↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スペアノデレラ ―本命に選ばれなかった身代わり花嫁は、微笑んだまま壊れていく―  作者: 和三盆


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/5

第4話「知らないと、言えばよかったのに」

「知りません」


そう答えるつもりだった。けれど口から出たのは、それよりずっと重い沈黙だった。


エドヴァルドの視線が、便箋とミアの顔とを交互に往復する。書斎の暖炉の火が爆ぜて、影が揺れた。


「……ミア」


「見ました。あの部屋の、引き出しの奥にあった箱を」


嘘をつききれる自信がなかった。ミアは白状することにした。どうせ顔に出ている。子供の頃から、隠し事が下手だと姉たちにさんざん笑われてきたのだ。


エドヴァルドは驚いた様子もなく、ただ長く息を吐いた。まるで、いつかこうなると分かっていたかのように。


「勝手に人の部屋を漁って、悪いと思わないのか」


「思います。でも」


ミアは机の便箋にちらりと目をやった。細い筆跡。『レオンハルト様』という宛名。


「アネット様が、誰かのことを想っていたのは分かりました。旦那様のことじゃない、誰かを」


言ってしまってから、しまったと思った。婚約者だった女性の恋文の存在を、その相手である公爵の前で口にするなんて、あまりに無神経だ。ミアは俯いて、次の言葉を待った。


だが返ってきたのは、意外にも静かな声だった。


「知っている」


え、とミアは顔を上げる。


「アネットが誰を想っていたか、私は最初から知っていた。婚約は、家同士の取り決めだ。彼女の気持ちなど、誰も聞かなかった」


エドヴァルドは机の引き出しから、もう一枚、別の紙を取り出した。今度は達筆な男性の筆跡だった。


「レオンハルトは、うちの厩番だ。三年前、アネットの馬の世話をしていた」


厩番。貴族の令嬢と、馬番。その組み合わせの意味するところに、ミアは息を呑んだ。


「彼女が姿を消した日、レオンハルトも同時に姿を消している。私はずっと、二人が駆け落ちしたのだと思っていた」


「思っていた、というのは……」


「昨夜、その報告書が届いた」


エドヴァルドが差し出したのは、隣町の教会からの一枚の書状だった。ミアはそれを受け取り、文字を追う。読み終える前に、指先が冷たくなっていくのが分かった。


『――埋葬者、身元不明の女性一名。所持品より、フォンターナ家関係者と推定』


「アネットは、逃げてなどいなかった」


エドヴァルドの声は、初めて微かに震えていた。


「彼女は、殺されたのかもしれない」


暖炉の火が、また小さく爆ぜた。ミアは書状を握りしめたまま、次に自分が何を言うべきか、まだ見つけられずにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。