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万年を生きる平和主義ヴァンパイア、いつの間にか世界最強に ~俺が魔王軍四天王で新たな始祖? 誰と間違ってんの?~  作者: 葉月双
アマラントスの花束を君に

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1話 アルト、知らないところで結婚が決まる


 ここはとある秘湯、瘴気温泉。

 エレノア、サビナ、リッチ、レヴァナントの四人が温泉を楽しんでいる。

 サビナとリッチはエレノアが誘って、レヴァナントは勝手に付いてきた。

 エレノアとレヴァナントは温泉の端から端まで泳いで、リッチが「やれやれ」と溜息を吐く。


 サビナはそんな少女二人を温かい目で見ていた。

 エレノアはサビナの前まで泳いで、そこで立ち止まる。

 レヴァナントもエレノアの近くで泳ぐのを止めた。

 ふぅー、と長い息を吐いてから、エレノアは「サビナ」と真面目な声音で言った。


「ん?」とサビナがエレノアに視線を向ける。


 コホン、とエレノアが咳払い。

 どうしたのだろう、とサビナが首を傾げた。

 一緒に泳いで欲しいのだろうか? とサビナは思った。

 この年になって温泉で泳ぐのはちょっと恥ずかしいかも、とも思った。


「あー、ヴァンパイアクイーンとして、サビナに頼みがあるのだが」

「うん。なぁに?」

「アルト様の側室になってほしい」

「アルト君の側室に……」


 泳ぎとか全然! 少しも関係なかったっ!

 あまりにも温泉と関係のない話題だったので、サビナは一瞬、何を言われたのか理解できなかった。

 でも一瞬だけだ。

 次の瞬間にはその意味を完全に把握した。


「アルト君の側室!?」


 勢いあまって立ち上がるサビナ。


「うむ。正室はわたくしなのだが……」

「うん! そうだよね! クイーンだもんね!」


 サビナは両手でバチャバチャと水面を叩きながら言った。


(めっちゃお湯が飛んでくるが……)とリッチは思ったけど言わなかった。

(サビナ様も焦るんだなぁ)とレヴァナントは思った。


「わたくしがアルト様と結婚できるのは、1000年は先の話なのだ」エレノアが説明する。「しかし、種族のことを思えば、今すぐにでもサビナにバンバン子を産んで欲しいのだ」


「バンバン!?」


 サビナは顔を真っ赤にして体をクネクネと動かした。


「種族の繁栄のためと思って……」

「うんうん!」


 エレノアの言葉の途中で、サビナが力強く頷いた。


「そうだよね! わたしたち、絶滅危惧種だもんね!」


(ふぇへへ、合法的にアルト君を抱けるっ! わたしっ! ついに! 万年処女を脱することができるぅ! ひゃっほー! 合法だぁ! 合法だよぉ!)


 サビナのテンションは雲を突き抜けるレベルで高くなっていた。

 なんせ、サビナはずっと長いことアルトとあんなことや、こんなことをしたいと思っていたのだ。

 その欲望を鎮めるために瞑想して、気づいたらニルヴァーナに到達したこともある。


「分かってくれるかサビナ!」

「もちろん! さすがクイーン! 種族のことをよく考えてるぅ!」


 サビナはエレノアをムギュっと抱きしめる。


「あばばばば……潰れりゅ! わたくし潰れりゅ!」


 エレノアが悲痛に叫んだので、サビナはパッとエレノアを解放する。

 危うく最後のヴァンパイアクイーンが昇天するところだった。


「ご、ごめんね……?」とサビナ。


「あ、うん……」


 頷きつつ、エレノアは一歩後退してから肩までお湯に浸かる。

 サビナはえへへ、と申し訳なさそうな表情をしつつ、その場で肩までお湯に浸かった。


「あとはアルト様を」リッチが言う。「説得するだけですね」


「それが一番の問題」とレヴァナント。


「え?」サビナが目を丸くする。「……アルト君も、その……承諾してるんじゃ……」


「先にサビナに声をかけたのだ」とエレノア。


「そ、そっかぁ……」


 サビナのテンションは地の底に到達するレベルでだだ下がった。


「そのために、今日誘ったのだ」

「そっかぁ……」


(わたし、告白もしていないのにフラれる可能性が……)


 サビナは戦々恐々とした。

 上げてから落とすとはこのことか、と思った。


「アルト様も種族のためなのだから、断ることはあるまい」


 エレノアが自信満々でそう断言した。


(ほ、本当かなぁ~?)サビナは思う。(普通のヴァンパイアなら、そうだろうけど……アルト君だし……)


 ザ・不良。

 社会不適合者。

 反社会的人格のヴァンパイア。

 それがサビナの知っているアルトだ。


「それでサビナよ」エレノアが言う。「アルト様の側室になる時、人間風の結婚式を行って欲しいのだ」


「え? 何それ? どうやるの?」

「地下帝国の人間どもは、結婚式を挙げんのか?」

「……しない。ヴァンパイア流だよ」


 つまり、結婚を宣言するだけで、特に何もしないということだ。


「ふむ。では説明しよう」


 エレノアはブルクハルトの結婚式の様子をサビナに話した。


「そ……そんな面倒なことを……?」サビナが引きつった表情で言った。「いやでも……アルト君は不良だし、そういうの好きそうだけど……」


「ともかく、結婚式を盛大に挙げて、全世界に見せつけて欲しいのだ」


(ふははは! そうしてアルト様を狙う他種族のメスどもを牽制するのだ! ふはははは! 本当わたくし頭いい!)


「まぁ……それはいいけど……その、エレノアは平気?」


「平気とは?」とエレノアが首を傾げた。


「わたしが……その、アルト君と……イチャイチャして……」

「他種族ならムカつくが、サビナなら同種だし、わたくしは問題ない」

「そういうことじゃ……ないけども……」


 サビナは少し困った。


(エレノアはたぶん、恋愛感情を理解してないよね……)


 エレノアがアルトを大好きだというのは、見ていてサビナも分かった。

 ただ、その大好きは恋愛感情に至っていない。

 その証拠に、エレノアはキョトンとしている。

 あるいは、とサビナは思う。


(クイーンとしての責任が……恋愛感情を閉じ込めているのかも?)


 エレノアの案は完璧だ。

 ヴァンパイアの繁栄という一点において、最後の男性体であり、新たなる始祖アルトがサビナを側室に迎えるのは当然の帰結だ。


(わたしがニルヴァってる間に、この小さな肩に……)


 サビナはエレノアをジッと見つめる。


(最後の女性体としての責任、最後のクイーンとしての責任が……)


 そう思うと、サビナはほぼ無意識にエレノアの頭を撫でた。

 エレノアは怪訝な表情をしたが、特に嫌がる素振りは見せなかった。



 サビナがシリアスな思考をしていた時のエレノア。


(はっはー! これで勇者と魔王をバッチリ牽制できるぞっ! 実に素晴らしい! わたくしってば策士! そもそもアルト様ほどのお方なら、側室を持って当たり前! どうせわたくしが正室だというのに、わたくしの心情を気にして頭を撫でるとは! サビナは意外とコントロールしやすそう! チョロイぞサビナ! チョロビナ! チョロビナ!)


 とか思っていたのだった。



「王手飛車取り」


 人間形態の羽々斬がパチンと将棋の駒を置いた。


「……『待った』いいっすか羽々斬さん……」


 アルトは引きつった表情で言った。

 自分の結婚が自分の知らないところで決まっているなど、露ほども思っていないアルトは、羽々斬の部屋で羽々斬と将棋を楽しんでいた。


「またぁ?」羽々斬がやれやれと肩を竦める。「チェス得意だから将棋なんて余裕、って言ってたくせにぃ?」


「……お、俺が悪かった。チェスと将棋は全然別のゲームだ」


 そもそも、取った駒を自分の仲間として使うってどういう了見なんだ? 洗脳魔法でもかけたのか? とアルトは思った。

 どうであれ、複雑すぎるだろう、と。


「まぁ仕方ないよね? 初心者だもんね?」


 羽々斬がニヤニヤと笑いながら駒を戻す。


「ぐぬ……」


 アルトは羽々斬に何度もボコボコにされているのだが、諦めるつもりはない。

 この複雑さなら1000年は遊べるだろう、と思っていた。

 そう、アルトはまだまだ少なくとも1000年遊んで暮らすつもりなのだ!

 いつの間にか結婚が決まっているなど、本当にまったくこれっぽっちも考えていないのだ!



月曜18時に隔週更新の予定です。

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