第23話「すれ違った真実」
過去と向き合う回です。
避けてきたものと、正面から対峙します。
中庭は、いつも通りだった。
風が抜ける。
人の気配は遠い。
静かだ。
それなのに。
落ち着かない。
(……分かっている)
理由は、はっきりしている。
考えないようにしているだけだ。
昨日の距離。
触れなかった距離。
引かれた一歩。
それが——
消えない。
「……やっぱりここか」
声がする。
振り向く。
ルーカスが立っていた。
いつも通りの表情。
軽く笑っている。
それが、少しだけ。
遠い。
「……何か用?」
わずかに言葉が崩れる。
自分でも分かる。
余裕がない。
「用がなきゃ来ちゃダメか?」
軽く返される。
距離も、いつも通り。
それでも。
前とは違う。
はっきりと分かる。
「……別に」
短く返す。
沈黙が落ちる。
だが。
落ち着かない。
理由は一つ。
(……いない)
ここに。
いない。
「……さっきの話な」
ルーカスが口を開く。
「医務室の」
「……ああ」
短く返す。
自然に。
少しだけ崩れる。
「外部干渉、だっけ」
「……便利な言葉だな」
ルーカスが笑う。
軽く。
だが。
視線だけが真剣だ。
「……事実だよ」
言葉が、少しだけ柔らかい。
それでも。
誤魔化せていない。
「そっか」
あっさりと返される。
少しだけ。
距離が詰まる。
「なあ」
「……何」
「まだ引っかかってるだろ」
言葉が止まる。
逃げ場がない。
「……関係ない」
短く言う。
だが。
弱い。
「関係あるだろ」
即答。
それでも。
責めない。
「俺は覚えてる」
静かに。
「全部」
その一言で——
崩れる。
*****
訓練場。
止まらない魔力。
剣。
振る。
止めるために。
斬る。
音。
骨。
血。
*****
「——っ」
呼吸が乱れる。
だが、
逃げない。
「……俺、お前を壊した」
言い切る。
今度は。
逃げない。
「違う」
即答。
「俺は生きてる」
「……」
「お前が止めた」
静かに。
確実に。
「騎士は無理になったけどな」
軽く笑う。
それが。
一番きつい。
「……ごめん」
自然に出る。
前より。
少しだけ。
素直に。
「いらないって」
ルーカスが笑う。
「それよりさ」
視線が変わる。
「そっちの方が問題だろ」
「——」
分かる。
考えるまでもない。
その瞬間。
背後に気配。
「グレイフォード」
低い声。
振り向く。
アルベルト。
距離はある。
触れない距離。
それなのに。
(……足りない)
その一瞬で。
全部、崩れる。
思考より先に。
身体が動く。
「——」
一歩。
距離を詰める。
止まらない。
もう一歩。
完全に。
止まらない。
手が伸びる。
考えていない。
理由もない。
ただ——
触れる。
「——っ」
息が止まる。
その瞬間。
全部、揃う。
思考。
感覚。
呼吸。
それ以上に——
(……落ち着く)
はっきりと。
理解してしまう。
必要とか。
理由とか。
全部、関係ない。
ただ。
ここじゃないとダメだと。
「……」
離せない。
離したくない。
そのまま。
掴んだまま。
動かない。
「……エリアス」
低く呼ばれる。
問いではない。
確認でもない。
分かっている声。
「……ごめん」
小さく言う。
だが。
手は離さない。
「……無理だった」
それだけ。
それで十分だった。
全部、伝わる。
「……ああ」
背後で。
ルーカスが息を吐く。
「そういうことか」
笑う。
今度は。
少しだけ。
本当に寂しそうに。
「……そりゃ勝てねえわ」
ぽつりと落ちる。
それ以上は言わない。
振り返らない。
そのまま。
去っていく。
止めない。
止められない。
その必要もない。
もう。
分かっているからだ。
選んだんじゃない。
違う。
選ぶ前に——
決まっていた。
⸻
その日。
エリアス・グレイフォードは。
初めて——
理屈ではなく、
“感情で”選んだ。
過去は消えません。
ですが、その意味は——変わります。




