4.もふもふの毛で作るもふもふな枕
「……なんか増えてないか」
朝、目を覚まして最初に出た言葉がそれだった。
いつも通り、顔にはしっぽが乗っている。
そこまではいい。
問題は、その“量”だ。
「ユラ、お前……昨日よりしっぽが大きくなってないか?」
しっぽを軽く持ち上げる。
相変わらずの柔らかさ。
でも、なんとなく量が多い気がする。
ユラは横で丸くなったまま、こちらを見ている。
しっぽだけがゆらりと揺れた。
「気のせいか?」
もう一度触る。
……いや、やっぱり違う。
「ちょっと待て」
体を起こして、ユラをよく見る。
毛並みはいつも通り綺麗だ。
むしろ――
「……なんか、ふわふわしてるな」
全体的に、いつもより膨らんでいる気がする。
撫でてみると、指の間にやわらかい感触が残る。
そのまま、手のひらを見る。
細い毛が、少しだけ付いていた。
「……ああ、そういう時期か」
なんとなく納得する。
前世の記憶でも、動物にはそういう時期があった気がする。
動物を飼ったことがないからよくは知らんけど。
毛が抜け替わるやつだ。
「お前、今ちょうどその時期か」
ユラは特に否定も肯定もしない。
ただ、しっぽがゆっくり揺れている。
「……なるほどな」
もう一度撫でる。
今度は少し多めに毛が取れた。
「これは……集めたら何かできそうだな」
ぼそっと呟く。
ユラの耳が、ぴくりと動いた。
外に出て、軽く体を動かす。
ユラもついてくる。いつも通りの距離感。
ただ、今日は少し違う。
歩くたびに、ふわっと毛が舞う。
「……すごいな」
軽く笑う。
ユラは気にした様子もなく歩いている。
「そのままにするのももったいないな」
しゃがんで、地面に落ちた毛を拾う。
軽くて、柔らかい。
そのままでも気持ちいいくらいだ。
「これ、集めるか」
そう言うと、ユラがこちらを見る。
しっぽが少しだけ大きく揺れた。
嫌ではないらしい。
家に戻って、適当に布を広げる。
「とりあえず、ここに集めるか」
ユラを呼ぶ。
「こっち来い」
名前を呼ぶと、少し間を置いて近づいてくる。
そのまま座る。
「ちょっとだけな」
手を伸ばして、軽く撫でる。すると、毛が自然と抜けていく。
無理に引っ張る必要はない。
ただ撫でるだけでいい。
「……楽だな」
ぽつりと呟く。
ユラは特に嫌がる様子もなく、そのまま座っている。
むしろ――
しっぽが、ゆっくりと大きく揺れた。
「気持ちいいのか?」
少し手を止める。
すると、しっぽで軽く叩かれた。
「……続けろってことか」
もう一度撫でる。今度はさっきよりも少し長く。
毛が、ふわっと手のひらに集まる。
「これ、結構いけるな」
気づけば、布の上にそれなりの量が溜まっていた。
「これだけあれば……」
少し考える。
「とりあえず、枕くらいならいけるか」
集めた量はそこまで多くない。
でも、やけにふわっと膨らんでいる気がした。
「……こんなもんだっけ」
前世の記憶と比べても、少し違和感がある。
まあいいか、と手を動かす。
日が少し傾いた頃。
「……できた」
手のひらより少し大きいくらいの、簡単な枕ができあがった。
見た目はかなり適当だけど、中身はしっかりしている。
軽く押してみる。
ふわっと沈んで、すぐに戻る。
「……悪くないな」
試しに頭を乗せてみる。
「……おお」
見た目よりずっと柔らかい。
しかも、軽いのにしっかりしている。
「これ、普通に使えるな」
思った以上だ。
少なくとも、その辺の布を丸めるよりはずっといい。
そのまま少し目を閉じる。
すると、何かが近づいてきた。
……分かる。
ユラだ。
少しして、横に丸くなる気配。
それから、しっぽがかかる。
「……気に入ったか」
小さく言う。
返事はない。
でも、しっぽの動きで分かる。
ゆっくりと、大きく揺れている。
「まあ、元はお前の毛だしな」
軽く撫でる。
しっぽがゆらりと揺れる。
満足そうに。
そのまま、静かな時間が流れる。
何も起きない。
ただ、少し暖かくて、少し心地いい。
「……悪くない」
呟く。
ユラが、少しだけ体を寄せてくる。
それだけで、なんとなく十分だった。
静かな生活は、今日も続いている。
少しだけ、ふわふわになりながら。




