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網目模様の途中  作者: 河野 与一
網目模様の解
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洋志と咲苗

 洋志は咲苗とふたりでこれから生まれてくる子供を育てると決めた以上、自分が大学を中退して働く選択をせざるを得なかった。自分の両親は勿論だが咲苗の両親も自分達の結婚に大反対だ。誰も味方がいてくれない様に感じた。それでも咲苗とその子供を守って養ってやらねばならない。経済学部ということもあり、今のこの社会情勢を鑑みた上で軽貨物の配達員の職に就いた。ネット通販の更なる普及で仕事にあぶれることはないだろうと目論んだ。大学は中退した。大学に未練がないと言えば嘘になる。ゼミの仲間が楽しそうに通学していたり、飲み会だの合宿だのと大学生活を楽しんでいる姿を尻目に自分はオートロックのマンションに阻まれ、不在通知をポストに投函する。今日中に届けなくてはならない段ボールはまだ車の中に山積みだ。これが働いて家族を養うということなのだろう。日に日に咲苗の腹は大きくなっていった。咲苗が落ち着くまでは咲苗の実家に世話になった。これが父親になるということか。自分が。この自分が。想像できないけど自分に出来ることは泥臭く、汗まみれに段ボールを運ぶことだけだった。咲苗が大学を辞めることにならずに良かったと思う。女性は子供が小さいと仕事も探すのにも大変だと聞いているから。幸い、咲苗は勤め先も奨学金特待生の恩恵で決まっている。自分は大学卒業後はこれといってやりたいことは浮かんでいなかったのだし、これで良かったんだろうと思うことにした。


 咲苗は座学の講義にはなるべく出席し、妊娠8カ月位の区切りのよいところで休学、実習等は復学後、という選択で大学側と折り合いをつけた。ただ、咲苗が学生ということで保育所の空きがどうしても就業者やシングルマザー優先になるという現実が立ちふさがってしまう。大学に併設されていた託児所は大学の教職員のみに限られていた。その点に着目した陽菜が学生や教職員らに声を掛け、署名活動までをし、学生でも託児所を使えるようになった。

「だって学生が使えないなんておかしいよ。誰のための大学なの。当然の権利よ。日本は少子化なのだから!」

咲苗は陽菜に相談して良かったと心から思った。陽菜、ありがとう。着々と生まれてくる新しい命のための準備が進んでいるように思えた。咲苗がキャリアを諦めずに看護師になる道に突き進めたことが本人は勿論、陽菜を含めた周りの人間を明るく満ち足りたものにしてくれた。咲苗は予定日を少し過ぎたころに4キロを超えた大きく元気な女の子を出産した。咲苗は将来的には助産師になりたいと夢を語った。思いがけない妊娠に悩む女性の力になりたいと。産む選択もそうでない選択もどちらでも女性が主体となって選ぶことができる。その手伝いがしたいと。陽菜達よりも卒業が遅れてしまう形となったがそのおかげで自分の進む道がはっきり見えてきたと語った。


 数カ月後、新聞社の取材があり、地元紙に「学生が大学の制度を変えた」と陽菜を含めた学生の力が掲載された。咲苗が我が子を託児所に預けている写真もあった。信司が消防団員として男児を救ったと表彰された記事を載せたのもこの地元紙だった。

美佐子が新聞を父親の修治に見せる。修治は老眼鏡の度数が合わないから見えないと言い、美佐子が音読をした。

「この、学生が署名活動をして、って陽菜のことなのよ!」

と誇らしげに自慢する。修治は

「ほう、そうかい。」

と孫の活躍を喜んだ。




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