3話 気になる情報をゲット
天元の森は相変わらず清々しくて気持ちがいい。
柔らかな風が木の葉を揺らし、カサカサと音を立てている。
その音も耳に心地良い。
美しく伸びた木々の間から日光が差して、小さな天使のはしごを作っている。
俺はとりあえず深呼吸して、この場所に満ちている魔力を吸収。
いやー、闇に属していてもここは本当に気持ちがいい。
空気が清浄なのにいい気分って本当に不思議な森だ。
普通、俺たちアンデッドは瘴気の漂う森の方が居心地はいいんだけどな。
と、木々の間からドライアドたちがワラワラと集まって来た。
「やっぱりアルトきゅんだぁ!」
「どうしたのアルトさん!」
「お茶会!? お茶会する!?」
ドライアドたちが口々に言った。
歓迎してくれているっぽい。
いやぁ、美人のお姉さんたちに歓迎されると嬉しいもんだなぁ。
ドライアドたちが俺の腕に絡みついて、胸を押し当ててくる。
ここが、天国ってやつか!
俺はもう美人のお姉さんが好きだということを隠さない!
いや、元々隠してねぇけど。
って待て!
俺もうすぐ結婚するんじゃーん!
こんなことしてていいのか!?
サビナの顔が思い浮かんで、なんだか変な気分になってしまった。
これは――どういう気持ちなんだ俺!
罪悪感なのか!?
俺は結婚したことないし、よく分かんねぇ!
俺はコホン、と咳払いしてドライアドたちを優しく押しのけた。
ドライアドたちがキョトンと首を傾げる。
「こらこら、アルト君を困らせちゃダメよぉ」
ゆったりとした歩調でドライアドの女王ルフェールが歩いて来た。
全世界美女ランキングがあったら、ルフェールは間違いなく上位だ。
頭の上で揺れるアホ毛すら可愛らしい。
「やあ女王」
俺はとりあえず右手を上げて挨拶。
「もう、ルフェールって呼んでくれなきゃ嫌だよ、アルト君♪」
ルフェールは悪戯っぽい笑顔で言った。
「ああ、久しぶりだなルフェール」
俺が言い直すと、ルフェールはうんうんと頷いた。
「それでアルト君、今日はどうしたの? あ、とりあえずお茶会をしながら話しましょうか」
ルフェールが右手をスッと動かして森の奥を示した。
まぁせっかくだしお茶会すっかぁ!
俺は頷いてから、歩き始める。
ルフェールが俺の横に並んで歩き、他のドライアドたちは俺たちの後ろからついてきた。
そしていつものお茶会の会場に到着し、俺たちはそれぞれ席に着く。
ルフェールは相変わらず俺の右隣りに腰を下ろした。
そしてワイワイとお茶会が始まる。
今日のお菓子も美味いなぁ、なんて俺が思っていると。
「それでぇ? 今日はどうしたの? お姉さんに話してごらん」
ルフェールがまるで年上のお姉さんのように言った。
でも実は俺の方が年上である。
ルフェールは1000歳未満だったはずだ。
「ああ、えっと、ここにアマラントスが咲いてるって聞いて……」
「正確には咲いていた、ね」
ルフェールが肩を竦めながら言った。
「今はないってことか?」
「ええ。わたくしが生まれるよりもっとずっと前に、何者かが全部斬ってしまったとか」
はぁちゃあああああああん!
なんで全部斬ったのぉぉぉぉぉ!?
一輪ぐらい残してくれてもよくねぇぇぇ!?
って、そうか!
はぁちゃんは殲滅する系女子だったぁぁぁぁぁ!!
きっとアマラントスの斬り心地が良かったんだろうなぁぁぁ!!
「あら? その顔は、何か知ってるの?」
ルフェールが俺の顔を覗き込みながら言った。
「なな、何も知らない……。そんな悲しいことがあったのか、って思っただけ……」
俺の愛刀ですごめんさない!
はぁちゃん本当なんでも斬るじゃん!
ルフェールがふぅ、と溜息を吐いた。
「そういうことだから、ここにアマラントスはもう咲いていないの」
「そっかぁ、それは残念だな……」
「アルト君はアマラントスをどうするつもりだったの? 食べるの?」
「食べないけど!?」
いや、食べられるなら食べるかもしれないけど!
今回は違う。
俺はコホン、と咳払い。
「ちょっとその、プレゼントにしようと思って」
「女ね?」とルフェール。
「女だ!」「絶対女!」「どこのメス!?」「例の人魚!?」
なんかメイビーちゃんのこと知ってる!?
こいつら引きこもりのように見えるけど、実は美少年と美青年を求めて世界中をウロウロしてるんだよなぁ。
だから色々な噂話を知っていたりするのだ。
「メイビーちゃんじゃなくて、サビナにあげようと思って」
「半神!」「半神の領域に到達したヴァンパイア!」
「根暗引きこもり女!」「万年処女の干物!」
ドライアドたちはサビナのことも知っているようだ。
でもサビナは別に根暗ではないが!?
万年処女なのはうん、まぁ、文字通りなのだけど。
きっと本当に万年も処女なのは、世界中探してもサビナだけだろうなぁ。
「花を贈るなんて素敵ね」とルフェール。
「アマラントスが咲いてる場所って他にないか?」
「オリュンポス山になら咲いているかもね」
「オリュンポスか……」
知ってはいるけど、行ったことはねぇな。
確か神話の時代には神々が住んでいたとかいないとか。
「あそこはここと同じぐらい神聖な場所だから」
伝説の花が咲くには相応しい場所ってことか。
「オリュンポスって危険とかはないか?」と俺。
「え?」
ルフェールが酷く驚いた風に目を丸くした。
「なんか危ない連中が住んでるとか、恐ろしい魔物が住んでるとか、そういうのないか? 安全に行ける感じか?」
脅威があったら普通に怖いじゃん!
護衛連れて行かなきゃ!
まぁどっちにしても護衛は必要だ。
どうせ暇しているだろうし、ニナでいいか。
「えっと……? それは魔神ジョーク?」
ルフェールが曖昧な様子で首を傾げた。
なんだよ魔神ジョークって!
「真面目に聞いてるんだが?」
「えっと……それだと、噂では神々の神殿が今も残っていて、神の残滓が宝を守っているとかいないとか……そのぐらいね」
「そっか、ありがとう」
神々の宝か……めっちゃ気になるんですけど!?
ガチの神の宝ってことは、少なくともはぁちゃんとか叢雲とかエクスカリバーのレベルだろ!?
って、同じ話を昔聞いたことあったかも!
さすがに神々の宝を守ってる奴はヤバいだろう、ってスルーしたんだ!
サビナを連れて行ったらなんとか……って待て待て。
サビナのプレゼントを探しに行くのにサビナを連れて行くとか人としてどうよ?
しかも目的そっちのけで神々の宝を盗もうとしてるわけだし!
いやいや、そもそも俺は人じゃねぇ!
あと、神々はもういないんだから、俺が貰っても問題ないはず!
「アルト君、神々の宝を略奪するの?」
俺の表情を観察していたルフェールが言った。
「わぁ、さっすが魔神!」
「現代の魔神は違うねぇ!」
「何があったか教えてね!」
ドライアドたちが盛り上がった。
誰が魔神だよ!
まぁ神の宝を奪うなんて魔神の所業、って意味だろうけど!
「はは……どうかな……機会があれば、かな」
俺は曖昧に言った。
とりあえず今はアマラントスを優先しよう。
で、なんかこう、宝も手に入れられそうなら、ね?
俺たちはその後、世間話に花を咲かせつつお茶会を楽しんだ。
気付いたらだいぶ時間が過ぎていたので、俺は帰宅して普通に寝た。
いやぁ、ドライアドたちと話してると時間を忘れちまうなぁ。
◇
翌日。
俺は午前中の間にニナの家を訪ねた。
そうすると、眠そうなニナが目をこすりながら出てくる。
「あんたはもう! 領主様が来てるっていうのに!」
ニナの母がニナの尻をバチコーンと叩いて、ニナが飛び跳ねる。
どうやらそれで目は覚めたようだ。
てゆーか、20歳超えて母親にお尻を叩かれるってどうなの?
「それでアルト、遊びの誘い?」
「ああ、まぁ、ちょっと出かけるから一緒に行かないか? 俺の護衛として」
「うん! 行く行く! 護衛の訓練ね!」
「目的地はオリュンポス山で、アマラントスって花を探しに行くんだ」
あわよくば神々の宝も……。
「花? 何かすごい花なの?」
「まぁな。その花をサビナにプレゼントしようと思って」
「……サビナさんに? 花を? なんで?」
「うん? 俺、サビナと結婚するかもしれなくてそれで……」
「はい!?」
ニナが目を剥いて驚いた。
まぁ唐突だもんなぁ。
俺も驚いたし。
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