第20話 廃墟
湖を離れ次の町までの道すがら、セリセリの事情も聞いた。・・・なるほど、部族の存続ってのも大変みたいだな。それと”伝承”てのも聞かされた。耳を疑ったがオイデの顔色から察するに未だ絵本を真面目に信じているし、誰からも真実を聞かされていないことも分かった。オイデ君よ・・キミはキミで大変なんだな・・・。
まぁ、その、なんだ。恋ではなく愛を知れば、自ずとお互いを求めるようになるからその時が来れば解るだろうさ。
セリセリの持っていた地図は流石は商人からの品だった。あのまま真っすぐに進路を取っていたら、この暑い時期限定の魔蟲、人食いヤンマの縄張りとワイバーンの巣とが重なっている地帯に突っ込んじまうに違いなかった。
蟲にバリバリ喰われるのは御免被りたいし、ワイバーンは一匹仕留めると他が執拗に追いかけて来やがるからコイツも避けたい。だいぶ遠回りになるが街との中ほどにある旧市街地を通るルートをとろう。
この旧市街地はこれから向かう街の元々の場所なのだが、先の大戦時に破壊されヒトの住める状態では無くなった、と地図の脇に書き込みがある。ふぅん、廃墟か・・・。書いちゃいないが(というか、書く必要もないのだろう)十中八九、ゴブかオークの巣だわな。リンと二人なら近寄らねぇがセリセリが心強いし、なによりアイツら共は阿呆だから罠に嵌め放題だ。何とかなるビジョンしか浮かばねぇ。
旧市街地に近づくにつれ岩石がごろついているのが目に付く。恐らく投擲によって街を破壊していったのだろう。樹々からもその片鱗がうかがえる。幹の抉れているものから折れて立ち枯れしている物まである。美しい森なのに・・・実に不愉快だ。
倒木や岩石を迂回しつつ、ようやく街跡らしきものが見えてきたのだが街の周りの堀が深い。リンが飛ぶにしても俺一人運ぶのが限界だろう。石橋は反対側に見えるのだがそこまで回る道がない。手前の橋は破壊されているのだが石の断面が真新しい。
・・・やはり、ゴブか、オークの巣か。ギルドが寸断したのだろうか?
「ルイ!!あそこ!!」
リンの示す方向にうっすらと煙が立ち上っている。火事ではないな。家事の煙だ!ヒトがいる??ならば何故橋を?とにかく向こうへ渡ら無いことには話にならない!手段を考えねば・・・。
「なぁ、その弓、私に貸してくんないか?見たとこ結構強そうなヤツだからさ!ありがとう・・・・うん!!いけそうだ!!これさ、矢に長いツタつけてビヨーンって、んで、リンちゃんに向こうで結んでもらうの。どうかな?」
「いいね!セッちゃん、冴えてるぅ~!やってみようぜ?!そういうの、ロマン感じちゃうねぇ!」
森から長いツタをオイデに取って来てもらい、矢を二本、手持ちのロープで合わせて頑丈にしてそれをセットしキリキリと絞る。
ブリックの弓はセリセリが扱うとまるで別の物であるかのようだった。弓幹はどこまでもしなやかに、美しく力強い曲線を描いている。あの野郎も馬鹿力だったが、きっとこれが本来の姿なんだろうな・・・。
極限まで引き絞られた弓から解放された矢はツタの重みをものともせず街の外壁を軽々と超えて行った。・・・すげぇな。”空を切り裂く”なんてよく聞くがまさにこれの事だなというのを目の当たりにしたぜ。
「うん!!すごいなこの弓!!いい子だ♪それにとってもキレイだ!不思議な色ね・・・赤くて艶やかなのに透き通ってるみたいだ・・・所々に散してある・・金粉?かなぁ・・・見とれちゃうね♪うん!ありがとう。うまくいったな!」
オレに返そうと差し出した左手を、そっと手を添え押し返した。
「うん??え??」
「そいつはセッちゃんにやるよ。弓がそうして欲しいって言ってる気がするんだ。実際オレじゃ扱いきれねぇしよ。・・・そいつはな、オレのたった一人の本当に気の許せる大事な友から譲られたもんなんだが、きっとアイツも、「いいぜ」っていうと思うんだ」
う~ん・・。言うかな?いや!そいうに決まってる。オレより弓の喜ぶ方を取る奴だ。そして何よりアイツはおっぱい星人だ!!さらに可愛いお嬢さんときたら、疑う余地はねぇ!!
「いいのか??こんなきれいな子!会ったばっかなのに・・・大事な友達からなんだろ?悪いよ!」
「いや!武器ってのはさ使われてこそ、だろ?確かにセリとは会ったばっかカモだけどもよ?「この子」って言ってる時点で悪いようにはしねぇのが解るよ。使ってやってくれ」
「・・・ありがとう!うん!!大切にするよ」
セリセリは少し躊躇ったが優しく弓を撫で「よろしくな」と呟いた。
「・・・ボク、もう行ってもいいかな!」
リンが何だかちょっとふてくされてる。なーんか、最近おかしいんだよな・・・。反抗期なのかしら?オレは子供がいねぇから分からんけど。
向こうへ渡ったリンから合図がありオレたちはツタをつたって街のなかへ入った。
・・・そこは、異様だった。地図には廃墟と在った筈だがやはりヒトがいる。ボロをまとった老人が道端に幾人か座り込んでいるが、オレ達が入って来ても身じろぎ一つしねぇ。生きてるのかすら怪しいもんだ。そこの小道にも、あの通りにも、見える限り老人だらけだ。若い奴らは?子供は?ヒト以外は??近くにいた老人に尋ねてみたが、こちらを見ることもなく返事もない。なんなんだ?この街は!セリに巻き付いているオイデも身を固めピリついている。リンも警戒姿勢をとかない。殺気などの嫌な気配がないのがまた不気味だ。取り敢えず煙の上がっているところを目指そう。何か判るかもしれんしな。
しかし、あの煙の臭い・・・。




