第6話 再起
オレの胸に顔をうずめていたリンがビクッとして全身が硬直したのがわかる。それだけで充分だった。ゆっくりと見上げてきた目は腫れぼったく、端からまた涙が流れる。
「・・・ルイに言われた通り、聖水で清めて綺麗にしてあげたよ?嫌な思い出が残らないようにボクの焔で心も焼いてさ・・・最後に絶対会いたいだろうと思って。見た目だけでも何もなかったように・・・それで、ルイを迎えに行ってる間に魔獣に持って行かれちゃったらヤダから空間魔法の護符で隠してあるんだ・・・今・・解くね」
湖の波打ち際に空間魔法とは対の護符を使うと、今まで隠されていた彼女が姿を現す。傷一つ見当たらず胸の前で手を組み、穏やかに目を閉じている。
その姿は月明かりに照らされて光り輝き、白く透き通るような裸身はさながら女神のようだった。・・・脈打つ鼓動を感じない事を除けば。
彼女を優しく抱き上げるとオデコにキスをして、リンには聞こえないように「またせたな」と小声で囁いた。
「ありがとうな、リン。何から何までよ。最後はオレの手で送ってやりてぇんだ。残りの聖水をくれよ。おまえはそこで見ててくれ」
「・・・うん・・・」
ものすごく嫌な感じがする。ルイが真面目な顔つきの時は、決まってロクなことがない。だけど、いまこの時に何かをするわけはないと首を振り不安を覚えながらも聖水を渡した。
ルイはそれを受け取ると、彼女を抱きかかえたまま湖の中へと進んでいく。水面がルイの胸元辺りまで進んでところで彼女を水面に浮かべ、聖水の瓶を取り出すとその身体に振りかけてやった。
残りの聖水をその身に受けた肉体はこの世との関わりを絶たれ、彼女の髪の色と同じ金色の霧となり月へと吸い込まれるように消えていった。
ルイは暫らく虚ろに空を見つめていたが、やがてゆっくりとリンの方を向き、らしくない言葉を口にした。
「勝手で悪いんだけどよ、やっぱりオレも向こうに行くわ。せっかく生き返ったけどよ、リッチ ェがいねえってのは、守ってやれなかったってのは、オレにはキチぃわ・・・本当に済まないと思う。申し訳ない。月並みだけど、楽しかったぜ!達者でな」
そう言い残すとザブザブと深いところを目指して突き進んでいった。
・・・嫌な予感は、当たってしまった!!
「ちょっとまってよ!!じゃあ、僕はどうすればいいのさ、ぼくだって一緒にいきたいよ!!でも竜はそんなんじゃ死なない!ボクだけおいていくの?ボクはどうすればいいのさ!?そんなの身勝手すぎるよ!いつも一緒だったじゃない!!これからも一緒にいようよ!!ボクじゃダメなの?!」
「・・・・」
「ルイの!ばかー!!」
リンは身を丸めると猛烈な勢いでルイめがけて突進した。「ガン!!」という鈍い音と共に一緒に吹っ飛び互いに水面に浮かぶ形となったが、ルイの方は大きなコブを作りうつ伏せで浮いたままでいた。気絶した??このままでは溺死する!
「ルイ!ルイ!」
リンは必死にルイの身体を仰向けにしてやろうと頑張るが、水の中では踏ん張りがきかず上手くいかない。あぁ!ルイ!
突如、グルっと自分で向きを変えたルイは大声で笑い始めた
「あははははは!くくくっ・・・はーはっはっはっ!おーーー、いってえぇー!!目ん玉飛び出るかと思ったぜェ。むしろ今の頭突きでもっかい死んじまうつーの!」
リンはまたも涙を流しながらポカポカと短い前足でルイの胸をたたく。
「ばかばかばかばかばかばかぁ!」
ルイは水面に浮いたままリンを抱き寄せて頭を撫でた。
「ごめんな、確かに身勝手だった。ほんと、どうしようもねぇオッサンだな、オレは。今ので目ぇ覚めたぜ!しょうがねぇから、もう死のうなんて思わねぇよ。せっかく生きてんだ、もしかしたら在るかも知れねぇ”女神の涙”っつぅ、眉唾もんの代物でもよ?探してみようじゃねぇ~か。
・・・そんでよ?リッチェ生き返らせて、ヒトにしてもらって、オマエも一緒にどっかで暮らせたらな、ってよ、きっついの来た時、バチバチ~って来たぜ。・・欲張りすぎか?」
「・・・うん」
「一緒に・・来てくれるか?」
「・・・うん」
「今日は、泣き虫だな」
「・・・うん」
「今日からお前は、ピーピー泣くからピー助って呼ぶな」
「・・・うん・・うん?」
「なんだよぅっ!!」そう言ってルイのお腹にどっかりと座り込んで、再び水面に沈めてやった。




