第27話「決断」
過去との整理が入ります。
ずっと引きずっていたものに、はっきりと向き合う回です。
静かだった。
執務室。
紙の音だけが、一定のリズムで響く。
いつもと同じ。
何も変わらない。
そのはずなのに。
(……違う)
思考の奥が、揺れている。
整理しきれていない。
あの言葉。
繰り返される。
『お前は正しかった』
否定できない。
反論もできない。
それなのに。
受け入れきれない。
今までの前提が、崩れている。
自分の判断。
自分の過去。
全部。
意味が変わる。
(……なら)
問いが残る。
その先。
どうするのか。
考えないわけにはいかない。
今までは。
逃げていた。
距離を取って。
触れないようにして。
関わらないようにして。
それで、保っていた。
だが。
もう、それはできない。
したくない。
(……選んだ)
はっきりしている。
あの距離を。
あの関係を。
自分で選んだ。
なら——
逃げる理由はない。
「……」
ペンを置く。
小さな音。
それだけで、決まる。
立ち上がる。
迷いはない。
考えすぎると、崩れる。
だから。
動く。
⸻
廊下。
視線がある。
噂もある。
全部、分かっている。
それでも。
止まらない。
止めない。
歩く。
一直線に。
騎士団区画へ。
扉の前で止まる。
躊躇はない。
開ける。
⸻
中。
アルベルトがいる。
いつも通り。
変わらない。
それでも——
今は違う。
「……どうした」
低い声。
「……話があります」
迷いなく。
「聞こう」
短く。
逃げ場はない。
だからこそ——
意味がある。
「……俺は」
一瞬だけ詰まる。
だが、止めない。
「逃げていました」
はっきりと。
「過去からも」
「関係からも」
一つずつ。
言葉にする。
整理ではない。
認めるために。
「……」
何も言わない。
ただ、聞いている。
それでいい。
「……でも」
息を整える。
ここで決まる。
「もう、逃げません」
断言。
その瞬間。
迷いが消える。
全部、繋がる。
過去も。
今も。
選択も。
全部。
「……そうか」
短い返事。
それだけ。
それで十分だった。
⸻
「……だから」
足が動く。
距離を詰める。
迷いなく。
触れる。
当たり前のように。
「この距離でいます」
言い切る。
曖昧さはない。
言い訳もない。
ただ——
自分の意思。
⸻
沈黙。
短い。
だが。
重い。
そして——
手が、引かれる。
「——」
ほんの僅かに。
だが、確実に。
逃げ場を消すように。
距離が、さらに詰まる。
「……エリアス」
低く。
近くで。
「それでいい」
「逃げるな」
短く。
だが、明確に。
命令ではない。
選択の固定。
「……はい」
今度は、迷わない。
即答。
そのまま。
離れない。
距離も。
手も。
意思も。
⸻
その日。
エリアス・グレイフォードは。
初めて、自分の選択を言葉にし、
そして——
その選択を、相手に固定された。
間違いではなかった。
その一言で、過去の意味が変わります。
それだけで——十分でした。




