祐司のアドバイス
りんごポリフェノールと植物性セラミド。これらが肌に良いことは分かった。
傷が付いたり抉れたりんごはそれを修復しようとして自分で更に物質を分泌させるのだということも祐司が教えてくれた。傷物になったりんごの第二の道としてバームへの加工はうってつけと言えよう。これらを上手く抽出してなんとかりんごバームを「自分のブランド」として作れないだろうか。抽出ってどうやるんだろう。美佐子はそこから考えた。自分の力では限界がある。農作業中も、食事の準備中もそればかり考えあぐねた。でも何から手を付けて良いのかわからない。頼れるのは祐司だけだった。そもそも祐司がポリフェノールだのセラミドだの、そんなことを言い出したのだから。発言の意図はないとしても。
「え?そんな事を考えてたの?付き合いのある取引先紹介してあげるよ。山田ラボって俺の大学時代の仲間だから。」
祐司はあっけらかんと話した。私は今まで知らなかったのだが、祐司は農業大学を出ていた。そう、私が東京の女子大に進学したのを知ってから一浪して農大に進学したのだった。今回のシンジ・トライも祐司の母校と連携して信司に託し「挑戦中」だったのだ。
私はあんなに悩んでたのに、もっと早く相談してれば良かった。時間を無駄にしてしまった。
祐司は続けた。
「ただ、りんごの種子油ってのは大変かもな。ほら、りんごの種って小さいし少ないだろ。量が採れないよな⋯それに酸化が早いと匂うよな。蜜蝋っていう着眼点もいいと思う。蜜蜂の分泌物って保湿、殺菌・抗炎症作用もある。蜜蝋や種子油は油性で、それに対しポリフェノールは水溶性。乳化させて混ぜるか⋯その辺は山田に考えて貰うか。油分と水分が分離した部分からカビが生える可能性も考えられるかな。ほら、美佐子の考えだと無添加にしたいんだろ?」
全てがピンポイントで正答だった。
「比率をどうするか?それが宿題かな。手や唇に塗布してもスッと、冬であっても人肌に溶け込み肌を守るテクスチャ。あぁいうのは需要は特に冬の季節だろう。ただ、蜜蝋もそのままじゃダメだな⋯高温処理か精製しないと。ボツリヌス菌の除去。赤ん坊でも使える安心さも必要。」
祐司は真面目に考えてくれた。私の考えを笑ったりバカにしたりせずに。
「ありがと。吉田くん。」
「いや⋯。」
祐司はまた中学の頃と変わらないくしゃっとした笑顔と右手の人差し指で鼻の下をこするクセを。照れながら。




