シンジ・トライ
俊介から送られた小包のお菓子は食べ切れない位に沢山入っていた。⋯そうだ。吉田くんたちに会うからお裾分けしよう。信司くんも甘い物好きだって言ってたっけ。賞味期限の短いものから⋯あのバームクーヘンあげようかな。
今日は吉田くんのところの新芽を見せてもらうことになっている。軽トラを飛ばす。東京の様にごちゃごちゃせずゆったりと、時間が過ぎてゆく気がした。上京したばかりの頃、東京の人たちは皆生き急いでいる様に感じていた。これか東京なんだ。でも次第に自分もその波に呑まれ生活していた。もう過去だけど。
「こんにちは。」
吉田のりんご園に着くと信司は芽の手入れをしていた。
「これ、元ダンナの所から送ってきたの。美味しいから食べてみて!本当よ。娘宛に送られてきたんだけど沢山あって食べ切れないの。」
信司はへぇ〜東京のお菓子かと言わんばかりに眺めている。
「東京は中学のときの修学旅行で行ったなぁ。アメ横?とかディズニーランドとか⋯。」
信司はあまり都会に興味がなさそうだった。
「ディズニーランドは千葉だね。」
私が訂正してやると、
「あっ!そうかぁ。」
信司は頭を掻きながら恥ずかしそうに笑った。
あはは、と私もつられて笑う。
「ご馳走様です。遠慮なく頂きます。親父はもうすぐ帰ってくると思います。」
祐司は地区の男性成年部の会合に出かけたのだという。
「あっ!そうだ。高橋さん、この芽見てください。」
新芽を栽培している箱を大事そうに見せてくれた。
「実は新種を試しでやってて。姫りんごより小さく一口サイズの、そのままパクッと食べられる感じ?そんでもって種なし。結局りんご離れの理由って、皮剥いて切るのが面倒だから、みたいらしくて。親父と農協の金田さんとそれから農大のお偉い教授?の先生と共同制作してて。シャインマスカットみたいに当ててぇな〜なんて。」
信司のこのキラキラした目が眩しくて直視できなかった。信司が大事そうに見せてくれたのはまだ発芽したばかりの艶やかな若い芽⋯。これから大きく育ち実をつけるまでまだかかりそうな、でも強ち直ぐに大きくなってしまいそうなその芽の成長を楽しみに待つとしよう。
「一応、仮称があって。」
信司が屈託なく笑う。
「えっ?仮称?」
何だろう。尋ねてみる。
「シンジ・トライって名前。」
「信司の挑戦かぁ。いいネーミングだね。」
シンジ・トライって誰が名付け親?なんて言いながら。ちょっと未来に期待してみた。




