6話 騎士ブルクハルトの結婚・後編
ニナは意外とダンスが上手だった。
そういや、身体を動かすのは子供の頃から得意だったか。
ドレスに身を包んだ20歳のニナは、少女ではなくすでに女性だな、と俺は思った。
まぁ、胸の大きさと性格は脇に置いておく。
音楽が終わって俺とニナはお互いに礼をしてダンスを終える。
そうすると、今度はカリーナが俺にダンスを申し込む。
こういうのって男が申し込むもんじゃねぇの!?
いや、俺の認識が遅れてるのかも!
とりあえず、断るのも悪いので俺はカリーナともダンスを楽しむ。
チラッとエレノアを探すと、ロジャーと一緒に用意されていた食事を山盛り食べている。
いや、本当に皿に山盛りなんだよな。
自分で自由に取って食べていい立食形式なんだけど、お前らだけバクバク食って目立ってんぞ!
しかも。
「いまいちだな」とエレノア。
「ああ。これならアルトさんの家のリンゴの方が美味い」とロジャー。
王城の料理がいまいちなわけなくね!?
いや、俺も料理にはそこそこ自信あるけども!
リンゴも美味い自信あるけども!
「アルト様、ダンスの時はあたくしを見てください」
「あ、悪い」
カリーナが拗ねたように言って、俺はダンスに集中することに。
そして2曲目が終わって、俺とカリーナはお互いに礼をする。
ふぅ、久々に踊ったなぁ。
俺は壁の方へと移動。
そうすると、ブルクハルトが一人で寄ってきた。
大広間では3曲目が流れ始め、ニナがポンちゃんとペアを組んだ。
「結婚おめでとう」
「ありがとうございます、アルト様」
ブルクハルトが胸に手を当てて、小さくお辞儀した。
それから、壁にもたれるブルクハルト。
お前、主役なのに壁の花になるつもりか!?
「ところでアルト様は再婚しないので?」
「え?」
初婚もまだだが?
俺が首を傾げると、ブルクハルトは視線をエレノアに移した。
ああ、そっか、エレノアは俺の娘って設定か。
そうだよなぁ、娘ってことは母親がいるってことで。
つまり、俺が以前は結婚していたとブルクハルトが考えても不思議じゃない。
「そのうち、相手がいたら、って感じだな」
俺は曖昧に返事をしておいた。
「……エレノアちゃんは」ブルクハルトが小声で言う。「見た目が少しも変わりませんね」
おっとぉ!?
「いえ、いいんです」ブルクハルトが小さく首を振った。「今のは忘れてください」
「んー、別に隠してねぇし、前にも言ったけど俺たちヴァンパイアなんだよなぁ」
「……ニナと海水浴に行ったと聞きましたが?」
「いやいや行くだろ海水浴ぐらい!」
「ヴァンパイアは行きませんよ!?」
ブルクハルトが酷く驚いた様子で言った。
俺も驚いたわ!
お前にヴァンパイアの何が分かると!?
いや待て。
確かに俺たちは太陽や光が苦手だし、幼い頃なら普通に灰になったりするけども。
えっと、太陽は克服できるんだけど、説明するのが面倒だな。
「ま、あれだ。魔族ではあるんだ」
「そうですか」
ブルクハルトが小さく肩を竦めた。
「えっと……?」
「いえいえ、気にしないでください」ブルクハルトが慌てた様子で言う。「俺は別にアルト様を問い詰めたわけではなくて、なんとなく人間ではなさそうだな、とは思っていたので……」
「見た目的に!?」
「いえいえ! 見た目はその……その……」
「いや、いいんだ」
俺はブルクハルトの肩をポンっと叩いた。
俺の見た目が怖いことを、俺は知っているっ!
「あはは……、とにかく楽しんでくださいね」
ブルクハルトはそう言い残し、妻の方へと移動した。
俺はその後、ポンちゃんともダンスをして、なんだかんだパーティを楽しんだ。
そして宴もたけなわ、ブルクハルトの妻がブーケトスを行うと宣言した。
ブーケトスってのは人間たちの変わった習慣で、花嫁がブーケを投げて、それを受け取った奴が次に結婚するらしい。
二階席にいるブルクハルトの妻が、ブーケを右手に掲げる。
そうすると、女性陣の目がギラついた。
「このブーケには」ブルクハルトの妻が言う。「大聖女様の祝福が授けられています!」
「「おおぉ!!」」
会場が一気に盛り上がる。
ニナとカリーナもブーケを取る気満々だ。
ポンちゃんは少し迷っているように見える。
ロジャーは興味なし。
「アルト様、何が始まったのです?」
エレノアはこの習慣を知らないので、キョトンとしている。
俺はブーケトスについて説明した。
「ふむ。わたくしには関係ありませんね。大聖女の祝福とかヤケドしそうですし」
確かに!
アンデッドに大聖女の祝福はよろしくない。
いや、まぁブーケを見た感じ、それほど強い祝福じゃないから平気だとは思うけども。
「さぁ、次の花嫁、あるいは花婿は誰ですのぉぉぉ!?」
大きな声でそう言いながら、ブルクハルトの妻がブーケを全力投球。
女性陣がブーケの軌道を目で追う。
ちなみにルールとして、ブーケが自然に落ちたところにいる人が受け取るはず。
そうでないと、ニナみたいな身体能力の高い奴が取っちゃうからな。
あ、もちろん男性が取ってもいい。
国によっては、受け取った男性はそのブーケを意中の女性に贈ってプロポーズするというのもあったはず。
俺はそんなことを思いながらぼんやりブーケを眺めていた。
そうすると、ブーケが目の前に来たので、とっさに両手で受け取る。
あれ?
これ俺が受け取っても仕方ないんじゃ……。
俺が結婚するのって1000年以上未来のことなんだが……。
そしてやっぱり祝福は大したことないので、特にダメージとかはない。
でもエレノアは俺から少し離れた。
ブーケちょっと光ってるから嫌だったのだろう。
「ブーケは大聖者アルト様が受け取りました!」
そう高らかに宣言したのはブルクハルト。
大広間に歓声と拍手が沸き起こる。
それから、悔しそうにハンカチを噛む女性もいた。
「ははは……なんかすまん……」
俺は苦笑いする以外どうしていいか分からなかった。
結婚式には何度も出席したけど、ブーケを受け取ったのは初めてのこと。
とりあえず花は綺麗だし、帰ったらちゃんと花瓶に挿そうと思った。
◇
ブルクハルトの結婚式から数日後。
エレノアは自宅に副旅団長のリッチを呼び出した。
「それでエレノア様、相談とは?」
応接室のソファに腰かけたリッチが淡々と言った。
エレノアはリッチの対面のソファに座って、「うむ」と頷く。
(どうせまたロクでもないことを思いついたのでは?)とリッチは思った。
「知っていると思うが、わたくしは先日、結婚式とやらに参加した」
「ええ。勇者パーティの騎士の結婚でしたね」
「わたくし、ふと思ったことがあるのだ」
「ええ。何でしょうか?」
「わたくしとアルト様が結婚するのはずっと先の話だろう?」
「ええ。そうですね」
(アルト様はロリコンではないし)とリッチが頷く。
「しかし!」エレノアは急に立ち上がって拳を握る。
リッチはビクッとなった。
「そんな遠い未来までヴァンパイアの繁栄を待たねばならんのか!? 否だ!」
エレノアは真剣な眼差しで言う。
「アルト様が今すぐ! サビナを側室として迎えればいいのだ!」
「はい!?」
リッチはない目が飛び出るかと思った。
「つまり結婚だ! 当然、正室はクイーンであるわたくしであろう! しかし! サビナを側室として迎え、今すぐヴァンパイアを増やせばいいのでは!?」
「あ、はい……」リッチが複雑な表情で言う。「エレノア様はそれでいいので?」
「当然だ。わたくしはヴァンパイアの繁栄を心から願っているのだ」
(それに半神のサビナがいれば、アルト様を狙う他種族のメスどもを牽制できるっ! わたくし天才! ヴァンパイアも増えて一石二鳥!)
エレノアは心の中で自画自賛した。
「そ、そうですか……」リッチが言う。「しかし、アルト様が他の女性とイチャイチャするのは許容できるので?」
「サビナなら許せる」
エレノアはサビナとは仲がいいし、サビナは数少ない同族なのだ。
「それにリッチよ。さっきも言ったが、正室はわたくしだ。更に言うと、アルト様ほどのお方が、側室を持たない方が不自然。そして側室に相応しいのは唯一、サビナだけ!」
ドーンと小さい胸を張ってエレノアが言った。
「……分かりました。まぁ、反対はしませんよ。種族的にはいいことでしょうし」
「うむ。ではまずはサビナに話そう。ふっふっふ、アルト様の側室を断るはずがないからな!」
これでExtra storyは終わりです。
次章は『アルトの結婚』を予定しています。




