第18番 さみしくないもん
「ちょっと、長く居すぎちゃったな。こんな気持ちになるのって、初めてだ。ねぇ?オイデは一緒に来てくれるんだろ?はぁ~・・・掟なんて、やだな。・・・ホントは、ヤなんだ。決まり事だなんて知らないよ。だって、私が決めたことじゃないもん。・・・オイデ、寝ちゃってる?ごめんね、独り言だから。独り言だけど、有難う、聞いててくれて・・・おやすみ。オイデ」
”一緒に行くに決まってるナァ!付いて来んなってゆっても、付いて行くナァ。セッちゃんは絶対オイラが守るナァ!オイラからもゆわせてもらえば掟なんかし~らねっ!てとこナァ!!このままオイラとどっか関係無ぇとこ、行っちまおうナ!・・・でもきっと決まり事は守るヤツだからナァ・・・。やっぱり男探しの旅を続けるんだろうナァ・・・”
オイデも心の中で独り言を言ってみた。
・・・ひんやりと静まり返った中、ただ横になっていただけのベットを綺麗にして、僅かながら上乗せした宿代をその上に置き、一度部屋を見渡してから静かに戸を閉めた。ペコリとお辞儀をして宿を後にし、いつもとは違う道で村の外へ向かう。冷たく、パリッとした空気がなければ大声で泣き叫んでしまいそうだった。
・・・あぁ、村の出口が見えた。こっちは裏だもんね。市場も無いし、牙もないし、だれもいないし・・・うん!こんくらいなんもないと寂しくない!・・・さよなら!
「おねぇちゃん!!」
背中越しに子供たちの声がした。
「おねぇちゃん。今までいっぱい遊んでくれてありがとう!」
「おねぇちゃん、助けてくれてありがとう!」
「おねぇちゃん!大好きだったよ!」
「おねぇちゃん!」「おねぇ・・・ちゃ」
「うわ~~~ん」「え~~ん」
「お前たち!なんで、こんな、じかんに・・・だめだぞっ・・子供は、まだねてるじかんだぞ・・・」
「おねぇちゃん、これ」
一番年上のしっかりした子が差し出したそれは、馬車の絵柄が織り込まれたブキッチョだが一生懸命な造りの巾着だった。
「前からちょっとずつ、みんなで作ったんだ。ずっと、地図欲しがってたからいつか出て行っちゃうんだねって。それは助けてくれた時の馬車だよ?それと、あとこれはオイデちゃんの」
セリセリの肩から降りてきたオイデの右足に、布で出来た手甲を履かせてあげた。
「おねぇちゃんと、おそろいの色なの。これでおねぇちゃんをまもってね・・・やくそくね」
「・・・んナァ。任せておくナァ。お前たちの分まできっちりと守ってやるナァ」
子供たちの前で声を出してしまったが、誰一人怖がらなかった。それどころか昨日会ったばかりなのに一人ずつ頭をなでに来たり、抱きしめてくれたりした。嬉しくって危うくオイデも貰い泣いてしまうところであったが、何とかこらえた。
「じゃあね!おねぇちゃん!元気でね!・・・よいたびを!!」
「ああ!!お前たちも元気でね!!おねぇちゃん、振り向かないかんな!・・・どうだ?おねぇちゃん、でかいだろ?背中、広いだろ?おねぇちゃんは強いんだ!
・・・・前は牙が!こっちはおねぇちゃんの背中が守ってるからな!お前たちはきっと大丈夫だ!!・・・うん!じゃあな!」
オイデを首に纏い言葉通り振り向かずに村の出口を通り過ぎた。真っすぐに、真っすぐに。
「・・・あの子たち、まだ手を振ってるナァ・・・ホントにセッちゃんが大好きだったんだナァ・・・んナァ、セッちゃん・・」
見上げようとしたオイデの頬に大粒の水滴がおちてくる。ポタ、ポタと絶え間なく。
「くぅん・・雨、なんだナァ。あの目の森で雨宿りでもするナァ」
「・・・・うん」
セリセリは暫らく森の中をフラフラと彷徨った。地図は頭の中に入ってる。大体の方角は今までの経験と勘で分かっている。しかし今は、もう少しフラフラしていたかった。
やがて、月明かりを受けて銀色に光る湖の畔にたどり着き、そこに腰を下ろすと静かに泣いた。オイデにはその”少女”の頭を尻尾で撫でやることしか出来なかった。




