番外編(アルベルト編)①「最初の選択」
本編では語られなかった、
アルベルトの“最初の選択”の話になります。
退屈だった。
形式だけの会話。
意味のないやり取り。
すべて、決まっている。
——そのはずだった。
「きしってね」
隣で、声がする。
小さい。
だが、やけに真剣な声。
「つよいだけじゃ、だめなんだよ」
視線を向ける。
そこにいるのは——
エリアス・グレイフォード。
まだ幼い。
言葉も、少し拙い。
それでも。
目だけは、まっすぐだった。
「まもれないと、いみない」
当然のように言う。
迷いがない。
(……変なやつだ)
最初の感想は、それだった。
だが。
目が離せない。
「アルベルトは?」
名前を呼ばれる。
自然に。
距離を詰めるでもなく。
ただ、そこにいるように。
「……別に」
興味がないように返す。
本当は違う。
考えている。
だが。
言葉にする必要はないと思った。
「そっか」
あっさりと引く。
無理に踏み込まない。
それなのに。
すぐ、また話し出す。
「でもさ」
少しだけ、声が明るくなる。
「つよかったら、まもれるだろ?」
さっきと矛盾している。
それでも。
本人は気にしていない。
どちらも、本気だからだ。
「……非効率だな」
思わず口に出る。
「そうか?」
首を傾げる。
分かっていない。
だが——
間違っているとも思っていない。
「どっちかでいい」
アルベルトは言う。
合理だけなら、それでいい。
「やだ」
即答だった。
一切迷いなく。
「どっちもいる」
当たり前のように言う。
理由はない。
説明もできない。
それでも。
揺らがない。
(……なんだ、それは)
理解できない。
だが。
否定できない。
視線が、逸らせない。
くるくる変わる表情。
真剣な顔。
少し笑う顔。
その全部が——
妙に、引っかかる。
(……面白い)
それが、二つ目の感想だった。
そして。
その時点で。
既に決まっていた。
理由はない。
必要もない。
ただ——
(……こいつだな)
そう思った。
⸻
その日。
アルベルト・フォン・シュヴァルツは。
初めて、
理屈ではなく、
自分の意思で“誰か”を選んだ。




