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RUIRIN涙鱗 改正版  作者: 花殿ナイ


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第25話 広がるアザ

 感情という奴は恐ろしい生き物だ。セリセリに引き剝がしてもらえてなかったら、オレは感情に浸食されてローレイを絞め殺していただろう。ただただひたすらに憎かったのだ。

 この街からヤツが逃げ出さなければ、いや、そもそもあんなイカレたヤツを野放しにしていなければ、ハレルでの疫病も無くアゼルやヨミ、あの子たち全員が両親と共に平和に過ごせていたに違いない。

 種族など気にせず、分け隔てなく優しかったリッチェも悲劇に見舞われることなどなかった筈だ!!オレは今頃ダイアンの酒場でリッチェを見ながらブリックと楽しい酒を酌み交わしていた筈だ!


 何でだ!何でだ!何でなんだ!何故こんな、何でこんなにも・・・あまりにもヒデェじゃねぇかよぉ・・・。


 オレはホコリまみれの床にへたり込み溢れ出る涙を拭う気力も無かったのだが、ローレイの「すまない。我らのせいだ」「すまない」「すまない」と繰り返し詫びるその声が、再び感情の牙をもたげさせた。

 その時、まるで灼熱のコテを押し付けられたような激痛が背中に走った。転げまわるオレをセリセリが押さえつけ、リンがシャツをまくる。


「大丈夫?!ルイ!!しっかり!!ルイ!・・・あぁ!!背中のアザが・・・いっぱい広がってる!とっても不安な気持ちにさせるおどろおどろしい黒いアザが・・・やっぱり、気のせいなんかじゃなかった!!あぁ、ヤダよぅ・・・何でルイばっかり・・・ヒドイよ・・・」


「っっくはっ・・ハァハァッ!!大・・丈夫だっ!・・・セリセリも・・・降りてくれ・・もう、大丈夫だ。くっそ痛ぇが・・・お陰で少し落ち着いたぜ!」


「ホントに大丈夫か?ルイ。オマエはホントに何なんだ?訳が分からない事が多すぎるぞ?」


「・・・良ければ私に診させてくれ。そこに寝てくれたまえ」


 オレに絞められた首を擦りながらローレイが申し出たが、オレは首を横に振った。正直、今はエルフに対して感情的に成らざるを得ない。


「診てもらえ?ルイ。リンちゃんがすっげー不安そうにしてるぞ?リンちゃんをまた泣かせたいのか?お前は。・・・うん、決めた。せんせ!診てやってくれ!オレが押さえつけとくからさ!」


「待った!・・・分かった、分かったよ。診てもらってやるよ!そんでいいんだろ?」


 押さえつけられて、なんてそんな子供みたいなみっともねぇ事できるかっての!・・・それに、リンをまた泣かせんのもな・・・。

 気は進まないがとにかく背中が痛ぇ。仕方なくローレイに背中を向けたのだが、オレのアザを診るなり血相を変えて隣の部屋へ駈け込んでいき、竜の細工の施してある球状の石を持って戻って来た。


「君のアザは・・恐らく呪(じゅ)の類だ。それも、とても、強力な・・こんな深度の呪は・・・女神、あるいは、同等の力を持つ者か・・・。とにかくこれ以上広がらぬよう君に魔力を送り込む。この石は私の先生が900年ほど前に女神から直接承ったものだそうだ」


「な!女神!女神は存在するのか?直接だと?女神はどこに居やがるんだ!その先生って奴は!ソイツに聞けば・・・」


「すまない。先生はもう他界されている。これは私も先生が最後の時に託された物だから、詳しくは知らないのだよ・・・。とにかく、背中のアザを・・・」


 オレ達に魔力の判るやつは居ないが、それでもこの石がとてつもなく強大な魔力を秘めているのが解る。

 ローレイに”もしかして、そいつは女神の涙とよばれていないか?”と聞いてみたが、どうやら違うようだった。

「私も噂くらいは聞いた事があるが、先生ですら知らない筈だ」と。しつこく食い下がったが本当に知らないようだった。

 それにしてもこのアザ、そんなモンと同等って・・・なぜ俺の背中に?一体誰が何の為に?オレは、只のしがないオッサンだぜ!セリじゃねぇが、オレは一体ナニモンなんだ?・・・記憶がねぇってのは、こんなにも、もどかしいもんだったんだな。


「これは、賢者の石だと先生は仰っていた。この石は同等の魔力と共鳴して初めて、その力を開放するのだ・・・と、聞いていた。実は私も・・・この石が発動するのを初めて見た。キミのその背中のアザはそれほどのものなのだよ・・・では、はじめよう」


 ローレイは何やらエルフ語で詠唱をはじめた。とたんにオレの背中に乗せた石が激しく振動して宙に浮いた。そして、眩い光を放ち弾け飛んだ。


「!」


 石が弾けた瞬間、女性の様な・・・あるいは、竜の様な・・・あるいは別の何かの様な・・・そんな不思議な者を光の中に垣間見て、皆、暫らく呆然としていた。


「驚いたな。今のは一体??ふむ・・・どうやら石は・・・その力を使い果たしてしまったようだ」


 壊れた石はその光を失い、幾つかの石ころになっていた。手掛かりになったかもしれない石が。


「・・・あぁ、ありがとよ、ローレイさん。背中の痛みはだいぶ治まったぜ。なんつ~か、その石、済まなかったな。オレに使わせちまってよ」


「いいんだ。実は私も本当はアレはただの石なのではないかと疑っていた位なのだから。しかし実際に発動するとは・・・だとすれば、まさか、本当に・・・。ルイ君・・・非常に言いづらいのだが、その背中のアザ、今の時点では進行は止められたかと思う。だが、あくまでも今は、だ。・・・気になることがあってね。服を着て少し待っていてくれ」


 ローレイは部屋に戻り、なにやら探し物をしているようだ。バサバサと音がするたびに薄暗い部屋に差し込んだ光にホコリが舞うのが見える。


「んナくちゅん!!」オイデが妙な声のくしゃみをしたので、セリが「外へ出てもいいか?」と一旦出て行った。

 入れ替えに、ローレイが一冊の古ぼけた手帳の様なものを持ってページをめくりながら戻って来た。


「これだ。・・・ルイ君、”そう”と決まった訳では無いから、可能性として聞いてくれたまえ。


 その黒き魔人元はヒトなり


 その黒き魔人元を忘れたり


 悲しみ憎しみを糧とし災いを振り撒かんとする者なり


 その黒き魔人青き光を欲し自ら滅びん


 ・・・リン君、と言ったか。キミは”広がっている”と言っていたね。最初に彼にアザが現れたのはいつかね?激しい怒りや・・・例えば先程の様にね・・・若しくは深い悲しみの後では無いのかね?」


「分からない・・・けどずっと前からあったものじゃ無いと思う・・・」


「その内包されている魔力、並ではない事は先程ので理解した。・・・であれば、やはり・・・この”黒き魔人”は全てをそのアザに呑み込まれた者なのでは?」


「ルイは!!そんなんじゃ無いモン!!ルイはすっごい優しいんだから!!絶対にそんなふうに為るわけ無いじゃん!・・・オマエ、ムカつくっ!!」


 余りにも興奮しすぎて変身が解けたようだ。口に一杯の青い焔を溜め込み、ローレイめがけて放射した。これは!!


 別に当てちまっても問題なかったが、反射的にローレイを庇ってしまった・・・。


「わぁ!!ルイ!ごめんなさい!!あと、えと、うわぁぁ、暫らく面倒な事にっ!どうしよう!!・・・ね?ルイッ!大丈夫??」


 あぁ!アイツの吐く青い焔をまともに浴びちまった。・・・オレは、もう駄目だ。きっと4,5日の間は良い大人の見本みたいになり果てちまう・・・!!


「うおぉぉっ!やっべぇな!ルイが燃えてっぞ!!」


 部屋の中の騒ぎで戻って来たセリが、オレに足払いを入れて転ばせると、自分のマントをオレに被せボディープレスで消火に懸かった。


「げほっ!げほっ!重い!死ぬ!」

「わあっ!すまない!」


 セリが退いてくれたお陰で上体を起こすことが出来たが窒息するところだったぜ!


「大丈夫か?びっくりした、うん!!・・・アレ?燃えてない?あ~良かった!」


 ある意味、大丈夫じゃないがね!って、おろ?何とも、無い・・・だと?


「う~ん、いったいどういうこと?」とリンとオレ以外はキョトン顔だ。そりゃそうだ、普通、竜の吐く焔は全てを焼き尽くすもんだからな。オレはリンの焔について説明したのだが、セリとオイデは「毎日浴びせろ」と酷いことを言いやがった。ヒデェ。

 そんな、和気あいあい?な中、一人ローレイだけが真剣な顔つきでいた。


「・・・ルイ君。まさに先ほどの焔こそ”青き光”なのではないか?君は説明の中で、心が洗われる様なと言っていたね?黒き魔人はその焔を浴びて滅したのでは?先生の手帳に残された手記と・・・都合よくでは済まされない。ムムム・・・。少し時間をくれたまえ!」


 まだ魔人について言いがかりを付けてくるもんだから、リンがまたもやイラついている。こっちも気分が悪いが、オレの為に何かしてくれているのだし、ここはおさえてくれ。 

 暫らくすると、ローレイは幾枚かの羊皮紙を手に、手記より抜き出した幾節かの詩を書き写したと戻って来た。


「所々、私にも読むことのできない古代エルフ語で書かれている所があるのだが、そこ意外、取り急ぎ共通言語に起こし直したよ。この手帳と共に持って行ってくれ。きっと、旅の役に立ってくれるだろう」


「そりゃぁ有難いが、ローレイさん、アンタの先生からの大事なモンなんじゃねぇのか?石もブッ壊しちまったしよ」


「これで許してほしい、という訳では無いが、我らエルフの不始末と、アゼルに良くしてくれた礼だ。今の私に出来る事はその位なのだ。本当に、済まない。受け取ってほしい。

 それと、ここから西へ・・・森を抜けると岩原が歩きで四日と続くのだが、其の辺りにわが友、シグという名のドワーフが住まう城が建っている。いや、かつては城だった、というべきだな。彼を訪ねるとよいだろう。彼も先生の弟子だった。そして女神よりのなにかしらを受け取っているときく。それが何かは私は知らないが・・・。その羊皮紙の一枚目、私からの紹介状になっているから、もし”会えたら”渡すと良い」


”会えたら”というところの喋り方が気になったが、取り敢えず繋がって来た!女神はどうやら存在する様だ!ってこたぁ”女神の涙”ってのは、比喩じゃなくて、ホントに涙なんじゃあ?ならば、女神に泣いてもらえばいいんじゃねぇのか?

 女神っていう位だから女なんだろうな。女、泣かすのは趣味じゃねぇが、これまでのツケ盛大に払ってもらうぜ!!


「うん♪良かったじゃないか!ルイ!悪いことばっかしじゃ無いな!直ぐに発つんだろ?先に出てるぜ?」


 オレ以外、皆がそれぞれローレイと別れの挨拶をかわし外へ出て行った。


「ところでよ、ローレイさん。あんたなんでオレに色々としてくれるんだい?・・・若しかして好み、とか?」


「ハハッ、バカな。・・・君が見せてくれた、彼女の念写の裏に「この世界で一番大切なひととき、ありがとう!心より大切なひと」とあった。

 我らエルフ族の者ににそこまで言わせるとは。これは、何とかしなくては為らないと思ったのだ。・・・女神の涙とやら、見つかる事を願っている」


「有難う、ローレイさん。あんたには色々世話になっちまったな。首とか絞めて済まなかった。代わりによ、女神に合ったら、オレも何か貰って来てやるよ!そんじゃな!!」


 高ぶる気持ちと共に、皆と合流してハレルの街を後にした。浮かない顔のリンが出遅れてはいるが。もう、希望しか持てねぇ!!


「おう!リン、置いてっちまうぞ?!」


「あ!ごめん!」


”黒き魔人・・・アザ・・・ボクの焔・・・いやだよ?ボク・・・ルイは・・・そんな風には・・・”



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