第23話 オレって一体?
とても暗く、重たい時間が流れて行く。
騒ぎを聞きつけ直ぐにデランの街の人たちが駆けつけてくれたが横たわるルイを見るなり首を横に振った。
・・・すでに、もう誰にもどうすることも出来ない事を悟らされた。
アゼルが「シショーはオレが焼く」と言ってくれたがリンが絶対に嫌だ、傍から離れないと聞き入れず辺りが暗くなるまで泣き叫び続けた。
街中に感染したルイの亡骸を安置させてもらうわけにもいかず。ベースキャンプになりそうな場所までルイを運び、夜を過ごすことにした。
リンは魂が此処には無いみたいに一点を見つめたまま何かボソボソと呟いていた。
「・・・私の部族では、勇敢な戦士はこうやって弔ってやるんだ・・・。夜明けと共に川に浮かべて旅立たせてやろうな?それでいいかな?」
大きな葉でルイをくるみ、上と下とをツタで縛りながらリンに語り掛けるが返事は無い。傍へ寄ると「ルイは、死んでない」「ルイは死んでない」とうわ言を繰り返している。
”う~ん。気持ちはわかるけどさ、アレはどう見たって死んでるし。街の人たちが罹ったっていう、例の疫病か・・・。こんなに早く死んじゃうとは・・・”
大人のヒトは直ぐに紫色になる、というのなら街中で感染したのだろうに時間差が?それに私もヒトなのに何も起きてない。さっきオイデに全身みてもらったがビョーキのアザなんて何処にもない。いずれにしても、ルイは、死んだ。・・・会って間もないけど、面白い奴だったな。
翌日、朝日と共に湖から流れる川にルイを浮かべてやる。お別れだ。
「勇敢なる者よ!魂は朝日と共にあれ!!・・・うん・・・じゃあな、ルイ。貰って直ぐに形見になっちゃったけど大切にするよ・・・よい旅を!」
弓を目一杯引き絞り朝日に向かって一矢、放つ。ヒョウと悲しい調べの下、葉にくるまれたルイは川に乗ってゆっくりと流れていった。
私は背を向けたがリンはジッと見送っていた。
”キミが気の済むまで送ってやるといいよ。私達もここにいるから・・・”
「・・・まって!!動いた!!今!動いた!!セッちゃん!!動いたの!今!あぁ、流れて行っちゃう!早く取って来てよ!はやく!!」
そんな筈は無い。本当に気持ちは分かるし、今までの戦士の家族もみな同じ事を言ってた。死者は蘇らない。それは種族関係なく、世界の絶対の掟だ。
「リンちゃん、気を落とさないでとは言わないよ。うん。でもね、死者は・・・うん??」
川面の葉の棺がまるで芋虫の様にうねっている。あれは流されているからじゃ・・・なさそうだ!
大急ぎで棺を回収して、オイデが爪で葉を切り裂く。ドッと黒い血の混じった水と共に肌色のルイがこぼれ出て来た。生気はあるが、息をしていない。
リンが咄嗟にリッチェの姿になり息を吹き込み胸を強く押すと、のどに詰まった何かを吐き出して大きく息を吸い、跳ね上がる様に上体を起こした。
「くっ・・・はぁっっ!!」
「ルイ!ルイ!ルイッ!」
「なに?なんで?!ルイ、お前何だ!!」
その場から急いで飛び退き右腕の武器を構える。ヒトが生き返る、なんて聞いた事も無い。ネクロマンサーや動く骸骨なんてのは空想上でしかないはずだ。そんな事ぐらい私だって知ってる。
でも、目の前のこれは?ルイ?なのか?
「グェッッホゲホッ・・・おえぇぇ・・ゲホッ・・何だよこれ!ヒデェじゃねぇか!ショーワのドッキリかよ!度が過ぎてるぜ!!死んじまうかと思った!!ゲホッ・・・・うおっ!!バッチいな!何だ?この臭くて黒いの」
「うわっぁぁぁん!!ルイ!ルイ!やっぱり死んでなかったぁああ!!」
「へ?死んで?何?若しかしてオレ、まぁ~た死んでたの?マジで?またまたぁ~、冗談ばっかし!ってか、この黒くてバッチいの何?」
「それは多分オマエの腐った内臓だ。オマエは例の病気のせいで死んだんだ!私達の目の前で!なのに何で生きてる?オマエ、誰だ!!またって、なんだ?!」
「だれってセッちゃん、オレだよ。ルイ様よ?・・・え?これ、オレの内臓なの?ははっ、まさか!オレの内臓ないぞーってか?」
・・・つまらないその物言い!ルイに間違いない・・・よな?
「ふざけるな!!オマエいったい誰だ!!」
セリセリの手甲から今にも矢が放たれそうだ!
「待って!!ルイだよ!ルイなの!!ボクがゆうんだから間違いなく絶対ルイなの!!信じて!お願い撃たないで!」
「・・・リンちゃんがそこまで言うなら・・・納得は出来ないけど・・・うん。じゃあ、ルイだ」
相当訝しんだ顔ではいたが、とりあえず武器は納めてもらえた。
「ありがとうセッちゃん」
「なぁリン・・・何だ?その姿!?」
「うっ!こっ、これは・・・その」
必死だったからリッチェの姿のままだった。慌てて竜の姿に戻ったがもう遅い。
「・・・何だよ可愛いのに戻っちまうのか」
「え?どうして直ぐにボクだって解ったの?怒らないの?その・・・リッチェの・・・姿してるのに・・」
「んん~?そう言われりゃあ、まぁ・・・似てるかなぁ。でもな、お前はお前だしリッチェはリッチェだ。それにリッチェはもっと可愛いし、サラッサラの金色ストレート。お前は銀髪ショート。リッチェのお目々はもっとぱっちりとこう・・・もーー全然まったく、話になんねぇ」「ばかぁ!!」
強くひっぱたかれた。何が何だか状況が全く掴めない。取り敢えずセリに経緯を聞いた。
「するってぇと、なにかい?オレぁ疫病に感染して内臓吐いて死んだと。んで、リンがオレの息を吹き返らせてくれたと・・・うん、納得♪・・・って、なるかーーい!」
セリの右手の矢がオレの顎を下からつつき
「お前、生き返ったばっかなのに、やたら元気だな!だけどそのバカさ加減。うん!間違いなくルイだ」
「はは・・・ありがとうな」
(そういえば、気を失う(いや、死んで、か)前にオレの手が紫色になってて、なんかぶちまけてたような記憶があるな。あそこで死んだのか?もしそうなら、オレって一体、何者なんだ??)
拳を握ったり開いたりしながら自分に問いかけてみたが判る筈もなく、こりゃぁ女神に会えたら問いただす案件だなとの結論に達して自分で納得する事にした。
そもそも女神なんて居るのかどうだか疑わしいが、居てもらわないと困る。それともう一つ、目の前の困ったが・・・
「あの~、セッちゃん。ハレルの街でさ、オレの・・・なんでもいいから服、買ってきてくんねぇかな?血が渇いてきてバリバリなんですよ・・・。あ、あと、リンの服もあると嬉しいんですけど。ほらぁ、こいつが竜のままだと色々面倒なのよ。それに次の街エルフしか居ねぇみたいだし。あいつらみんな綺麗好きじゃん?頼んますよ」
「わかった。うん、任せとけ!」
・・・先ずは川で体洗わんと、臭ぇし、ガビガビだ。
「・・・ルイ!洗い残し~!バッチぃなぁ~」
「お?そうか?どの辺??見えねぇよ」
「もう!ほらっ!洗ったげるよ!・・・アレ?落ちない・・・アザ?ねえルイ。どっかぶつけた?こんなとこにアザなんて無かったよね?ビョーキのアザとは違そうだし」
「あ?知らねぇよ、見えねえんだもん」
背中にモミジ位のアザが出来ていたが、今まで怪我やアザなんてしょっちゅうだから深くは気にしなかった。
「どお?サイズ、ピッタリだったろ?うん!いいね!リンちゃんも、可愛いな!うん♪」
買ってきて貰っといてなんだが・・・サイズは確かに文句は無い。が、何だ?この胸元のヒレヒレ!袖もヒレヒレ。こんなのナルシス貴族か作曲家位なもんだぜ?着ていられるの・・・。黒いパンツに黒いブーツ・・・なんか前に居たな~、こんな奴。リンは、まぁ、フツウに動きやすそうで可愛い感じだ。何でオレのだけ・・・まあいいか。
ほんじゃ、改めて向かいますかい。エルフだけになった街、か。実際はどうであれヒトを見捨てたことに変わりはねぇからな。果たして歓迎されるかどうか怪しいもんだ。




