。


 驚きはない。

 違和感もない。


 ただ——

 予想より、早かった。


 それだけだ。


 椅子に深く座り直す。


 背もたれに体重を預ける。


 天井を見上げる。


 視界には、何もない。


 それでも。

 浮かぶ。

 過去が。


***


 小さな手。


 真っ直ぐな目。


 揺れない声。


「ぜったい、なりましゅ」


 あの時の言葉。

 曖昧さのない、断言。


 そして——


 あの目。

 よく、似ていた。


 誰に、とは言わない。


 言う必要もない。


***


「……」


 目を閉じる。


 あの子は、変わらない。


 最初から。

 ずっと。


 選ぶ。


 考えてからではない。

 決めてから、考える。


 だから——


 誤らない。


 周囲がどう見ようと。

 結果がどう変わろうと。


 あれは。

 そういうものだ。


(……似ている)


 小さく思う。


 あの在り方は。

 あの選び方は。


 昔、よく知っているものに。


 静かに重なる。


「……」


 視線を落とす。


 机の上。

 指先が、わずかに動く。

 触れはしない。


 ただ。

 そこにある距離を、測るように。


(……距離か)


 教えたはずだ。


 誤るなと。

 間違えるなと。

 選ぶなと。


 それでも——

 選んだ。


 あれは。

 自分の言葉では、止まらない。


 最初から。

 分かっていたはずだ。


「……」


 沈黙。


 長くはない。

 それでも、十分だった。


 結論は、変わらない。


 最初から。

 ずっと。


 同じだ。


 椅子から立ち上がる。

 ゆっくりと。

 迷いなく。

 窓の方へ歩く。


 外は暗い。

 何も見えない。


 それでも。

 その先を、見ている。


「……好きにしろ」


 小さく。

 誰に向けるでもなく。


 それだけ。

 声に出す。


 否定ではない。

 肯定でもない。


 ただ——

 委ねる。


 それで十分だ。



 その日。


 ヴァルデン・グレイフォードは。


 何も言わなかった。


 それでも。


 すべてを、理解していた。

何も言わないことが、答えになることもあります。


選ばれた距離は、もう揺らぎません。

それを知っているからこそ——

あえて、何も言わなかったのだと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ