長野と東京
「じゃあ、明日また迎えに来てやっから。夜そんなに遅くならないんだろ?東京出たらLINEくれよな!」
信司は迎えも約束してくれた。
「うん。ありがと。こんなに良くしてくれて。助けてくれてありがとう。」
陽菜がお礼を言うと照れたように自分の首の後ろに手をやる信司。照れ隠しの仕草を陽菜は解っていた。
「あの火事の時も⋯信司くんがあの男の子を救った姿を見て、咲苗は赤ちゃんを産む決心をしたの。それから、私がりんご園で肩を掴まれた時も助けてくれたよね。ありがと。」
陽菜は信司へ礼を言い長野駅に着いた軽トラから降りようとした。
「陽菜、俺は陽菜をずっと守ってやれる。だから学校卒業しても長野で看護師やったらいいんじゃないか?」
長野の医療は遅れている訳では無い。寧ろ進んでいる方だろう。信司の祖母に訪問看護師が来て往診しているのを目の当たりにもし、地方の高齢者が訪問看護や訪問介護を待っている現実も知った。信司の祖母が訪問看護師にお茶を出そうとするも「次にまだ待っている人がいるからね、ごめんね!ありがとうね。」と急いで軽自動車を走らせ次へ向かう場面に遭遇し、もしかしたら自分の力が長野の高齢者の役に立ち、訪問看護師を今か今かと待ちわびている人の助けになるのではないかとも思えてきた。でも。でも。東京には大輝が待っている。
「うん⋯正直悩んでるの。じっくり、真剣に考えるね。」
「じゃあ。」
信司はそれ以上は何も言わなかった。陽菜を降ろした軽トラはUターンして今来た道を帰る。陽菜はその軽トラを静かに見送った後ひとりで改札を潜り、東京に向かった。東京に向かう途中も長野と東京を天秤にかけ、どちらを選択して進むべきなのかずっと考え悩んだが答えは出なかった。東京では大輝が迎えに来てくれる約束だ。車窓はどんどん都会のビル群の風景になる。東京に着くやいなや一番にホームに降り立つと大輝が右手を挙げ久し振り、と声を掛けてくれた。本当に久し振りの大輝先生。私の大好きな。大輝は変わっておらず、そのままで、ちょっと恥ずかしそうににこやかに。
「何か、ちょっと強くしっかりした感じになったね。長野で鍛えられてるのかな?」
歩きながら大輝は目を細めた。その目元が和香とそっくりなことも陽菜は知っている。ずっと大輝に見入っていた。
「何だよ⋯。」
陽菜は大輝の目ばかりを凝視していたのだろう、大輝はいい加減にしろと思いつつも陽菜の荷物を持ってやる。
「ありがとう。」
ふたりはにこやかに微笑みつつ車に向かった。今日は俊介の車を借り迎えに来た。家では俊介と和香が陽菜の好物だけを沢山作って待っていることだろう。
「俊介さんと母さんが待っているから。」
と大輝は車を走らせた。




