第21話 少年の業
動かない老人たちを横目に大通りを曲がるとそこも異様だった。今度は逆に子供たちしかいねぇ!!7~8人の子供たちがそれぞれが畑仕事やら洗濯物を干したりとせっせと動いているが、皆やせコケていて元気いっぱい!ってわけじゃなさそうに見える。
呆然としているオレ達を、洗濯物を干していた一番年上っぽい男の子が見つけ、こちらへ寄って来た。
「ふぅん。大人なんて久しぶりに見たな。あんた達は・・ヒト・・・みたいだけど・・・平気なんだ。ま、いいや。俺はアゼル。ここのリーダーだ。あんた達も街から追放されたのか?」
「追放?久しぶり?おい、ぼく、どういうこった?」
「ぼく、じゃねぇよオッサン。アゼルだっつったろ?」
食い気味に反論されて顔が引きつってるよ?ルイ!ぷぷっ、オッサンって、うん!間違ってないけどね、口が悪いぞ?キミ
「ごめんね!アゼル!おねぇさんにならいいかな?話して?」
「さんをつけろよ、でっけぇねぇちゃん!」
やはり食い気味にきやがった。セリ、顔が引きつってるぜ?ぷぷっ、でっけぇねぇちゃんだってよ!
「ふん!別にどうだっていいや!どうせ大人は皆居なくなるんだからよ。ここはデラン。俺達は橋向うのハレルに住んでたんだ。だけど二か月前に急にエルフの奴らが街を乗っ取って、ヒトは出て行け、ってなってよ、そんで行くとこねぇからみんなでこっちに来たんだ。ぶっ壊れてるけど、森の中よりマシだってな。そんで・・・」
「まてまて!エルフ族はそんなに悪い奴らじゃない筈だぜ?そんなことある訳が・・」
「知らねぇ~よ、オッサン!!俺が喋ってたのによ。気分悪いからもう、教えてやんねぇ~」
捨て台詞を吐きそのまま奥の煙の立ち昇る小屋に引っ込んで行ってしまった。
・・・くっそっがっきいがぁああ!!
ああ、オレ、ほんとガキ苦手だわ。頭に来たから、後でイタズラ仕掛けてやる。
オレがどんなイタズラにしようか思案しているとオイデがオレの袖を引っ張り、耳を貸せの仕草をして来た。
「んナァ、頼みがあんだけどもよぉ?セッちゃん、まえにチョットあってナァ。子供たちとあんまし仲良くならねぇうちにここ離れたいんだナァ・・・」
「仲良くって、きっともう遅いかもよ?ほら!」
見るとすでに、二人の女の子と自分のマントを使って遊んでいた。
「ほら、お前らも行ってこい」
コミュ力高ぇなと感心していると、さっきのクソガキよりも少し年下の女の子がオレの元へやって来た。
「こんにちは。私はヨミです。アゼルの事、ゴメンナサイ。アゼルも大人ぶりたい年頃なので許してあげて下さい。この街の事アゼルに代わって私が話しますので、付いてきてください」
なんてしっかりした子なんだろう!さっきのガキとはまるで正反対だな。
ヨミは森の入り口にオレを案内すると、辺りを窺ってから手招きして森の中へ入った。招かれるままついて行くと、ヨミが背中を向けたまま立ち止まっていた。
彼女はおもむろに服を捲し上げ、下着を少しだけ下ろして尻を突き出した。
「いきなりごめんなさい。私のお尻のちょっと上の方、アザがあるの分かりますか?」
アザ?・・・確かに可愛らしいお尻のすぐ上に不似合いなアザが帯状にあるが・・・。
「このアザ、お年寄り以外、みんなあるんです。前の街ハレルでもらったヒトにしか罹らない疫病なんだそうです。この病気にかかった大人たちは急に全身が紫色になって、少しづつナイゾーが腐っていくんです。あなた達はヒトの大人なのに、この街に入って来ても紫色にならなかった・・・。平気なんですね・・・。街の大人たちはコレの所為でみんな死んでしまいまったというのに。私たちもそのうち・・・。この病気はエルフのお医者さまも治せないって。だから、本当は追放じゃなくて自分たちでなんとかするって出て来たんだって」
万薬を知り尽くすエルフにも治せない病気?なかなかに厄介な・・・呪いならば解けただろうに・・・。
「最後に死んだ大人が全部教えてくれました。私の・・・お母さんでした。この事を知っているのは私とアゼル、後、お年寄りなんですけど、彼らはみんな心を患ってしまってあのまま死んでしまうのを待っているだけの、抜け殻みたいになってしまいました」
服を戻しながら淡々と話すその眼には泪は無かった。もう散々泣いて枯れ果てたのだろう。
「アゼルは、死んだ大人達を一人であの小屋で焼いています。私達の、お父さんやお母さん、叔父さんや叔母さん、皆、大事な人達だからです」
・・・だよな。やっぱり、あの煙の臭いはヒトを焼いた時のものだったか。
戦争孤児なんてのはよくあることだが、そいつ等には少なくとも生きていくチャンスが、未来がある。でもこの子達には、大人になったら死ぬ未来しかねぇってのかよ!!
・・・自分の親を焼くなんてよ!!なんて事させやがるんだ!!
チックショウ!オレには何もしてやれることがねぇ。・・・あのクソガキもたった一人でよく頑張ったな。くっそ、目頭が・・・。
「ここに、このお花をあげてもらえますか?みんなのお墓です。女神さまに”天国で幸せになれますように”って毎日祈ってるんです。・・・はい、お花」
女神・・・様か。様なんてつけてやる事ぁねぇよ。様を付けるのはお前たちの願いが届いた後でじゅうぶんだぜ。
「ヨミ!そのオッサンと何してた!まさか、全部話したのか?話したって意味ねぇーだろ!?よけーな事すんなよ。・・・オッサン、わりーけど、忘れてくれ。そんで、この街から早く出てってくれ」
森から戻るとアゼルが腕組をして待ち構えていた。オメェに言われなくとも早く出てくつもりだけどよ、その前にな
「おいアゼル」「さんをつけ・・」「うるせぇ。ちょっと来い」
オレは切り株に突き刺さったままの斧をアゼルに放り、森の中へ再び戻った。かがみ込み注意深く探ると、在った、獣道だ。まだ足跡が新しいな。オレはそこに簡単な罠を仕掛けてから、手近な薪になりそうな木をアゼルに渡していく。
「・・・何なんだよ、オッサン・・」「オッサンじゃねぇ、ルイだ。アゼル」「だから、さんをつけろって・・」
「アゼル。オレはお前を一人の”男”として見てやるよ。だから、さんは付けねぇ。いいから、手伝え。飯、食おうぜ」
「んだよ、いきなり・・。こんな事してくれなくったってさ、いいよ。どうせ俺達みんな死んじまうんだからさ」
その言い草にカチンときて振り向きざまに思いっきり頬をぶん殴ってやった。
「どうせ?そうかもしれねぇし、そうじゃ無ぇかも知れねぇだろ!やさぐれてんじゃねぇよ!!アゼル、お前洗濯したもん、干してたよな!!それは、明日着るための服だろ?ってことは、諦めきってるって訳じゃねぇんだろ?だったらどうせ、とか言うんじゃねぇよ!自分で言ってたろ、リーダーだってよ!
リーダーがそんなんで、どうするんだよ!!」
「っるせえよ!説教かよ!テメェーに何が解んだよ!自分の親!自分で焼いたことあんのかよ!!テメェに・・何が・・・」
殴られて真っ赤になった頬を押さえボロボロと涙を流し始めた。オレは涙を見ないフリで小枝を拾い集めながら語りかけた。
「・・・オレぁな、ついこの前、最愛の・・・女性を・・この腕の中で看取った。死んだんじゃねぇ・・・殺されたんだ・・・。だから・・愛する者を失うってのが、どれほどつらいか、分かってるつもりだ。でもな!諦めちゃいねぇぞ?必ず、生き返してみせる。その為の旅だ。その為の命だ。・・・オレは、諦めねぇぞ」
「・・・・」
オレの話をアゼルは黙って聞いていた。暫らく二人とも無言の時間が過ぎたが、先ほど仕掛けた罠にかかった獣の叫び声がそれを破る。
罠を見に行くと結構な大きさの猪豚が掛かっていた。オレの腰のダガーを鞘ごとアゼルに渡して
「アゼル。お前がトドメをさしてやれ。そんで、さっきまでのお前とサヨナラだ。生きてるもんを殺すのはキツイかもしれねぇけどよ、明日を生き抜くためだぜ。料理はオレがしてやるからよ。皆に美味いもん、食わしてやろうぜ?リーダー!!」
かなり躊躇っていたが突如大声を張り上げ、ダガーを抜くと一気に脳天めがけてとどめを刺しに突っ込んだ。
「ははっ!やったな!」
震える手からダガーを取り鞘へ戻し、猪豚の両足を縛り肩に担ぎ上げる。さっき痛めた腰が痛いがまぁ、命の重み、ってことで。
「実はな、オレは、絶望した時に自分で命を絶つ道を選んじまったんだ。そんで、連れの竜、居たろ?あいつに救われたんだ。だからよ、そうしなかったお前は、オレよかスゴイんだよ。さ!胸はって、帰ろうや!!」
「んだよ・・・そんなんで、偉そうに説教垂れてたのかよオッサン・・・」
「だからオッサンゆ~なって」「・・・ありがとう・・・ございます・・・」
「あ?なんか言ったか?悪口か?」
「んでもね~よ!!先、いくかんな!」
あ・・・ちょっと待って・・・予想よりずっと重かったのよ、この猪豚・・・一人じゃ辛いの・・・手伝って~~!!




