4話 勇者は魔界を駆け回る
「却下でーす!!」
ニナが元気よく言った。
「何が!?」
俺はビックリして言った。
「今日は用事があったの思い出したから! 護衛には行けない!」
「お、おう。そうか。明日でもいいんだが……」
「無理でーす! あたし、しばらく忙しいって今思い出した!」
「そ、そっか。じゃあ仕方ねぇな」
まぁそんなこともあるよな。
俺も用事忘れてること割とあるし。
「そんなわけで」ニナが俺を押して家の外へと追いやる。「今日は忙しいからもう帰って!」
「ああ、またな」
「うん、またね!」
ニナは急いで玄関を閉めた。
相当、急いでいるようだ。
ふぅむ、どうしたものか。
一旦、家に帰るか。
◇
「鬼畜の所業じゃぁぁぁぁぁ!!」
ニナはアルトがいなくなったのを気配で確認してから、そう叫んだ。
「ちょっとどうしたのよ?」
ニナの母が慌てて寄ってくる。
「アルト結婚するんだって!」
「あら? ついに領主様も観念するのね」ニナの母は驚いた風に言った。「一体、どこの誰が領主様の心を動かしたのかしら?」
「その相手に贈る花を! あたしと一緒に採りに行こうって言われたぁぁぁ!!」
「あらあら……それは……ご愁傷様……」
ニナの母はニナの頭をナデナデ。
「それより、これで分かったでしょ? あんたも『領主様と結婚するぅ』なんて夢を見るのはやめて、無難な相手と結婚しなさい」
「今はそういうの聞きたくない!」
ニナが両手で耳を押さえてブンブンと首を振った。
やれやれ、とニナの母は溜息を吐く。
しばらくイヤイヤと首を振ったあと、ニナは急にキリっとした表情に。
「あたしちょっと魔王城に行ってくる!」
「あら? ロザンナちゃんのところ?」
「そう! 夕飯はいらないから!」
ニナは急いで自室に向かって、急いで着替えた。
(ポンちゃんポンちゃん緊急事態発生! すぐ来て!)
ニナは念話でポンティに連絡を取った。
次の瞬間にはポンティが【ゲート】で出現。
「ちょっとどうしたって言うのよ!」
「ポンちゃんって魔王城に行ったことある!?」
「ないわよ! カリーナだけでしょ、うちの仲間で行ったことあるの」
「そっか! じゃあ魔王城の一番近くまであたしと【ゲート】して!」
「何があったの? 魔王軍の再進撃? だとしたら全人類の危機……」
「違う違う! 今のあたしの気持ちを理解できるのってロザンナしかいないの!」
「だからどういうこと!?」
ポンティが言って、ニナは経緯を説明。
「ねぇニナ」ポンティは真面目な様子で言う。「そもそもアルト様、ニナの好意を知らないでしょう?」
「あんなにあたし積極的だったのに!?」
「はたから見てて思ったのは、こう、近所の女の子をあやしてる感じだったわよ?」
「そ、そんなぁぁぁぁあ!!」
ニナは愕然とした。
そもそも本気にされていなかった。
「でも! とりあえずロザンナと話したいから、連れて行って!」
「分かったわよもう……。てゆーか、なんで勇者が魔王に恋愛相談する気なのか……って、ああ、同志だったわね……」
「そう! ライバルであり、いけ好かない女であり、虫唾の走る女であり、同じ空気も吸いたくないけど!」
「……よくそれで話をしに行こうと思ったわね……」
ポンティは苦笑いしつつ言った。
「あたしが受けたショックと同じようなショックを! ロザンナにも受けてもらわないと!」
「せ、性格悪いっ!」とポンティ。
「ほら早く行こう!」とニナ。
「わたしが行ったことのある場所で、魔王城から一番近い場所って言っても、魔界の隅っこだから、そこから魔王城までどれほどかかるか……」
「本気で走って行くから大丈夫!」
ニナは自信満々で言った。
◇
「魔王様! 大変です!」
魔王軍情報部の者が慌てた様子で謁見の間へと駆け込んだ。
「何……? どうしたの?」
ロザンナは眠そうな目で玉座に座ったまま言った。
ロザンナの側に控えているアスタロトが、情報部の者へと鋭い視線を送る。
その視線で、情報部の者がビクッとなった。
「早く言って」とロザンナ。
「はい! 実は勇者が魔界を全速力で走っているんです!」
「……え?」
ロザンナは何を報告されたのかよく理解できなかった。
「勇者が! 一人で! 魔界を! 駆け回っています!」
「なんで!?」
ロザンナは勢いよく立ち上がった。
「人間との停戦は今も続いているはずだが?」とアスタロト。
「はい! ですから、勇者は特に攻撃などはせず、ただ走っているのです!」
「本当になんで!?」
ロザンナは訳が分からなくて頭を抱えた。
「ダイエットのためにマラソンをしているのでは?」とアスタロト。
「自分の家の近くでやればいいでしょ!?」
ロザンナはうっかりアスタロトの脇腹にパンチしてしまった。
アスタロトは「うぐっ」と脇腹を押さえた。
「あ、ごめんアッスー」
ロザンナが慌てて謝ると、アスタロトはグッと親指を立てた。
そして笑顔で言う。
「この痛みが愛しい……」
「え、キモイ……」
ロザンナがアスタロトから一歩離れた。
「それで勇者の目的地は分かるの?」
ロザンナは気を取り直して、情報部の者に言った。
「それは不明ですが、勇者がこのまま真っすぐに走りますと、ここがあります」
「そう、ここが……ここっ!?」
ロザンナは指で床を指した。
「はい! ここ魔王城でございます!」
情報部の者が力強く言った。
「あいつ本当なんなの……」ロザンナが憂鬱そうな声音で言う。「同じ空気吸いたくないし、虫唾の走る奴だけど、放置するわけにはいかないね……」
「何をしているのか聞きに行ってきましょうか?」
アスタロトが言って、ロザンナが首を横に振る。
「ぼくが行くよ。正直、戦闘になったらアッスーだとあいつに勝てないと思うし」
「まぁ勇者ですからねぇ……」
「そういうこと」
◇
うーん、困ったなぁ。
誰を俺の護衛にすればいいのだろうか。
エレノアは足手まといだしなぁ。
鍛えるためとは言っても、神々の宝を守ってる奴と戦わせるわけにはいかない。
普通に死んでしまうに違いない。
やはり勇者レベルでないと。
そんなことを考えながら、俺は安楽椅子でユラユラしていた。
時間はすでに昼下がり。
まぁ別に今日急いで行く必要はないし、ゆっくり考えよう。
あ、そうだ、リクはどうだろう?
って、そういやリクとニナどっちが強いのか問題を解決してねぇや。
ニナと同等なら全然余裕で護衛として連れて行けるんだけども。
「……俺の知り合い(武器は除く)で一番強いのサビナなんだよなぁ……」
サビナの顔を思い浮かべると、なんかちょっと照れるな。
「やっぱはぁちゃんと叢雲か?」
いや、はぁちゃんはナシだ。
またアマラントスを切り刻まれたら洒落にならない。
叢雲も同じ理由でナシだな。
はぁちゃんが斬ったことのある物は叢雲も斬りたいはず。
「あ! そうか! エクスカリバーがいるじゃねぇか! しかもあいつケイオスのオッサンと一緒にいるし、そのまま二人まとめて護衛にしちまおう!」
ケイオスのオッサンは俺より弱いけど、戦闘好きだからきっと進んで戦ってくれるはず。
それに、いくらケイオスが弱いと言っても、エクスがいればなんとかなるだろ。
よし決まり!
俺は立ち上がり、早速【アクティブサーチ】を広範囲に使った。
「お? この大陸にいるじゃねぇか。よしよし、とりあえず行くか」
俺は【ショートゲート】を使ってケイオスの背後に移動。
そこはどこかの森で、なぜかケイオスは泉で釣りをしていた。
ケイオス、エクス、それとヤギ頭が並んで釣りをしている。
夕飯でも釣ってんのか?
「なんだアルト? 俺様と戦いたいのか?」
オッサンが振り返って言った。
そんなわけあるかよ。
「ぎゃぁぁぁぁぁ! ヤバい奴だぁぁぁぁ!!」
オッサンと一緒にいたヤギ頭が悲鳴を上げた。
失礼だなおい!
つか誰だよお前!
なんかどっかで見たことあるような気がしないでもないけど!




