第8話 同業者
あまりにもグッタリ来たので外へ出て階段に腰を下ろす。日がだいぶ上り暑くなって来やがった。・・・そういや、あの夏祭りの時もここに座ってたっけな。目つむったら後ろからリッチェが・・・フッ、居るわけねぇよな。
「分かっちゃいるが・・・」
それでもやっぱり後ろを振り向いてみる。・・・ギルドの建物しかありゃしねぇや。まぁ、何のかんの言ってもここには世話になった。街のギルドが腐っているだけで全部が全部じゃあ無いしな。支援がなけりゃ街の出入りから身分の証明、仕事の確保なんかもままならねぇし、個人じゃ相当頑張らんとイカン地図までこうして手に入る。
次のあては全くねぇが、取り敢えずあの湖に戻ってリッチェに決意表明でも捧げてくるかな。その後は、ま、街から街へ噂集めの旅だな。
「よっこいしょうたろう、っと」
掛け声をかけ起き上がる。無意識なんだよな。こんな時でも出てきちまう。ホント、オレって奴は・・・
「ねぇ!ルイ、あれ見て、前、前!」
腰をトントンやりながら目をやると、なにやら6~7人の若い女を侍らせた黒髪ロングの男が階段を上って来る。傍らにこれまた真っ黒な・・・竜?!・・ふーん・・・オレ以外の竜飼いを初めて見たぜ。
何で全身真っ黒なんだ?葬式帰りか?このクソ暑いのに。テッカテカの黒いロングブーツ、ピッチり目のスーツに無駄にヒラつく黒いマント。なにで洗ってんですか?ってくらいサラサラキューティクルの黒髪の超美形男子。いや、オレだって若かった頃は・・・あー、記憶がねぇんだった。
取り巻き共が引いた眼でオレを見ている。ったく、若い女ってのはオッサンを見つけると大抵あんな目で見やがるんだよな。確かにボロボロで汚ねぇけど何もしやしねぇよ!
「あの人も竜飼いだね。ボク以外に飼われてる竜って初めて見たよ。うわぁ、アイツ真っっ黒だ!ダサァ・・」
「ああ。オレも初めて会うぜ・・・なんかこっち見てんぞ?こっちに来んな、こっちに来んなよ~・・・うわぁ、来やがった・・・」
「やぁ、これはどうも初めまして。貴方も竜飼いですね。私はハインツと申します。連れの竜はソースです。以後お見知りおきを」
そう言って”左手”で握手を求めてきた。しかもコイツ、わざわざ一度通り過ぎて、階段の二段上から見下し気味で話しかけて来やがってる。おぉい、竜飼いってのは人格者がなれるんでなかったんかい?ちっ、いけすかねぇ野郎だ。
「ああ、これはどうも。此方こそ初めまして。オレはルイ、コイツはリンだ。よ・ろ・し・く・な!」
左手の仕返しにチョット強く握り返してやった。
「あ、あ、いたた!」
な~にが「いたた」だよ、貧弱か!?
「ああ!大丈夫ですか?ハインツ様!」「ハインツ様!お手を!」
「それはワタクシが」「あら、ワタクシめが」
「ハインツ様!回復の護符で御座います」
「その前に、ハインツ様のお手を消毒なさらなければ!!」
「ハインツ様に対して失礼ですわ」「やっかみですわね」
「なんなんですの?あれは」
「あれは、オッサンという生き物ですわね」
なんなんだ!こいつ等!くそ、余計な事しなけりゃ良かったぜ。それに生まれた時からオッサンだったわけじゃねぇっての!”そういう生き物”で括るな!
「はは、みんな、私は大丈夫だよ?ちょっと彼を試してみたのさ。うん。なかなかやるね!・・・おや?君の竜は変わった色の竜だね、リン君と言ったかな?」
「そうだけど?なにか?」
「とても素敵な体色だと思ってね。業師の磨いた鏡面でも君の輝きには遠く及ばないだろう。その鱗から放たれる高貴な光はまるで・・」
「どのような光であっても、我の漆黒の前には無力に御座います。ましてやあのような脆弱なる光、全て吞み込みましょうぞ」
今まで黙って主の後ろに浮いていた、黒い竜が割って入ってきた。やっと口を開いたと思ったら、高圧的な喋りだな。主人に似やがったか?
「あはは!そうだね!周りが暗ければ暗いほどボクが綺麗に輝いて見えるからね。よろしくね!ケチャップくん!」
「むっ・・・ソースだ。覚えておきたまえ」
おお?いいぞ!うちのも負けてないな。流石リンだ。口喧嘩スキルはオレと毎日磨いてるからな。
「ああ、そうだっけ?ゴメンね?デミグラスくん!」
「デミ!だから我は・・・デミグラスか・・悪くないな・・・」
”ちょろいね”って顔つきでリンが勝ち誇っている。いいね、圧勝だな。
「フフフフ。キミも変わっているがお連れの竜も変わっているようだね。御主人似のいい竜だ。ソースもその辺で戻っておいで。」
お前に言われたくはない。
「ところで、これからギルドへ寄ってこの辺りの魔獣を駆除しようかと思うのだが・・・どうだい?組まないかい?ここに着いたばかりで土地に疎いのだよ。討伐は私が担うからキミは道案内などして頂けると助かるのだが・・」
「あぁ、それは残念だな。オレは今からこの街を離れる所だ。・・・この辺りの事ならギルドの弓使いでブリックって奴が詳しいから尋ねてみるといいと思うぜ」
「有難う。弓使いのブリックだね?声をかけさせてもらうよ。キミとは残念だが、また何処かで会うこともありましょう。では。いくよ、君たち」
「はぁ~い、ハインツ様♪」×七
「おう!もう会わねぇと思うが、じゃあな!ブルドッグ!」
「・・・ハインツだよ」
サラサラの髪をファサッとやり、マントをなびかせ取り巻き共と共にギルドの方へと登って行った。
してやったりだぜ。たとえ誰が相手だったとしてもブリックは容赦しねえからな。オレを案内係扱いしたバツだ。しっかり扱き使われろ!情緒不安定なこの時のオレと出会ったテメェが悪い。出来ればもう二度と本当に出会いたくねぇもんだ。




