隔たり
華やかな成人式は終わり、陽菜は普段着に着替え長野へ戻る支度を始めた。あっという間の東京でのひととき。会場に入る際、大輝先生は私の手を握って守り誘導してくれた。それだけで。本当にそれだけで明日からまた頑張れそうだった。先生、頑張るから。絶対に看護師になるんだから。東京駅まで送ると申し出て車を運転する大輝の横顔を眺めながら決心する陽菜。車の助手席に座って横顔を眺められるだけで、もしかしたら「彼女」の位置にいられているのかもと勘違いする。勘違いでもいいの。助手席に座っていることは事実なのだから。
大輝は駅のホームまで陽菜を見送った。言葉は少ない。何を話題にしたらいいのかわからなかった。ただ成人式の時もそうだったが兎に角心配で、ホームまで陽菜を見送ってしまった。ふたりは特に会話は交わせず、新幹線の発車のアナウンスが無情にも響いた。陽菜は新幹線に乗り込む。陽菜の背中に
「待ってるから。」
と大輝は呟いた。
「えっ?」
発車のアナウンスで大輝の声がかき消されてしまう。
「ここで、東京で待ってるから。」
今度は大きな声で大輝は叫んだ。
陽菜は振り返り、返事をしようとするもふたりの間に新幹線のドアが閉まる。
「待ってるから!」
大輝が叫んでもドアの隔たりが邪魔をする。陽菜は大輝が待ってる、と言っているのを直ぐに察知し頷いた。無情に新幹線は走り出す。
「先生⋯待ってて!」
陽菜は返事をするも大輝には聞こえない。しかし大輝も察したようで陽菜の瞳をじっと見つめて動かなかった。新幹線はあっという間に高速走行し消えた。
先生⋯待ってて。必ず看護師になって迎えに行くから。
東京を出ると信司からLINEがあった。長野に着く時間を知らせてくれれば迎えに来てくれるという。信司の優しさや気遣いがありがたかった。そしてこれに甘んじていいのだろうかとも考え始めた。




