2話 俺、結婚すんの?
俺は安楽椅子でユラユラしながら将棋の本を読んでいた。
「ねぇアルト、その本の著者、だぁれだ?」
人間形態で部屋の中を物色している羽々斬ことはぁちゃんが言った。
ついでに叢雲も人間形態でちょこんと床に座っている。
「ん? 有名な人なのか?」
「永世八冠だよ!」
「永世八冠!?」
あまりの人物に、俺は仰天した。
タイトル8個を何回も取ったってことだろ!?
頭おかし……いや、マジもんの天才じゃねぇか。
俺もチェス大会で優勝したことあるけど、それとは次元が違う。
俺はゴクリと唾を飲み込んでから、本の著者を確認する。
本のタイトルは『初心者は棒銀で斬れ!』で、著者は『天野はぁちゃん』である。
あれぇ?
どっかで聞いたことあるような名前だなぁ。
俺は本の著者名を見て、はぁちゃんを見て、また本の著者名を確認した。
「ふんふん♪」
はぁちゃんが胸を張ってドヤドヤのドヤって感じの表情を見せる。
お前かぁぁぁぁ!!
やっぱりお前かぁぁぁ!
はぁちゃん本まで出してるのかよ!!
強いと思ったわ!!
てか永世八冠!?
何してんの!?
刀なのに何してんの!?
って、そうか、この将棋ってゲームははぁちゃんの母国のゲームか!
「それ読み終わったら次はこれね」
はぁちゃんが亜空間から別の本を取り出す。
タイトルは『居飛車は世界を斬り咲く』だ。
何が咲くんだろうな!
「そんな質の悪い本よりも、こっちがいいですわ」
叢雲が亜空間から別の本を2冊取り出す。
ちなみに、叢雲の姿ははぁちゃんより少しお姉さんって感じで、黒い髪をポニーテールに括っている。
こう、女武士って感じの見た目だ。
ものすごく美人だけど、なんか近寄ったら斬られそう。
ちなみに叢雲が出した本のタイトルは『初心者は四間飛車』と『振り飛車こそ至高の思考』だった。
なんか気取ったタイトルだな!
きっと気取った奴が書いたんだな。
そんなことを思いながら著者を確認すると、『草薙叢雲』だった。
……叢雲ぉぉぉぉぉぉ!!
お前もかぁぁぁぁぁぁ!!
「ふん。はぁちゃんが引退してからやっと8冠取れたくせに」とはぁちゃん。
「はぁ? ここでどっちが上か決めましょうか?」と叢雲。
二人が睨み合って、それから叢雲が将棋盤を亜空間から取り出す。
俺はホッと安堵した。
なんせ、こいつら普通に斬り合いを始めることもあるので。
二人は淡々と駒を並べ始めたので、俺は本の続きを読むことに。
ああ、今日も平和だ。
そうして少し時間が経過して、エレノアが【ゲート】でこの部屋に出現。
「よぉ」と俺。
「アルト様、今日はお話が……ってこいつら……いえ、こちらの方々は神刀様たちでしょうか?」
エレノアがはぁちゃんと叢雲を見て怯えた様子で言った。
俺は「ああ」と頷く。
「そ、そうですか……二人は何のゲームを?」
「チェスに似たゲームだ。1000年は遊べるぞ」
「そんなにっ!?」
エレノアが目を丸くして驚いた。
「あとで教えてやるから、やろうぜ」
「分かりました」とエレノアが頷く。
「それで話って?」
「はい。アルト様には新たなる始祖の義務を果たして頂きたいと思いまして」
「ん? 義務?」
そういや、俺ってば何もしてねぇな。
魔王軍四天王としても、ヴァンパイアの新たなる始祖としても。
って、待て待て。
別に新たなる始祖って言っても、やることなくね?
精々、エレノアが大人になったら結婚して種族の数を増やすぐらいだろ?
「はい。種族の繁栄のため、サビナを側室に迎えてください」
「おお、サビナを……え?」
「サビナの了承は得ております故、何の問題もありません。わたくしが正室として嫁ぐのは、1000年は先でしょう? しかしサビナはすでに大人。今すぐ繁殖可能です!」
エレノアはキラキラした瞳で言った。
「ちょ、ちょっと待ってくれエレノア。ちょっとでいい」
俺は本をサイドテーブルに置いて、目を瞑って深呼吸。
ええっと……。
サビナと俺、結婚すんの?
サビナは了承済み?
マジで?
いや、まぁ、サビナはいい奴だから、種族のためなら側室に入りそうだけども。
いや、俺もヴァンパイアの男性体として、責任は果たすつもりでいるけれども。
なんというか、その、唐突すぎんだよぉぉぉぉぉぉぉおお!!
「アルト繁殖しますの? それはいいですわ!」
「わぁ、アルトが増えたら楽しそう♪」
叢雲とはぁちゃんが将棋の途中で話に加わった。
てか、なんでお前らノリノリなの!?
そしてエレノアも我が意を得たりとばかりに頷いているっ!
「つきましては」エレノアが真剣な様子で言う。「二人の結婚式なのですが……」
もうそこまで話が進んでんの!?
俺たちヴァンパイアだけど人間みたいに結婚式するの!?
俺は別にいいけど、サビナはどうなの!?
「はぁい! 結婚ならはぁちゃんもする!」
「はぁちゃんがするならわたくしも!」
なぜかはぁちゃんと叢雲が手を上げた。
上げんな上げんな。
降ろせ降ろせ。
これにはエレノアも困惑気味だ。
「お前ら二人が結婚したら解決じゃね?」
俺はふと思いついたことを言った。
一瞬にして沈黙が訪れ、はぁちゃんと叢雲がお互いに見つめ合う。
まさか、いけるのか!?
こいつらそれもアリなのか!?
「ないわー」
「ないですわねぇ」
なかったようです。
「エレノア」と俺。
「はいアルト様」とエレノア。
「一旦、一旦ちょっとサビナと話をしてから決めてもいいか?」
「そうですね。結婚式はお互いの意見も大切でしょう」
なんでそんな普通っぽいこと言ってんのぉぉぉ!?
エレノアなのにっ!?
精神的にちょっとは成長してるみたいで俺は嬉しいよ!
出会った頃のエレノアなら、サビナの意見はスルーして勝手に決めてそうだもんな!
「斬殺は欠かせないわね」とはぁちゃん。
「ええ。盛り上がりますわ」と叢雲。
お前らは結婚式をどうするつもりなの!?
こいつらは呼ばない方向の方がいいかも!
って、落ち着け俺。
まずはサビナと話そう。
結婚式のことじゃなくて、側室に入ることについて。
あと、側室に入るとして、いつ入るのかとかも。
「あ、結婚式は来年には挙げて頂きたいですね」とエレノア。
はえぇぇよぉぉぉ!
「アルト様の感覚だと100年後とかになりそうですので」
うぅぅん、よく分かってるぅぅぅ!
「って、なんでそんな急なんだ!?」
俺が言うと、エレノアがキョトンとする。
「わたくしたちは絶滅危惧種ですよ? 早い方がいいに決まっているじゃないですか」
うーん正論。
俺はコホンと咳払い。
「とにかく、一度、近いうちにサビナと話すから、それから決めよう」
「分かりました」エレノアが頷く。「それとアルト様、サビナと会うなら花の一つぐらいは用意した方がいいでしょう」
だぁかぁらぁ、なんでエレノアなのにまともなこと言うの!?
「我々ヴァンパイアは結婚を宣言してそれで終わり、という文化ですが」エレノアが言う。「花を貰ったら普通に嬉しいものです」
そうなんだよなぁ、俺たちヴァンパイアは結婚式をしない。
つまり、エレノアはこの前のブルクハルトの結婚式に影響された可能性が高い。
何にでも影響を受ける年ごろかっ!
「花ならアマラントスがいいですわね」と叢雲。
「不滅の花か」と俺。
アマラントスは宝石のように赤い花で、永遠に枯れないとされている。
正真正銘、伝説の花だ。
ぶっちゃけ見たことないんだよなぁ。
「実在しているのですか?」とエレノア。
「はぁちゃん斬ったことあるし」
伝説の花を斬った奴がいるぅぅぅ!!
って驚いている場合じゃない。
アマラントスが実在するなら、確かにプレゼントしては最高だ。
「それでどこに咲いてんだ?」
「うーん……前は天元の森にあったと思うけど……」はぁちゃんが言う。「今もあるかは知らない」
ふむ。
天元の森ならドライアドたちに聞いたら分かりそうだな。
よし、とりあえず明日にでも行ってみるか。




