第28話 端から見ればオイラも一緒
「うん!青春だね!さあて私達はどうする?私は夕ご飯前に軽くご飯食べにいくよ、リンちゃんも行く?疲れてるみたいだから食べた方がいいよ?」
「そだね。ボクも一緒に行こうかなぁ・・・美味しい物でも食べて元気出さなくっちゃね」
・・・そのころルイは少々悩んでいた。ギルドカードの残高が残り僅かなのだ。土産か宿か、それが問題だ。土産は絶対だが、アイツらに此処の温泉付き宿に泊まらせてやりたい。う~~ん、ヤダねぇ、ビンボーは!ここの所、クエなど受けてないからな・・・。うーー!まいった!!
ギルドの入り口で何度も出たり入ったりを繰り返すものだから、不審者と間違えられ守衛に捕まった。
「いや、違うんです!あ!ほら!ギルドカード!ね?オレでしょ?オレ、竜飼いなのよね?ほら、リン・・・って今居ないんだった!いや!居るんですって!」
必死に言い訳するオレの横を一輪の花を握りしめたオイデが通り過ぎる。
「あ!オイデ~~!オイデくぅ~ん!・・あ、待って!行かないでくれ~!・・・いや、話を聞いて?連れてかないで~~~!」
連行されていくルイなど、ひたむきな想いで歩くオイデの目に入るはずも無かった。
ただ、もう一度あの娘に微笑む顔が見たかった。いや、出来れば満面の笑みが欲しかった。
”んナァ、この花をあげたら喜んでくれるかナァ・・・そんでもう一度あの娘の前で踊ってやるんだナァ”
そう思うと、心が弾んだ。
”おかしいんだナァ。もう追いつくハズなんだナァ?この辺りは岩ばっかで家なんてないんだナァ・・・でも、確かにこっちにきてたんだナァ・・・”
岩陰の向こうに、僅かにあの娘の声が聞こえた気がして耳を澄ました。
「・・・う・・・おと・・さん・ごめんなさぁ・・・い・・・んっ」
”んナァ!この、声は?そんな、まさかナァ!父親からそんな事をされる筈がないんだナァ、きっと違う、そう聞こえるだけなんだナァ!”
そんな願いは、岩陰の隙間から見えた光景に儚くとも消えた。
「はあ、はあ!お前を育ててやるのが、どんなに大変か!お前はこうして、俺のする事に従っていれば、良いんだよ!はあはあ!それを!なんだ?俺以外の男と親しげに!お前は!俺の!!父さんだけのモノだ!」
「はい・・・ウレシイ・・・です・・・ママの代わり・・・私だけのパ・・・パ」
”・・・なんてこったナァ・・・あの娘、やられてんのは心の方だったんだナァ・・・んナァ・・でも嫌がってるふうには見えなかったし、これもヒトの家族の形、なんかナァ・・・。ま、オイラたちの間じゃよくある事ナァ~。見なかったことに、しとくナァ!”
ようやく上り始めたお月さまに、握りしめていた一輪の花を添えその場をそっと離れた。
小石を蹴飛ばしながら、今来た道を引き返す途中
「だ~か~ら~!」
とルイのデカい声が聞こえた。ヒョコっと覗いてみるとルイが三人ほどの守衛に囲まれて必死に何かを説明していた。
「ああ!オイデ!お前さっきはよくもシカトしてくれたな!お陰で・・じゃない。お願いだからリンを呼んできて!たのむよ~。オイデ様~~!」
「・・・めんどくせ~んだナァ・・・でも、呼んで来ねっと、もっとめんどくせ~んだナァ・・・ったく、世話の焼けるオッサンだナァ!」
・・・リンを見つけ呼んで来てやると、程無くしてルイは釈放された。
「いやぁ~~!助かったぜぇ!全く頭の固ぇ奴らでよ!まいっちまったぜ!」
「もぉ~さ!恥ずかしいから、ほんとにやめてよね!ボクだってイチイチ変身したり戻ったり面倒じゃん!バカルイ!」
「馬鹿とは何だよ!馬鹿とは!オレだって色々あってだな!お?あいててっ!耳引っ張んなよ!」
「あいた!ちょっと!髪引っ張んないでもらえる?」
「んナァ・・・二人ともやめてもらえネッかナァ?周りの目が、気になるんだナァ!」
オイデに注意されて辺りを見回すと遠巻きだが注目の的になっていた為にそそくさとその場を離れた。
「そんな事より、好きなもん喰っていいっていうの、忘れてないんだナァ?オイラ、いっぺぇ喰いてぇ気分なんだナァ!」
「おおう!忘れてねぇぞ?今助けてもらったしな!トカゲが美味ぇぞ?・・・そうだな、うん!決めた!カネの使い道は宿にしよう!・・お?なぁ、今のちょっとセリの奴に似てなかったか?うん!決めた!・・な?」
「・・・似てねぇし、イラっと来たんだナァ!やっぱし、助けなきゃ良かったんだナァ!」
手配した宿へ向かう道すがら、まぁ遠慮のカケラも無くあれ喰いてぇ、これも喰いてぇとしこたま頼むもんだから途中から配達してもらう事にした。・・・ヤベェな。予算が・・・!明日は、ちょっとギルクエでもこなさんと、ホントに一文無しだぜ・・・。
宿は思いのほか綺麗で、個別の広い岩風呂が付いていた。届いた料理を暫らく動けなくなるくらい堪能した後、岩風呂に入る事にしたのだがリンの提案で女子組(リンは変身していた方がお風呂が気持ちいいのだそうだ)とオイデ、オレの男組に分かれた。先にオレ達が頂いたのだが、まぁ温まる事!腰と関節に効く感じでいい湯だったねぇ!
続いて女子組が入って間もなく、オイデが
「オイラ、ちょっと出かけてくるナァ。ちょっとした野暮用、思い出したナァ・・・」
「なぁ~んだよ?はは~ん。覗きに行くんだなぁ~?オイデ君も、お年頃なのかなぁ~?」
「・・・んなぁ~~~。オイラ、オマエとは違うんだナァ・・・もう、発想がやっぱりオッサンなんだナァ・・・!」
そんことを聞いて、ルイが覗きでもするんじゃないかと不安になったオイデだが、どうしてもやらなければ気が済まないことがあった。
「匂いは覚えてるんだナァ!・・このあたり・・・此処ナァ!」
ある民家の前で立ち止まり、二度三度、戸を叩く。
「はい?どちら様で?」
呼び出しに応じ、顔を出した男の首ねっこに飛び掛かりそのまま物陰へと引きずり込んだ。コイツは許せない。鬼の様な形相で喉元に岩をも砕く鋭い爪を突き立ててやった。
「ひぃい!!こ!殺さないでくれ!娘が!私には大事な娘が!私が死んだら娘が困るんです!どうか!命だけは!!」
「んナァ?大事な娘?そんな風に思うんなら、二度と!あんな事を実の娘にしないとこの爪に誓うナァ!!そしたら、命は取らないナァ!・・・もし、破ったらゼッテェ殺しに来っからナァ!生きたまま、はらわたから喰ってやるかんナァ!・・・忘れられたら困んから、今日の所はこれで勘弁してやるナァ!!」
そう言うと彼の片耳を食い千切ってやった。「お助け!」「お助けェ」と転げまわる彼を置き去りにして帰ろうとした時に、ドアーの前で父親を待つ娘が視界に入りふと、脚を止めた。
娘は、ビクッと身を固くして怯えた。その表情には恐怖以外の色はなかった・・・。
”そうなんだナァ・・ヒトから見れば、オイラも只の魔獣なんだナァ・・・。んナァ・・ま、いいかナァ!オイラの気は済んだし、もう、会うこともねぇしナァ!さ!早く帰って、ルイのオッサン、しっかり見張ってなくっちゃナァ!”
宿へ帰ると、ルイがのされて転がっていた・・・。




