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RUIRIN涙鱗 ライト  作者: 花殿ナイ
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第7話 なんもかんもうまくいかねぇ

 足どりが重く中々前に進まない。街に着いた頃には辺りがうっすらと明るくなっていた。昨夜の雨で今はまだ涼しいが、日が昇ればきっと今日もうだるような暑さになるに違いない。そんな日は昼から一杯ひっかけて、ってのがオレの日課となっていたのに、こんな最悪の報告をしなけりゃ為らないなんて。

  門番に顔を向けずに身分証だけ見せて通過する。面と向かったら多分、殴り殺しちまうかもしれない。何か言っていたが無視を決め込む。そんなオレを気にして「相手にしないで」とリンが言う

 あぁ、分かってる。そんな八つ当たりをしたところでどうにかなるもんでもねぇしな。

 オレは大分明るくなってきた空に向かって深く息を吐いた。


「あぁ、酒場に着いちまった」


 もう一度深く息を吐いて、酒場のドアーに手を掛けようとすると中から「リッチェ?」と勢いよくベラが戸を開いた。


「・・・なんだ、アンタかい。ヒドい顔だねぇ。それに何だかえらいボロボロだし、アンタもリンちゃんも目が蜂にでも刺されたみたいになっちまってるよ?大丈夫なのかい?それで、あの子は?いたのかい?見つかったんだろ?」


 オレは無言で、リッチェにプレゼントした今は形見となってしまったベールを差し出した。


「・・・どういうことだい?これはあの子のだろ?見つからなかったのかい?あら?・・・血?え?え?アンタ、なんだって血が?え?」


 狼狽しているベラの声に気づきダイアンが出て来た。二人ともやはり心配でずっと起きていたのだろう、ひどく疲れた顔をしている。ありのままを伝えるにはあまりにも酷だと思い汚されたことは伏せて伝えた。ベラはベールに顔をうずめて静かに泣き、ダイアンは目をつむり、項垂れ、じっと聞いていた。

 オレは頭を目いっぱい下げて謝罪した。許されようとは思っちゃいないが今のオレにはそうする事しか出来なかった。


「・・・オレのせいです。オレがつきまとったせいで、オレなんかに優しくしてくれたせいで、オレなんかに・・・・」


 「くそっ!!」ダイアンの握りしめていた拳がオレの左頬を捉え鈍い音を放った。避けられなくは無かったが受けるべきだと思いあえて受けた。数メートル吹き飛んだオレの傍にリンが心配そうにやって来る。「大丈夫だ」そう言い、その場に直立してもう一度深く頭を下げた。


「・・・娘を看取ってくれた事も、送ってくれた事も感謝する。あの子は優しすぎた。ヒトとあまり関わるなとあれほど言っておいたのに。あの子が死んだのは自身のやさしさと俺の躾のせいだ。だが・・お前の顔は二度と見たくはない!ここにも来るな」


 ダイアンはそう言いベラからベールをひったくり、店の奥へと消えて行った。ベラもそれに続きちらとこっちを見てドアーを閉めた。

 ・・・・オレは暫らく頭を下げ続けた。


「ルイ。そろそろ、いこ?」


「・・・そうだな。宿の荷をまとめ出発の準備をしなけりゃなんねぇよな」


 リンに促されその場を後にして宿へと向かった。途中、城壁の上からロープが降ってきてオレのデコにかすめ当たった。


「お~い。ルイー!昨夜はどうなったよ?リッチェは見つかったのか?」


 オレは返事をしなかった。


「ハッハッハッハァ。当たらんかったろ?」


 ロープが当たったことも、ブリックの言葉も行動も今はどうにも腹が立つ。


「当たってんだよ!いつもよ!!だいたいオマエ、リッチェの事なんか心配してねーだろ。リッチェはエルフだからとか何だとか、いつも言ってたもんな!あの娘がどうなろうが、オマエにゃカンケーねぇんだろ?」


「あ?おうおう!なんだぁ?のっけからよ!人が心配してやってんのに何だそりゃよ?!」


「あぁ、そりゃどうも御親切に。感謝感激の極みでございます。これでいいか?じゃあな!」


「なんなんだよ?・・・オマエ、今日は変だぜ?いいからこのブリック様に話してごらんよ?」


「・・・ブリックさん、ゴメンね?今日はホントに、そっとしておいて欲しいんだ」


「なんだよ、リンちゃんまで・・・わかったよ、じゃあな・・・」


 ロープを昇っていく後ろ姿がさみしそうだったがきっと全部話しちまったら”おれもいくぜ?”なんて言いかねない。何時もなら真っ先に相談しているところだが今回は駄目だ。

 クソっ。デコがチリチリと痛む・・・またひとつ大事なモンを無くしちまった。

 ダメだ、どうにも苛立ちが収まらねぇ。こういう時は決まって畳み掛ける様につまんねぇ事が起きるもんなんだ。なるべく最小限の工程で街を出よう。先ずはギルドに行って来よう。宿は間違いなく厄介ごとが待ち構えてるからな。これ以上自己嫌悪の上塗りになるのはまっぴらごめんだ。それに事務手続きの間に少しは落ち着くんじゃねえかな。

「三番窓口へ~」だの「その書類は一番窓口へお持ちに~」だのたらい回しにされるが、まぁ脳死の作業だ、何も考えなくて済む。

 もう開いたであろうギルドへ向かったのだが思った通り嫌な出来事が待っていた。

 事の発端は、ギルドカウンターに貼ってあった一枚のクエだった。ベラが夜中に来て頼み込んだのであろう。リッチェの容姿が細かく書いてあり、続いて


{エルフなのですが、何卒宜しくお願い致します。報酬はヒト相場の倍お支払い致します。}


 とある。そこまで書かねぇと誰も動かねぇってのが腹立たしいが、捜索系はヒト絡みで無ければ誰も受けないってのも事実だ。

 オレはその依頼をカウンターに持っていき「この娘は、何者かに殺害された。遺体は森の湖でオレが送った」と伝えた所、別室へ連れていかれ事情聴取を受ける事となった。詳細を知る人物が犯人ってのはよくある話だからな。

 その間にリンには、オレのギルドカードでこの街からの退出届や周辺の地図、提携施設への支払いなどの手続きを進めておいてくれた。

 聴取はオレが竜飼いであることと、良くも悪くもマァマァ知られていたことでわりとすぐに解放された。

 再度カウンターを訪ね先の報告書を提出したのだが、この受付の若ぇ兄ちゃんの応対が癇に障った。


「はい、ではリッチェさんは他殺による死亡と言う事ですね?事件ということで報告しておきます。ん・・?あ、エルフ族、でしたか。ええと、でしたら報告の必要はないですからこれで終わりです。死亡で処理しておきますね。報酬は預かっておりますが必要経費等、不足分が発生しておりましたら請求書を添えて・・・」


「処理?今、お前エルフ族は報告の必要ねぇ、っつたのか?聞き間違いじゃあねぇよな!?それにただ死んだんじゃねぇ、殺されたんだっつったよな!!そこにも書いてあんだろう!」


「誠に申し訳ございませんが、他種族に関しては生存か死亡かの項目しか御座いません。当ガンタン街ギルド協会では、ヒト族以外の管理は行っておりませんので・・・」


「オマエらほんとに胸糞ワリィな!!それでもヒトか?豚のクソ以下だな!!」


「もうやめなって、ルイ。ここのヒト達はゼンマイで動いてるんだよきっと。こっちが気分悪くなるだけだからさ、ね?もうよそ?」


「・・・あのぅ・・・報酬の受け取りを・・・」


「てめ!マジで呪符で燃やしてやろうか?」「ルイ!!」


「っ・・・フゥゥ・・・ハァ・・・振り込みで。振込先はオレじゃあねえ、大樽のダイアン。あとで口座を書いて提出する」


 クソ!ここはこの街の嫌なところの吹き溜まりだな。ヒトだのエルフだの関係ねぇーだろが!オレは博愛主義者ってわけじゃねーけどよ、なんなんだつーの!!ヒトだからエルフより美しい旋律が奏でられるのか?ヒトだからドワーフより美味い酒が造れるのか?そんな訳あるかって!

 あー、もうだめだ。ひとつキライになっちまうとみんなキライになる悪い癖が発症したぜ。リッチェとの思い出まで穢されねぇうちにとっとと宿の荷物持ってこの街を出ねぇと!!

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