閑話(冴里君一視点)
ドリンクバーの前で、空知要と冴里君一の男子高校生二人組は雑談していた。
カウンセラーのさやちゃんの結婚相手が教師の先崎源三であり、さやちゃんは妊娠しているという話をした時には、空知は「ああだから、戸に選ばれたのか」と納得していた。何やら心に引っかかっていたことが解決したらしい。何よりなことである。
訳知り顔で首肯する冴里に胡乱気な目を向けていた空知だが、はたと動きをとめた。
何となく嫌な予感がした。
「冴里、今日は助けてくれてありがとう。」
空知は冴里に向かって頭を下げた。
「もう帰れってこと?」
空知は言いにくそうに目線をさ迷わせて、自身の唇に触れる。空知の癖だ。常は理路整然と語る彼が言葉に詰まったときに出る癖。泣いてるわけじゃないのに、灰の瞳に薄く水の膜が張って潤んで見えるから可哀想に思えて、冴里は言葉を飲み込んであげるのだ。いつものことだった。
「わかったよ。帰るよ。」
「ん...悪い。」
「だから、ちゃんと空知も帰ってくるんだよ。待ってるからさ、学校で話聞かせてよ。」
空知は首を傾げたものの、深く考えずに頷いた。
「勿論帰るよ。じゃあまた学校で。」
「え、まだドリンク残ってるのにここで帰れと?俺これからメロンソーダとコーラとオレンジジュースとブドウジュース混ぜて、冥さんに飲んでもらおうと思ってたのに。」
「お前、冥さんに何飲まそうとしてんだよ。」
「いや、覚悟を問おうかと〜」
「なんの覚悟だ。無事じゃあるまいし...
冥さんも冴里も何言ってるかわからない...
もういいよ。俺は手洗いいってくる。」
「は〜い」
御手洗に入っていく空知を見送り、冴里はドリンクを作り始める。空知にも飲ませたことの無いスペシャル★ドリンクだ。副作用として何とも言えない味が口の中に残り続ける。
席へ戻れば、腕を組み目を瞑って関わらない姿勢を見せる王原と、5品目を受け取る冥の姿があった。彼も不死国の奉神であるらしい。容姿も立ち振る舞いも人外には見えない。胃の大きさだけは人外並みと評してもいいが、フードファイターと言われてしまえば納得できる程度だ。やはり、人外には見えない。
「空知要に帰れと言われていたね」
あっさりと先の出来事を言ってのける彼に、冴里は驚いた。ドリンクバーまでは遠くはないが、店内の喧騒に遮られて個人の会話の内容など聞き取れるわけがないのである。前言撤回である。ちらりと見えた人外の片鱗に、日ごろはのほほんとしてる冴里はわずかに気を引き締めた。
冴里はスペシャル★ドリンクを差し出した。卓上に置かれたソレに冥の奉神はちらりと目線を送った。
「しっかり内情まで聞いたのに、まさか仲間はずれにされると思いませんでした。」
冴里はむくれていた。
「君を想ってのことだろう。不死国にはなるべく関わらない方がいい。」
「それは、空知も同じことですよね。」
冥は珍しい金の瞳を冴里に向けた。硬質で甘さの欠けらも無い石のような瞳だ。
「同じなはずだ。でも、真の意味で同じになるためには、彼は不死国に関わらざるを得ない。」
「空知の言う通り、本当に言っていることが分からない...。煙に巻けばいいってもんじゃないんですよ。 」
「煙に巻いちゃいないよ。本当のことだ。ちゃんと彼を人の立場に戻すよ。必ず解放する、それは約束できる。」
冥は冴里から渡されたスペシャル★ドリンクを勢いよく飲み干した。表情は変わらない。
冴里は冥に向かって笑みを浮かべた。警戒も、猜疑心もない、純粋な信頼が表れていた。
「僕の友達のこと、ちゃんと家に帰してくださいね。」
王原は閉じていた目を薄く開き、神と人の茶番劇を眺めていた。




