第29話 こんな時に
風呂場で「リンちゃん、髪綺麗だね~」とか「セッちゃん、オッパイすっごいね!」とかのお決まりトークがなされているころ、ルイは旅館のテーブルの上に置かれた、二枚の呪符に悩まされていた。
「・・・参った。アイツらに風呂上がりのミルクと饅頭を買って来てやろうと思ったが、どっちが外に出る呪符だったっけかな。説明されたんだけどなぁ~。どっちかがカギでどっちかが風呂場・・・覚えてねぇな・・・便利なんだか不便なんだか・・・くっそメンドクセェな!!出てくんの待ってんのもかったりーしよ!・・・目覚めろ!オレの第六感!よし!コッチだ!お前に決めた!」
片方の呪符を丸めて結界に投げつけた。
「いえ~い!お外、ゲットだ・・・ぜ・・・?」
オレは投球フォームのままその場に凍り付いた。目と鼻の先で、あぐらをかいた素っ裸のリンがセリの膝の上に乗せられて髪を洗われていたからだ。
「・・?うん?ルイ?どした?一緒に入るのか?」
「っっっ!!きゃぁぁぁぁっっ!!!」
リンがデッケェ悲鳴を上げ、右ストレートをオレの顎めがけて放った!オレの記憶はソコで途切れた・・・。
「・・・っていう訳なんだが、いや、マジで信じてちょ~よ!!覗こうとしたんじゃねぇって!!そんな事するぐらいなら、堂々と入って行くっての!!だろ?」
意識の戻ったオレは、とりあえずその場に正座させられていた。
「・・・堂々かは知らねぇけんど、そんなやり方はしないと思うナァ。やるならもっと姑息にやると思うナァ。きったねぇ手使うの得意だかんナァ」
「だろ?前もって岩に化けとく、とかな・・・っておい!汚ぇってずいぶん冷てえ言い方だな~。怒んなよ~。リンも
全くよぉ、いきなりガツ~ン、だもんな~」
「ごめんて!だけどふつーにビックリするじゃん!!それにボクだけならまだしも、セッちゃんも居たんだよ?セッちゃん!裸見られたんだからもっと怒ってもいいと思うよ!!」
「うん?私は別に構わないぞ?村じゃ皆で入っていたしな・・・。私としてはそれよりも、オマエを運んでるときに浴衣からチラっと見えたんだけどさ、なんで股の毛を剃らないんだ?私に股間を見せつけた時には確かに剃ってあったのに!若しかしてオマエ、エルドラの神に仕えてるならちゃんと剃れ!そっちの方が大事だ!」
「エルドラ?・・・いや、オレぁそんなことひとっことも言ってねぇよ!?そもそもな~んも信仰してねえし、勘違いも甚だしいぜ。毛が無かったのは・・その・・あれだよ。毛ジラミにな、ちょっとやられてて、痒くて仕方ねぇから剃ってたんだよ・・・なんだよ、皆してよ!イジメかよ!オレァお前等の為にと思って外に行こうとしたんだぜ?そりゃ、間違ったのは、悪かったとおも・・・」
「ズドーーン!!」
さすがのオレもアタマにきて立ち上がろうとした瞬間、大きな炸裂音と共に地鳴りが襲い掛かって来た。
急いで窓を開け音の方角を確かめると、悲鳴に交じり獣の遠吠えと警報の鐘の音が聞こえた。
「ちっ!こんな時に魔獣の襲撃か!それもどうやら群れで来てやがるみてえだ!くっそ!メンドクセェ~がいっちょ、パパッと返り討ちにしてやりますか!行くぜ!リン、セッちゃん、オイデ!!」
「・・・あだ名で呼ぶな。ふん」
コッチもこっちでメンドクセェな!なんなんだよ。まぁ、今はそれどころじゃねぇ。とにかく街の被害を最小限にすることが最優先だ。後手の戦いはあんまし得意じゃねぇがセッちゃ・・セリセリとオイデがかなり強ぇから、SSクラスでもねぇ限り何とかなるだろう。
「ルイ!!」
おぉ!さすがリン、相棒だけのことはある。オレの装備一式を投げてよこすのと同時に呪符を何枚か抜き取っていた。何を選んだのかは勘で解る。
「セリセリ!オイデ!傍に来い!!」
「ふん!お前の言う事なんか聞くもんか。な!オイデ」
ヘソ曲げにに付き合ってる時間がもったいねぇ!こっちから近づいて行くのと同時にリンが呪符を破り効果を発動させていく。思った通り、単体ではなくメンバー範囲系の呪符だ。
「身体能力向上!物理耐性向上!攻撃魔法防御!耐性低下魔法反射!」
オレ達をキラキラとしたエフェクトが包み込む。程よい高揚感とともにステータスが上がって行くのを感じる。敵の魔獣が何者か不明の場合、不意打ちに合うのが一番恐ろしい。範囲系は単体系に比べ効果は薄いがここは幅広く備えておくのが吉だ。
しかしまぁ、しみったれたことを言うと・・・高くついたなぁ!せめて、換金可能な魔獣であってくれ!
外へ出ると、辺りは逃げ惑う者や装備で身を固めた者などでごった返していた。悲鳴が聞こえるたびに背中のアザがズキズキするが、今は戦闘に集中して忘れよう。
護符の効果で上がった脚力で屋根の上まで飛び上がると、前方十一時の方向に黒い一筋の群れが見えた。
「あれは・・・ヘルハウンド??」
おかしい。たしかに普段から群れで行動してはいるが、それはせいぜい5~6匹といったところだ。だがあれはざっと数百は超えている。こんな群れ、見たこたねぇ!これは何だ?何かに憑りつかれているのか?これじゃあまるで、軍隊アリの大行進だ。
「数が多いな!」
そろそろ街中に差しかかる、といったころで奴らの列が崩れた。
「マズイ!!奴ら散りやがった!! このままじゃぁ手あたり次第襲われちまう!俺達も二手に分かれよう!」
振り返ると、セリセリはもう飛び出していてそこには居なかった。くっそ!いい加減にしろよ?・・・っと!早速襲いかかって来たか!!
「ギャン!!」「ギャウン!!」オレは左からの襲撃をそらし右手のヤツを切り伏せる。リンは左の奴を噛み殺した。
ヘルハウンドは大抵三匹ひと組で狩りをする。左右から同時に襲いかかって来てソイツらに構っていると真ん中から本命が飛び出して来て防ぎよう無く殺られちまう。だから先に左か右のどちらか一匹をまず片付けるのがセオリーだが、それはソロの奴らには結構厄介な話なのだ。
実際、既に殺られているものが出始めていた。アイツらはハラワタしか喰って行かねぇからまだ意識があり呻いている者がいる。おおぅ。ああはなりたくねぇもんだな。
仲間をやられ突っ込むしかない真ん中の一匹を軽く切り捨て、次の群れ、次の群れと倒していく。が、全くキリがねぇ!何とか一か所にまとめてぇとこだぜ!!このまま後退しながら街の中央広場まで引っ張っていくか!きっと、周りの奴らも同じことを考えているに違いないからな!
奴ら魔獣に感づかれない様に劣勢なフリをすると、罠と気付かず調子づいた魔獣どもはいとも簡単につられてくれた。よし、広場を目指そう。




