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網目模様の途中  作者: 河野 与一
網目模様の解
104/105

表現の仕方

 「親父、東京と長野の大学両方受験してもいいかな?」

信司は父親の裕司に相談した。親父は何と言うだろうか。受験するのだってタダじゃない。大学へ進学するには受験料以上に授業料がかかる。勿論その他にも。長野の国立に進学すれば私立程にはかからないだろうが、全くお金がかからないという訳ではない。信司は頭の中で今までの貯金の額をざっと計算してみた。

「東京に行きたいのか?」

裕司はゆっくりとした落ち着いた口調で返事をした。

「東京の農大も魅力がある。農業の学問としては最高峰だと思う。」

信司は東京を視野に入れた理由を並べた。

「りんごの面倒もあるが、お前がやるべきことはシンジ・トライを成功させることなんじゃないか?その為に大学へ進学するんだろ?違うか?」

裕司からの指摘にぐうの音も出ない。裕司は更に付け加えた。

「俺は大学は一浪してる。勿論、元々りんご農家だから農業を深く学びたいという気持ちで農大を選んだけど、その時の俺は美佐子が好きで、彼女が東京の女子大に進学したと聞いて東京の大学を選び、上京してしまった。若かったよな。彼女はその時は他に付き合ってる男がいたようだし、俺は東京に出てきても彼女を探したり、ましてや会ったりなんて出来なかった。本当若気の至り、ってこの事だな。」

高橋さんと親父が若い頃は恋愛関係だったのか。今初めて聞くことだ。驚きもしたけどそんな感じも何となく感じてはいた。ふたりの纏う雰囲気が。

「お前、陽菜ちゃんが好きで彼女が東京に戻るかも知れないから東京の大学も考えたんだろ?」

親父には何もかもお見通し、って事か。

「好きな人の隣に何時もいたい、今の陽菜ちゃんの状況を見てると守ってやりたい、とも思うよな。男なら。お前を見てりゃわかるよ。そりゃあそうだよな。だけど、ずっと一生隣にいてあげるなんて不可能な事なんだ。結婚でもしない限り。否、結婚したって死ぬまで一緒にいるなんてあり得ない。そんなの現実的じゃない。俺と美佐子は東京にいた頃は一度も会ってない。そして互いに別のパートナーと結婚した。今はビジネスパートナーとしてやってるけどな。相手が一番幸せな形を願って背中を押してやったり、時には身を引いたり、見守ってやったり。そういったことも愛。愛の表現の仕方だと思う。俺は今まで生きてきてそう思えてきた。結婚とか、そういうお決まりの型式じゃない気がする。お前はまだ若いから陽菜ちゃんの全てを手に入れたいと思うだろうけどな。」

親父の言っていることがとてつもなく大きいものの様に感じた。陽菜が一番幸せな選択は?俺は何をしたらいいか?考えれば考えるほど、やはり長野に留まり地元の大学を受験しりんご栽培をしながらシンジ・トライを成功させる道に進むべきなんだろうと決心した。陽菜の為ではなく、自分の為に。そう思えた。


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