第24話 ローリングストーン
街へ着くなり門のところでオレとリンは別の場所へ連れていかれ、服を脱げと言われた。検疫だとさ。セリはさっき受けたからとそのまま通過していった。リンは裸は嫌と一旦竜に戻りそのままパス。オレはアチコチ調べられ背中のアザについても聞かれたがあの街の感染症ではないと判るとそれ以上は聞かれなかった。だが!そんな事よりも検査官が女エルフで
「なんだ!?お前にぶら下がるそのどす黒く染まったモノは!!感染しているのではないのか!!・・・異様にデカいな・・・まさか魔獣の類いか!?」
と、俺のイチモツにケチを付けてきやがった!!見たこと無いのか?と尋ねたら「無い!」と即答された。そんなのに検査させんなよ!あまりにもしつこいしサーベルの鞘でつつき回すもんだから頭にきて入り口の衛兵のズボンを下げてやったぜ!・・・ところがソイツのモノは生っ白くて被ってて余計に説明が面倒になってしまった・・・。
なんとかパスして入国出来たが、何か一気にこの街が嫌いになっちまった。まだ入り口なのに。気が滅入ったが先ずはローレイっつたか、そいつ探さにゃ始まらねぇ。
噴水の傍で片膝を立て休んでいるエルフに声をかける。オレがヒトだからか初めは相当警戒されたが色々と話してくれた。女神の存在は分からないが、石は有ると。確かにローレイが知っているとの事だった。そのうえ丁寧に住まいの地図まで書いてくれた。書いてある文字はエルフ語で読めないが・・・。ただ、「会ってくれるかどうかは分からない。ヒトを救えなかったことをひどく気にしていてる。ましてあなたはヒトだ」・・・だ、そうだ。
別れ際に「私も済まないと思っている。ただ私は何者でもないただのエルフだ。祈る事しか出来なかったのだ」と。ふうん、まぁ一応は済まないと思ってはいるみたいでちょっと安心したぜ。
地図を頼りにたどり着いた場所は全ての窓が閉め切ってあり、入口のドアーに溜まった砂埃から大分出入りがないことを物語っていた。本当に住んでいるのか?中で死んでんじゃねぇのか?不安に駆られながら戸をたたいた。
「ローレイさんいらっしゃいますか?」「ローレイさん」二度、三度と繰り返したが返事がない。・・空振りか・・・。振出しへ戻る、だな。
帰ろうとした時にドアーの上に設けられた小さな窓が少し開いた。
「ローレイさん!?」声をかけた瞬間ぴしゃっと閉じられたが、次の瞬間ドアーが勢いよく開けられた。
「リコレーノ?リコレーノじゃないか?!久しぶりじゃないか!一体どうしていたんだい?今まで何を・・・いや、済まない。ははっ、そんな訳が・・・間違いだった。済まなかった」
再びドアーを閉め引きこもろうとしたので、隙間にブーツを挟み込み閉まらないようにしてやった。
「すみませーん。ちょっと話を!話を聞いてもらうだけでいいんですよ。ちょっとお話だけでも!」
閉まりきらないドアーに身体をねじ込んでいく。ドアチェーンは掛けておくべきだったな!オレの勝ちだ!
「アゼルが!アゼルがヨロシク伝えてくれって!デランのアゼル!覚えてるだろ?」
「ん!?アゼル!あの子を知っているのか?アゼルはまだ、無事なのかい?」
閉めようとする力が弱まったので一気にドアが開き皆でなだれ込んだ。当然いちばん下敷きはオレ。
街の大人たちはみな病に倒れた事、子供たちの疫病が進行中な事、アゼルの事、そして彼から聞いた石の事を自己紹介と共に話した。
「そうか・・・やはりアレは止められなかったか・・・。結果、あの子達を追い出す形となってしまって・・・医者として何かできないかと籠って研究していたのだが何も見いだせなかった。アゼルやあの子たちはまだ無事なんだね?・・・そうか・・・・そうか・・・。ん?キミ等はヒト、だね?なぜ無事なんだい?彼らと接触したのだろう?間違いなく罹患するはずなのに!だから、我らはこれ以上広まらぬよう橋を破壊したのだ。何故だ?・・・医者としてキミ等が診たい!!手がかりが掴めるかも知れない!!」
怒涛の質問攻めを躱すべく、リンが実は竜であること、オレは竜飼いできっと女神の祝福を得ているからではないかと納得させた(実際そんなものはないが)。セリに関しては採血して調べたところ、どうやら彼女のルーツの巨人族の血が濃く感染しなかった様だ。ローレイはオレ達からなんの糸口も掴めなかった事に酷く落胆していた。
「そういやぁ、ローレイさん、アンタ、リンを見てリコレーノって呼んでたが誰かに似てたのかい?」
「いやあ、先ほどは済まなかった。思えば、あれから二百年ちょっと経っているのだからそんな筈は無いのだ。お恥ずかしい限りだ。いやしかし、実によく似ている」
オレは何となくカバンから記録の護符に念写されたリッチェを彼に見せてみた。
「これはっ!!リコレーノ!!なぜ君が?!・・いや、面影があるが少し違うな・・・この念写はごく最近だね?リコレーノは幼馴染なのだよ。歳は一緒だから今は成人なはずだ。だが、これは??」
「その子はリッチェだ。だが、本当の名前じゃあねぇ。百十数年前に両親がこの森のどこかで魔獣に襲われて亡くなってるんだ。もしかすっと、母親の方がそのリコレーノさんなんじゃねぇかな・・・あ、悪い。幼馴染、だったっけか」
「いいんだ。ここまで似ていると、そうかもしれない。基本私達エルフは集団から外れると疎遠になってしまうからね。それでこの、リッチェという娘は?」
リンが血の気の引いた顔でオレを見上げる。「大丈夫だ」頭を撫でてやり、一つ深く息を吐いた。
「殺されたよ、三日前に・・・アンタらと同じ、エルフの奴にな・・・」
「馬鹿な。我らエルフにそのような・・・」
言いかけて、顔色が変わった。
「我らの中より一人、ヒトに対しての憎悪や蔑みの念の強いものが居た。彼が・・・疫病を・・・撒いたのだ・・。罪を裁くため幽閉したのだが脱走してしまった。追っ手を差し向けたのだが皆、帰って来ないから何とも言えないが・・・もし生き延びていて近隣の街に潜伏していたとすれば、あるいは奴ならば同族殺しも・・・」
話の途中で頭の中が真っ白になった。崖の上から巨大な岩が崩れ落ちていくような感情。気が付けばオレはローレイの首を絞めていた。




