11話 魔王と勇者のプロポーズ
「そんなわけだからアルト、あたしたちも嫁にして!」
「どんなわけだよ!?」
俺は目を丸くして言った。
ここは俺の家の応接室。
ロザンナとニナが遊びに来たので、とりあえずお茶を淹れてやったところだ。
「アルト、ぼくのこと好きだよね?」
ロザンナが真剣な様子で言った。
ちなみに、ニナとロザンナはソファに座っている。
テーブルを挟んだ対面のソファに俺。
テーブルの上にはお茶と将棋盤。
俺、こいつらに将棋を教えようとか思ってたんだけども。
「そりゃ好きだけど……」
「ほら!」ロザンナが言う。「じゃあ結婚してもいいよね!?」
そういう好きじゃねぇよぉぉぉぉ!
危うく叫びそうになったけど、俺は「いやいや、落ち着け」と言った。
それはロザンナに言ったのか俺自身に言ったのかどっちだろう。
「あたしたちは落ち着いてるし! アルトが『うんいいよ』って言ってくれたら全部解決するし!」
「それ解決って言っていいのか!? てか、これって本当のプロポーズなのか!? 罰ゲームか何かなら今そう言ってくれ!」
俺の勘違いってことはないか?
なんせ俺は自分が神の領域に達してることさえ気付かなったんだぞ……。
ロザンナとニナが顔を見合わせて、「ほらね?」みたな表情を作った。
「アルト、これは罰ゲームじゃないし、ぼくたちは真面目にアルトのことが好き。恋愛的な意味でね」
マジかよ。
好かれてるとは思ってたけど、恋愛的な意味だったの?
俺にとって二人は近所の仲いい子、って感じだったので頭が混乱する。
こう、今日だって将棋を教えて上手くできたら褒めてあげようとか思ってたわけで。
エレノアよりちょっとお姉ちゃん、って感じの対応をだな……。
ああ、でもニナはもう20歳超えてんだよな。
ロザンナだって200年前よりずいぶんと成長している。
「なんでそんな難しい顔してるの!?」とニナ。
「俺の好きとお前らの好きは……すれ違っているっ!」
俺が言うと、ニナとロザンナが再び顔を見合わせて「やっぱりね」みたいな表情を見せた。
お前らめっちゃ仲いいじゃん!?
これもう世界平和か!?
だってニナは勇者でロザンナは魔王なんだぜ!?
神視点でロザンナを見ていた俺は、ロザンナが魔王だって少しも気付かなかったぜ!
この前エレノアと会話してて、実はロザンナが魔王その人だったと分かった時の俺の気持ちは想像を絶するぞ。
何回もこう、エレノアに探りを入れたからな。
「じゃあもうすれ違いは解消だね」ロザンナが真面目に言う。「ケーキはチョコレートがいい?」
「何のケーキかな!?」
「入刀するやつだよアルト」
うーん、人間の結婚式のやつぅぅ!
なんでロザンナまで人間式でやろうとしてんの!?
「じゃあ、あたしは苺がいっぱい乗ってるやつね!」
ニナが瞳をキラキラさせて言った。
「あー、言いにくいんだが、俺、新婚なんだよ」
「知ってる」ロザンナが頷く。「だからこれを機にぼくたちとも新婚になろう!」
「どんな機だよ!? ちょっと俺よく分からないけど!?」
「もうアルト!」ニナが言う。「一人娶ったなら二人も三人も一緒でしょ!?」
「一緒じゃねぇよ!?」
なんでこいつらこんな押し強いの!?
ニナとロザンナが顔を見合わせて「ダメか……」みたいな表情を浮かべる。
ほんっとうに仲良しだな!
「その、さすがに新婚の状態でお前らまで娶ったらサビナに悪いだろ……」
なんせサビナめっちゃ可愛いんだぞ……。
俺はサビナとの日々を思い出して頬を染めた。
それを見たニナとロザンナが勢いよく立ち上がって驚愕の表情を浮かべた。
「もしかしてアルト……」ロザンナが俺を指さす。「ラブラブなの……?」
そんな風に言われると照れるけど。
「まぁな」
俺は肯定した。
「終わったぁぁぁぁぁ!」ニナが叫ぶ。「もうこんな世界滅ぼそうロザンナ!」
えええええ!?
お前勇者じゃん!?
「落ち着け勇者!」
ロザンナがニナにビンタする。
けっこういい音がして、ニナが正気に戻る。
魔王に宥められる勇者ってどうよ?
「滅ぼすって言っても」ロザンナが言う。「サビナさんの地下帝国とかパンデモニウムとかどうする?」
「ケイオスをけしかけよう!」
「オッサンは今、オリュンポスだからこの世界にいないぞ」
あそこは絶対に別世界だ。
てか、なんでこいつら平気で邪神竜をけしかけようとしてんだよ。
さすがにパンデモニウムは滅ぶだろ。
地下帝国の方は俺もサビナの味方するぞ?
「アルト、それって神々の住む山?」とロザンナ。
「ああ。他にねぇだろ、オリュンポスって」
「実在したんだ!?」
ロザンナは酷く驚いた風に言った。
「なんなら光の女神も幼女になって生きてたぞ」
「幼女に!?」ニナが言う。「やっぱりアルトってロリコンなの!?」
「誰がロリコンだって!?」
俺は驚いてニナを見た。
もし俺が紅茶を口に含んでいたら、今のタイミングで噴き出してたぞ!?
「違うの!?」
「違う! もしそうなら俺は今エレノアと結婚してるだろうぜ!」
「あー! そういやノアちゃんも娘じゃなくて婚約者だって聞いたけど!?」
「まぁそうなんだけど、詳しくは今度話す。とりあえず、今はロリコン疑惑にケリをつけようぜ? 俺はロリコンじゃない。いいか? 俺はサビナとラブラブなんだ。サビナはロリか?」
「……違うけど……」
ニナが身体を揺らしながら拗ねた風に言った。
「ねぇ勇者」ロザンナが言う。「ぼくたちプロポーズに来たんであって、アルトがロリコンかどうかを暴きに来たんじゃないよね?」
「プロポーズはその……」俺が言う。「悪いんだけど、今はちょっと……」
「今はって言った!」ニナが俺を指さす。「アルト『今は』って言った! じゃあ、あとならいいってことじゃんそれ! うぇーい!」
「まぁ100年後ぐらいなら考えてもいい」俺が言う。「サビナとエレノアとも相談だけどな」
「死んでますけどぉ!? あたし死んでますけどぉ!?」
そういやそうか。
「仮に生きていたとしてもぉ! あたしヨボヨボですけどぉ!?」
ヨボヨボの新婦は俺も嫌だな……。
「別にそこはアルトの眷属になれば解決だと思うけど?」
ロザンナが淡々と言って、ニナが「それだ!」と目を輝かせた。
「おいおい、眷属ってのはあれだぞ? 人間辞めるってことだぞ?」
「別に未練ないけど?」
ニナがあっけらかんと言った。
「よく考えろニナ」俺は真面目に言う。「知り合いも友達もみんな死んでいくんだぞ?」
ヴァンパイアに比べて、人間は情に厚いからなぁ。
「大丈夫、魔界で新しい友達作るから」
「ええ!?」
驚いたのはロザンナの方。
「待って待って」ロザンナが言う。「お前、まさか魔王城に住もうとか思ってる?」
「頻繁に遊びに行って長生きの友達作るだけ」
ニナが親指を立てた。
「そ、そう……まぁ遊びに来るぐらいなら、いっか」
そう言って、ロザンナは再びソファに腰を下ろした。
いつまで立ってるんだろう、と俺も思っていたところさ。
ソファに座ったロザンナを見て、ニナも座った。
「なぁニナ、眷属の件は家族とも相談して決めろ」
「流れる時間の違いに耐えられず、自殺するかも」とロザンナ。
その可能性が実はあるんだよなぁ!
眷属になった奴って最初は「不死最高! 素晴らしい!」って満喫する。
で、長く時間が経過すると、さっきロザンナが言ったように病むわけ。
「うちの親はすぐオッケーすると思うけどなぁ……」
「た、確かに……」
「むしろアルトが結婚してくれるってなったら、すごい喜ぶと思うよー?」
「まぁそうだとしても、人間辞めるわけだし、相談だけしとけって」
「分かった! じゃあ今から行ってくる!」
ニナは急いで自宅に戻った。
残された俺は、とりあえずロザンナに将棋を教えて待つことに。
ロザンナが複雑なルールをある程度把握した頃、ニナが帰って来た。
「眷属になってもいいって!」
「いいのかよ!?」
ニナが俺に飛びついてきたので、俺はニナを受け止めた。
「じゃあ、本当に眷属にするぞ?」
「よろしくぅ♪」
あとでサビナに報告しないとなぁ。
眷属のことじゃなくて、100年後にこいつらとも結婚するかもって話。
あと2話で完結します!
9月17日にコミカライズ一巻が発売予定です!
本編は終わるけど、コミカライズを楽しんでね!




