第5話 重い思い
雨が止むのと同時に灯が一つ消えたのを感じた。急いで主のもとへ向かっていたが次第に速度が落ち、やがて力なくフラフラと漂うようになった。
「・・・自分で行かないでぼくにリッチェを頼むものだからヤな予感がしたんだ・・・死んじゃヤダよって言ったのに馬鹿ルイ!・・・ねえ、ルイ。最初から死ぬつもりだったでしょ?戻ってくる途中、アイツが来たからやっぱりなって。・・・・ぼくねアイツの腕を噛みちぎってやったんだ。ぼくの渡した剣に魔毒符使ったでしょ?だってアイツから毒の味がしたもん。カメムシみたいな味がしてウェってなったよ。・・・あれさ、魂が食い散らかされてあの世に行けなくなるヤツだよね?
あはは。すごいでしょ?竜の味覚、ナメんなよ!だよ。ねぇ?ルイ・・・褒めてくれてもいいよ?」
・・・・
「でもね、ルイはもっとすごいね。ぼくは噛み殺してやりたかったけど、そうするとあの世でリッチェと会っちゃうかも知れないもんね?
ぼくが気付くって、殺したりしないって信用してくれて、だから、使ったんだよね。ルイならきっと何か仕掛けてるんだろうなーって、思ったもん。
本当にすごいや・・馬鹿で間抜けでトンチキで、ブーツがすごく臭くって、いっつも、お金ないない言ってるくせに、悪戯用に呪符買っちゃうし・・・・
あれ・・悪口ならいっぱい出てくるのにおかしいや・・・。いまも・・・ルイが、臭いから、目に染みて涙が止まらないじゃんか」
・・・・
「ねぇ!!こんだけ悪口言ってるんだからいい加減起きてよ!!その悪戯、つまんないよ!!今まででイッチバンつまらないよ!!ねぇ!!またぼくは置いてけぼりなの?・・・今度は・・ほんとの・・置いてけぼりじゃんか…うっ・・・。
うわ~~~ん!るいのばぁーかぁー、ひぐっ、ぼくも、ぼくもそっちにいきたいよー!!ひぐっ、ばぁーかぁ~、うわ~~ん」
世界は音で溢れている筈なのに光で満ちている筈なのに、リンには何も聞こえず、何も見えなくなっていた。ただただ悲しく、ひたすら泣き叫んだ。そして、いつの間にか何も感じなくなった。
”真っ暗な泥の中みたいだ。二度と浮かび上がることが出来ないや”
感情が深く深く沈み込んでいくが、もがく意思も残ってなかった。
・・・そんなリンを救い上げたのは不意に聞こえたルイの幻聴だった。
「リン、おまえさぁ、泥の中だけにそのままドロンってか?らしくねぇな」
ルイの温かくて大きな手が頭を撫でてくれた気がした。
「・・・くくくっ、ルイったら。死んじゃっててもつまんないこと言うんだね。ありがとう。ちょっとだけ元気、でたよ」
うつぶせに倒れているルイを仰向けにして両手を組んであげた。リンは一度煙になるとリッチェの姿へと形を成し唇をそっと重ねる。
名残惜しみながら唇をゆっくりと離すと、頬を撫でながら呟いた。
「・・・コラ、無精ひげがいたいぞ?やっぱり物語みたいにキスじゃ生き返らないね。それとも、ぼくじゃダメなのかなぁ・・・」
「リッチェになった事も、この姿でキスしたこともルイが生きてたら怒るだろうな。だって竜のままじゃキスできないもん。だから、ゴメンね。ぼくもね?ルイがリッチェの事好きなのと同じ位ルイが好きだったんだよ?」
深く息を吐きながら空を見上げると、所々樹々の切れ間から月明かりが差し込んでいる。雲はどこかへ消えたようだ。
”ぼくがルイにしてあげられることをしなくちゃ”
傍らに落ちている、きっと最後に掴もうとしていたベールを拾い上げ体に乗せてやると、再び煙となりルイの身体を包み込んだ。
「リッチェの隣に、連れて行ってあげるね。一緒にお空に昇りたいもんね」
深い森の中を銀色の霧が流れてゆく。時々、月明かりを受けてまばゆく輝いた。
「あ~あ。着いちゃった。ホントにこれでお別れだね。今、リッチェの隣に降ろして手を繋がせて上げるからね」
ゆっくりと降ろしながらルイの顔を覗き込んだ・・・。
「!!くぁwせdrftgyふじこlp!!」
閉じていた筈の両目ががっつりと開いていて握り拳一つ分の距離で見つめ合う形となった。あまりにも仰天したために変な声がでて、思わずルイを頭から落としてしまった。
「あだ~!ガンって、頭の後ろ!おー、痛ぇ~!!お星さまが目の前に一杯!!かぁ~~!・・・お?これ、捕まえらんねぇかな?」
後頭部を強打した為に目の前に火花が散っているようだった。
「ってか、オマエ、ご主人様を落とすなんてヒデーじゃねぇか」
腰?が抜けて逃げるも隠れるも出来なかったリンは顎が外れたかのように口を大きくぽかんと開けていた。
「だって、ルイは死んでるから死んじゃってて、気配もなくて、息もしてなくて、ヒトは死んだら死んじゃって、生き返らないんだよ?」
「何言ってるのか解らねえけど、だからって落とすなよ。ヤッパリ死んでたとしても遺体だって痛いんだぜ?」
リンは色んな思いがどうにも出来ず飛び込んだルイの胸でワンワン泣いた。ただ、さっきと違うのはルイが生きてて、うれし泣きだって事で、うれし泣き出来ることが嬉しくて仕方なかった。
“いつものルイだ!つまんないルイだ!オッサンの、ルイだ!!”
ひとしきり泣いて安心した途端、さっきのキスが急に恥ずかしく思い出され顔を上げられないままで尋ねた。
「ルイ?一体いつ目が覚めたの??ホントに生き返ったの??絶対に死んでたよ?ルイってアンデット系のヒトなの?」
「あー、やっぱりオレぁ、死んでたんだ・・・・ちょっと前よ。何かオレ浮いてるし周りはまぶしいんでよ?ああ、ここが”酒はうまいしねーちゃんは綺麗だって”いう噂の天国ってとこだなってな。なんて思ってたらお前の声がきこえてよ。あり?若しかして、オレ、死んでないんじゃねえか?みたいな?」
”オレが生きてるってことは、ひょっとしたら、今までのは実は酔っぱらって寝ちまってて、酒場で見てる悪夢なんじゃないか?”
そうだ、こいつぁ、夢だ。悪酔いしてんだ。きっとそうだ。あまり聞きたくはないがそれでも答えが知りたい。
「・・・リッチェは?」




