第27話 いってオイデ
「ドワーフか・・・。そういやぁ、酒場のダイアン夫婦もドワーフだったけかな・・・。あの事件からまだ数日、きっとふさぎ込んだるんだろうな・・・」
っと、いけねぇ。また心がダメな方に向いちまうとこだったぜ。オレは昼飯の時に奥歯に刺さった魚の小骨を眺めながらちょっとだけ感傷的になっていた。
しかしアレだ。ドワーフてぇと、美味いツマミと酒が絶対必要だな。「会えるかどうか」的な事言ってたが少なくとも手土産の一つも持ってかねぇと。初手が肝心だぜ。
う~ん、森を抜けるまでは小一時間、ってとこか?ここからだと・・・たしか”ロックガーデン岩原”が近かったな。何だか「馬から落ちて落馬した」「頭痛で頭が痛い」みたいなネーミングの街だが、良いところなのだ。オレは4回ほど立ち寄ったことがあるが・・・おお!うん、うん!!確かあそこのサボテンから作った酒が絶品だったな!一緒に出てくる芋虫の粉を混ぜたピンク色の塩が、こ~れがまた合うんだ。塩だけで一瓶空いちまうってもんよ!よし、決めた。
手土産はそれだな。
「リン、地図で”ロックガーデン”の方向を確かめてくれ。セリ、オイデ、ちょいと寄り道する。シグさんへの手土産見繕いにな、近くの街へ行くぜ。良いところだぞ~?トカゲ料理と酒がうまいんだ!岩風呂もあるぜ?あと、賞金稼ぎも多いから、強い奴、居るんでないかい?」
「うん?寄り道?私は構わないぞ?賞金稼ぎか・・・うん、ちょっと興味あるかな。私としては、トカゲ料理が気になるけどな!!」
「オイラ、風呂!風呂なんだナァ!んナァ~~!岩風呂!故郷じゃ、まいんち入ってたっけかナァ・・・。そいやぁセッちゃんとも岩風呂であったっけかナァ!」
「うん、そうだったね♪ああっ!オイデも変身出来んだぜ?」
「まじか!!・・・あの”ヒトを化かして喰っちまう”ってのは、噂じゃあなかったんだな!!怖えぇっ!!」
「・・・オイラたちは、ヒトなんてまっずそうなモン、喰った時ないんだナァ!そりゃあ、揶揄からかったりするときもあるけんど、この爪だけを目当てにオイラたちを狩るヒトの方がよっぽど怖えんだナァ」
「・・・面目ねぇ」
「ねぇ!ちょっと変身してみて?マホー使わないで変身できるのって、ボクら竜と、タヌキ、キツネの三種族だけだもんね!」
今まで何だか知らねぇけどずっと黙っていたリンが興味津々だ。
「オイラ、変身すっと喋れねぇんだナァ。喋っと解けちまうんナァ~。それにオイラの服がねっから、無理ナァ」
「んふふふふっ♪そんな事もあろうかと、服を一緒に買っておいたんだなぁ~!!・・・色々ありすぎて中々出せなかったよ!!」」
乗り気でないオイデを「夕飯に好きなもん食っていい」で釣り上げて半ば強引に変身してもらったのだが、木陰から出て来た彼?を見て危うくまた死んじまうところだった。・・・笑い過ぎで!
オレの服の様に、袖口と胸元にヒレヒレがついた真っ白なシャツ、半ズボンに長い靴下・・・シルクハット・・・眼帯がないだけでどこの国の女王の番犬だ?執事が付いてそうな感じがまた笑いを誘う!!
そんなオレとは正反対に女子?組はキャアーキャアーとまぁ大喜びだ。リンの奴可愛い物が好きだから即、飛びついたね。あんまりにも騒ぐものだから、恥ずかしがるオイデがズボンの裾をギュっと握りしめてうつ向く。その仕草がまた「可愛い~~♡」と大変な盛り上がり様だった。
・・・ちょっとオッサン面白くないな・・・。一人だけ笑ってたオレが、何だか惨めに思えてきた・・・グスン。
ひとしきり盛り上がった所で、ようやくリンが地図を開いた。・・・森を抜けて左・・・ふぅむ、この距離なら日が落ちる前には着けそうだ。今日はそこで宿を取って、明日シグさんの住んでるっていう、城を目指そう。そんじゃ、ま、しゅっぱー・・・オイデ、そのままなんだ。ふうん、あ!ちょっとドヤ顔でオレを見てやがる!チックショ~。みてろよ!?
「オイデ、夜飯何喰いたい?」
「オイデ、変身すると、尻尾なくなっちまうんだな!何処に仕舞ったんだ?」
「オイデ、ご自慢の爪も見当たらんのだが?」
オイデは喋ると変身が解けるっつてたから、何とか喋らせようと質問攻めにしてやったぜ。
「ああ!そっかあ!今は喋れないんだったっけ~?ごめんな~?」
「ルイ、お前小さいな・・・」
「ホント!竜飼い様のする事じゃないよねぇー」
「フンだ!ほっとけ!!・・・ほれ!ガキ共、おいてくぞ~?夜になっちまう前には着きてえんだからよ」
道中未だにキャイのキャイの後ろでやっていて、たまにオイデの奴が見事なステップで踊りを披露する。まぁキツネだしな、若いしな、まぁ身軽だわな。ふん!オレだって・・・!!
「ズザーー」足がもつれて見事にすっころんだ・・・。
「ルイ!?若しかしてまた、背中??」
「いや、大丈夫だ!ちょーっと、石コロにけつまずいただけよ」
「そう、良かった・・・全く気をつけてよね~?ドキッとさせないでよ!!」
見られてはいなかった様だが心配されて逆に心が痛む。もう、やらん。
辺りが夕日に染まって来たころ、ようやく街へ着いた。ひとまず歩きっぱなしだった足を休ませたい。確か、入り口横の・・・あった!
「モモの桃色温泉万汁」ネーミングがまるで如何わしい店の様だが、れっきとした饅頭屋だ。誤字のせいで客足がうすいがここの饅頭はとても美味いのだ!
温泉の蒸気を利用して蒸した饅頭なのだが、ほんのりと酒の香りがしてモチッとした皮にほどよく粒の残った餡が包まれている。粒あん派のオレとしては最高の仕上がりだ。此処で渋めのグリーンティーと饅頭を頼む。
「おやおや。こいつはあれだね。あんた、何度か見た顔だねぇ。お連れの竜君はどうしたんだい?」
店の奥から、風が吹いたら鳥より高く飛んでっちまいそうな小柄な婆様が出て来た。店主の”モモ”婆さんだ。
「どうも!ご無沙汰しております!お元気そうで何よりで・・・おや?肌が?少し若くなりました?」
「ハンっ!そのお世辞!やっぱりアンタかい!何にも出やしないよ!饅頭もまけてやらん!」
とかなんとか言いながら店の奥へと引っ込み、桃色に染まった漬物を持って来てくれた。甘い饅頭、渋いグリーンティー、漬物!疲れを癒すにゃ最高だろ?
「婆ぁ~~ちゃん!店の看板、いい加減何とかしなって!もっと流行っていいもんだよ?ここの饅頭!」
「いいんだよ!あのままで!間違って入って来る男どもの、びっくりした顔を見るのが好きなのさ。・・・アンタも相当ビックリしてたっけねぇ!ひひっ♪」
あぁ!!婆ちゃん、余計な一言を!!・・・背中越しに三人からの白い眼差しが刺さって・・・
「ゴホン!さ、さ~て!一息ついたし、皆夕飯まで好きにしててくれ。オレはァ、ギルドで宿の手配してくるわ!じゃ、そういうことで!!」
「・・・逃げたね」
「うん、逃げたな・・・ところで、何とまちがえるんだ?」
「ズコー!!」オイデとリンが懐かしいコケ方をする。
その様子を一人の娘がじっと見つめていた。
「うん?どうかしたか~?あ、お饅頭たべるかい?・・・?・・お~い!キミ!」
「ああ、あの娘かえ・・・あの娘はな、この街へ来る道中で魔獣に襲われてな・・・その時から耳が聞こえなくなっちまったんだとよ・・・かわいそうになぁ」
暗い顔の娘の前にオイデがピョンと飛び出し帽子のふちに手を添えて軽くお辞儀をすると、踊りを1つ披露した。すると少しだけ少女がほほ笑んだように見えた。
「おお!これはお坊ちゃん、娘の為にとても良い踊りを有難う。こ~ら!お父さんから離れちゃダメだろう?心配したぞ?ああ、本当にすみませんでした。・・・・妻が身代わりに殺されて以来、耳と共に心を閉ざしてしまいまして・・・。私も男手一つなもんで楽しいことの一つも満足にしてやれず・・・。ありがとう!娘も喜んでいたみたいで、久しぶりに顔色が良いです。ありがとう!!」
「・・あ・りあとう」
耳が聞こえないせいか発音が少しずれてはいたが、礼を言われたオイデは無性にうれしかった。今は喋ることが出来ないので、代わりに地面に「どういたすまして」と書いてみせた。
少女はやはり少しだけ微笑んで隣に「どういたしまして」と書き直しお父さんに手を連れられて帰って行った。途中、一度振り返った少女の顔はまた暗かった様に見えた。
「オイデ!やるね!・・・ボクのみたとこ、あの子キミに気があるんじゃないかなぁ!・・・アレアレ?オ・イ・デもかなぁ?ニヤニヤ」
”別にオイラは・・・”そうは思ったが、別れ際の暗い顔がどうにも気になって仕方なく、道に飛び出した。一度セリセリの方を振り返ると、親指を立てウィンクをしていた。




